イベントレポート詳細Details of an event

第88回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN クロージングセミナー
 「AI時代のリノベーション」

2017年12月14日(木) 開催
講演会/セミナー

リノベーションにおいてこそ、未来を創造するプログラミング表現が重要となるのではないか?

 

 ここで、AIとリノベーションについて整理しましょう。
 AIは人間の存在の意味を問いかけています。AIが人間の知能とは何か、職業とは何か、営みとは何かを問いかけている中で、人の営みの連続性を表現するリノベーションにおいてこそ、未来を創造するプログラミング表現が重要となるのではないか、と考えます。

 

「リノベーションにおけるプログラミング表現戦略」について、私が手がけた事例を交えてお話していきます。リノベーションを行う上で、これを盛り込まないと未来につながらない、という具体的な項目は次のものとなります。
 一つ目は、「現代を相対化する対比をつくる」ことです。「古民家、かっこいいよね」「古い工場、面白いよね」というようなことをノスタルジーであると思うとき、“過去”を強調しています。過去を相対化することが目的になっていますが、そうではなく、未来につなげるためには、現代を相対化しなければいけない。つまり、現代を相対化する作業を行えるかどうかが重要になります。そうしてこそ、過去・現代・未来のつながりをつくれると思います。
 二つ目は、「プロセスの変化を表現する」ことで、これは、ユーザーのリテラシーを上げるのにつながります。先程述べましたが、リノベーションは既存建物があることでユーザーとコミュニケーションをとりやすい。そのため、啓蒙的なコミュニケーションを行い、ユーザーのリテラシーを高めやすい、と言えます。
 三つ目は、「制度・形式の辺境にアクセスする」ということです。実際にリノベーションを行われた方はご存知でしょうが、既存不適格などの制度の壁があります。しかし、構造などは、改修時には現在の法律に合わせなくてもよいというルールもあります。そのため、既存の制度や形式をギリギリで表現し、概念を拡張すること、つまり現代を相対化することが手法としてある、と考えます。

 

 私の作品をご覧いただきながら、実際例を見ていきましょう。
 こちらは、新潟県十日町市にある「越後妻有清津倉庫美術館」です。古い小学校をリノベーションして美術館としたもので、一部は2015年にオープンしていて、全館オープンは2018年になります。
 入口から対比の構図が現れていますが、既存の校舎に新しい建物がくっついているようなカタチになっています。私がリノベーションを手がけるときは、だいたいこのような手法をとるのですが、全面的に新しくはしないで、古いものと新しいものが常に見えている状態にするよう心がけています。
 一番大きな展示室は旧体育館でして、構造の分解点から下部はすべてリノベーションして、コンクリート壁を屋内につくるなど、建築行為としてのリノベになっています。一方、上部は体育館の趣をそのまま残し、その対比構造が存在するかたちです。過去と現代、日常と非日常空間の対比と言えると思います。 
 ポイントになるのは、「倉庫美術館」の“倉庫”という言葉でして、プロデューサーの北川フラム氏が、美術館の意味を変えよう、ということで考えたものです。美術を見て帰るだけの美術館ではなく、美術品と来場者の日常をもっと近づけよう、と。現在の美術館で一般的な、ガラスケースに美術品がきれいに入っていて、それ以上立ち入ってはいけないというラインを引くのは、或る意味、「美術品はあなたの生活とは関係ないですよ」と言っていることにもなります
 この美術館はそこを壊したい、とつくったもので、“倉庫”ということから、美術品は展示されているのではなくて、置いてある。見る対象ではなく、そこにある物体であり、「あなたの生活と関わりのあるものでもある」というメッセージになっています。そのイメージを空間としても表現したかったので、上部の旧体育館であった“日常”と下部のリノベーションした“非日常”が揺らぐような空間をつくろう、と考えた訳です。外観も下半分を新しくし、上半分はそのままとしています。
 通路や階段にもそういう対比構造があり、一画にはホワイトキューブの展示室もあり、整った展示室があることが、先程の旧体育館の展示室との対比にもなります。こういうことから、美術館とはどういう場所か、美術品とは自分とどういう距離感のものであるか、ということを問いかけています。現代の美術館の概念自体を相対化するための仕掛けとして、リノベーションを行っている、と言えます。

 

 次は、山中湖の近くにあるマンションをリノベーションした事例でして、個人のライブラリー「犀の目文庫」です。施主は元編集者の方で、膨大な蔵書を持っており、それを収蔵するために、リゾートマンションの一住戸すべてをライブラリーにするというプロジェクトでした。
 住機能空間を本棚で埋めるデザインがなぜ成り立つかというと、リノベーションだからです。マンションの新築時の設計はアントニン・レーモンドが行っていて、一流建築家が手がけた“超デザイナーズマンション”なのですが、さすがに築40数年経つとかなり低価格になる。そのため、施主はこのマンション内に2住戸を購入し、1戸は住居用とし、1戸をライブラリーとしている訳です。
 つまり、マンションという住戸単位でできている空間をどう使うかという概念は、リノベーションであれば、簡単に変えられます。これが新築の1億円のマンションだとすると、そんな使い方はできない。低価格の古い建物だからこそできる、と言えます。

 

 これは、新潟県の「大地の芸術祭」のものです。アーティストの倉谷拓朴氏と一緒に行ったもので、住宅ではなく、展示施設です。
 ここでは、プロセスを共有することでコミュニケーションをとることが要点となり、例えば、プロセス自体をデザインできるよう、写真のように、茅を集めました。茅葺き屋根のリノベーションのため、プロジェクトに関わる人たち皆で茅集めから始め、アーティストの倉谷さんも加わっています。
 このプロセスを通して、地元の人にアートイベントを受け入れてもらうコミュニケートが可能になり、その中から新しい形式が生まれるのではないか、というプロジェクトでした。

 

 次の事例は、墨田区にある演劇・音楽スタジオ「M.M.C スタジオ」です。元々工場だったところをスタジオにリノベーションしたもので、築80年ほどを経ていて、曲がった柱などがあったのですが、それもそのまま残しています。
 象徴的な門型は、壁下地用の角スタッドを仕上げとして使ったもので、こういうラフさもリノベーションの魅力だと思います。また、かなりの部分を劇団の方がセルフリノベしていて、そういう楽しさもリノベの特徴だと言えます。

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