イベントレポート詳細Details of an event

第88回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN クロージングセミナー
 「AI時代のリノベーション」

2017年12月14日(木) 開催
講演会/セミナー

プログラミング表現を意識しながら進める建築表現

 

 こちらは、2006年と2014年に手がけた「南洋堂ルーフラウンジ」です。南洋堂さんは神田神保町にある建築専門の書店で、ご存知の方も多いと思います。「屋上に何かつくってほしい」ということで、南泰裕氏・今村創平氏・私の3人のグループでプロジェクトにあたりました。施主の最初の要望は“看板”だったのですが、周囲の建物に店舗の看板が多いこともあり、「普通の看板をつくっても仕方ないな」ということで、目立つものをつくろう、ということになりました。
 穴を開けた円形屋根と柱を屋上に配置し、屋根面の軒裏をステンレスの鏡面仕上げにしています。屋上の木製デッキを朱色に塗っているので、それが屋根面の軒裏に映り、下から見ると、屋根が朱色のように見える訳です。木製デッキには足湯スペースも設けています。
 その8年後の2014年に、デザインをリノベーションしました。鉄骨の構造体はそのままとしてイメージは継承し、鏡面仕上げの円形屋根を取り除き、縁取り部分に新しいフレームをつけたかたちです。
 こういうアートはライフサイクルが短いので、気軽にいろいろなことができます。また、コストもさほどかかりません。当初のデザインはインパクトがあるものでしたが、時代の変化も踏まえて、このデザインは軽やかな浮遊感があるカタチにまとめています。

 

 マンション住戸の事例として、板橋区のマンションのリノベーションを紹介します。元は2DKで、いわゆる51C型に近いプランニングだった部屋で、現在の東京のライフスタイルには合わないということで、「1ルームにリノベーションしたい」という依頼がありました。
 時代に合わなくなってリノベーションをするのであれば、今後も時代に合わなくなる、ということがあるので、「変化を許容する」ものにしたい、と考えました。また、マンションにはファサードに相当するものがない。外観はマンションの全体のものであって、自分の家の顔ではない。そこで、自分の家のアイデンティティとなる外観のようなものを室内に設けたい、ということで細い板のような引き戸の建具を配しています。自由に動かせ、間仕切ることもできるし、一つの空間にすることも可能です。
 住みながら、自分の住むカタチを自由に決めていってほしい、というのが、このリノベーションの趣旨となります。実際に暮らしている様子を最近取材させてもらい、それがこの写真です。このように、とてもきれいに使っていただいていて、建築家冥利に尽きます。

 

 最後の事例として、先程の「大地の芸術祭」の中で手がけた「妻有田中文男文庫」を紹介します。
 高名な大工棟梁である田中文男氏の蔵書の寄贈を受け、木造2階建ての古民家の1階を改修してライブラリーをつくるというプロジェクトです。図書館をつくるのは法律的にかなりハードルが高いのですが、この古民家は地域の公民館として使われていた経緯があり、公民館であれば図書館をつくってもよく、用途変更にならないということでした。それで法律的にもリノベーションがOKとなり、この写真のように改修しました。
 単なる“蔵書のライブラリー”ではなく、幾つかポイントがあります。古い床の間や欄間をあえて残し、古いものと新しいものがほどほどにミックスされた状態をつくる、ということを意識的に行いました。さらに、リアルな書籍と韓国のアーティスト、カイ・アイランさんによる“光る本”アートを混ぜて置いています。そうすることで、先程述べた対比構造を生み出しています。
 そもそも、本自体に対比構造が内包されています。本は日常的なものですが、その中に書かれていることは非日常的な内容であり、日常と非日常のジャンクを行うのが本という存在であると言えます。それを象徴的に示すために、本と“光る本”という対比構造をつくり、日常性と、非日常の典型のようなアートをミックスしています。
 集落の人たちが公民館として使用していた古民家としての日常性と、新しいアートライブラリーの非日常性を半々で見せるという対比構造、つまり、日常と非日常が揺らぐような状態をどのようにつくれるか、というプロジェクトでした。本棚には厚さ3cmのムク板を使っていて、断熱材にもなり、耐震補強にもなっています。万能の本棚構造と言え、リノベーションのルールブックのような本に掲載もしていただきました。

 

リノベーションにおけるプログラミング表現戦略」についてまとめますと、そのポイントとして挙げた、「現代を相対化する対比をつくる、プロセス・変化を表現する、制度・形式の辺境にアクセスする」の3つを、事例の中で具体的に見ていただけたかと思います。こういうことを意識的に行うことで、リノベーションもプログラミング表現になっていくのでは、と考えるところです。

 

 今後、AI時代は間違いなく訪れます。ご来場者には若い方も多いと思いますが、これからの職能を考えるなかで、AIの存在を意識せざるを得ないでしょう。リノベーションだけではなく、建築表現を行っていく際に、プログラミング表現を意識しながら進めるのは大切だと思い、今日の話をさせていただきました。
 ご清聴、ありがとうございました。

 

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