イベントレポート詳細Details of an event

第88回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN クロージングセミナー
 「AI時代のリノベーション」

2017年12月14日(木) 開催
講演会/セミナー

最近の事例から読み取る、リノベーションの傾向

 

 最近のリノベーションの事例を見ていきましょう。
 ご覧いただいている“リノベーショナリズムの誕生”という文言の「リノベーショナリズム」は、私が考えた言葉です。或る傾向を持つリノベーションが増えていて、それが社会的に広がっているということで、“イズム”と言えるのではないかと思い、そう名付けました。
 これはリノベーションしたカフェの写真です。木を多く使い、天井をはがし、配管が見えています。一昔前は、こういう天井の見せ方は好まれませんでしたが、今は、天井が高くてリラックス感が高い、というように思われるようになっています。
 こちらは、市庁舎だった建物をリノベした「立川まんがぱーく」です。市庁舎をまんが喫茶風にするという発想自体がリノベっぽく、建築計画学というより、庶民の日常感覚でできている。先程のカフェと同じように、天井がはがれていて、これはリノベーショナリズムの共通点と言えます。写真からわかるように、いわゆる公共施設の有り様とはかなり変わってきていて、普通の人が「普通にこうありたい」という感覚が反映されている。こういう即時性は、既存の建築計画学に則って図書館をつくろうと思っても、なかなか出てこない発想だと思います。

 

 次はマンションのリノベの事例です。一見、仕上がってないようにも見えますが、完成形です。ドアが片面しか仕上がっていなかったり、部屋が区切れていなかったり、あえて完成度を低くしていて、リノベーションではこういうのもOKになります。
 この戸建ての事例も同様で、床・壁・天井が全部とられています。床をとって土間にしたり、壁をとって本棚風にしたり、手摺りがざっくりした納まりだったりなど、一見、完成度が低そうに見えることをオシャレに感じるところが特徴で、低コストでいいものができる、ということだと思います。
 こちらも戸建の事例で、床に溝があって、建具を自由に変えられるようになっていて、空間に変化をつくれる仕組みです。今までの事例と同じように天井もはがしていて、これはリノベーショナリズムの鉄則と言えます。
 最後の事例は、団地のリノベです。建築デザインというより、普通の人が「普通に気持ちいい」と思う日常的なストーリーとして構成していて、天井がはがれ、木を使い、白色が多いです。

 

 リノベーショナリズムに共通して見られるデザイン様式をまとめると、次のようになります。
 一つ目の特徴は自由な形式です。既存の形式にとらわれずに、日常生活の中での自然な感覚を反映するように仕上がっている。二つ目は未完成の表現。きれいに完成させない、ということを許容する。三つ目は構造・下地・設備の露出。四つ目は穏やかな表現で、前衛性などはあまりなく、普通の人の日常的な気持ちよさを重視した表現だと言えます。
 これらが、現在の日本に見られるリノベーションに共通して見られることです。ただし、世界的な傾向とは関係ありません。
 では、こういう「リノベーショナリズムはプログラミング表現か?」ということについては、何とも言えないと思います。
 新しい様式を生み出した点ではプログラミング表現ですが、事例で見たように大量生産され始めると、対象に関係なく、天井をはがす例のように同じようなことが行われる。そうなると、自動化が進んでいることになるので、リアライジング表現のほうに入ります

 

 ここで、「ノスタルジー」について考えてみましょう。ノスタルジーはリノベーションのポジティブな動機になる、と言えます。
 リノベーションの動機には、景気低迷や空き家の問題などネガティブな動機が多いのですが、それだけではないでしょう、と。先程のリノベーショナリズムの事例にもあったように、独特のノスタルジーが存在し、古い建物にはあらがいがたい魅力や失われたものへの憧れがある。また、過去があるから今がある、というような時間の連続性が与える存在確認にもつながります。
 最近のリノベーションの事例の中で、ノスタルジーに訴えるものを紹介しましょう。ご覧いただいているような、東京芸大の学生さんだった方が谷中のアパートを改装したアートスペース、アルミサッシを木製サッシに変更した公団マンションのリノベ、徳島県神山町の民家のリノベとして有名な「えんがわオフィス」などがあります。

 

 このようなノスタルジーに訴えかける背景概念は何かと言うと、「未来につながるノスタルジー」なのではないかと感じます。過去があるから現在があるということは、現在があるから未来があることにつながらないと、本来的に人間にとっての希望や可能性にはなりません
 ノスタルジーは或る意味、デザインのタブーのように言われています。なぜなら、新築ではノスタルジーをつくるのは難しい。しかし、リノベーションはノスタルジーを内包できる表現であり、だからこそ時間の連続性を表現できる形式である可能性を持つ。つまり、未来につながるノスタルジーを内包できるかどうかが、リノベーションの勝負どころである、と言えると思います。

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