イベントレポート詳細Details of an event

第88回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN クロージングセミナー
 「AI時代のリノベーション」

2017年12月14日(木) 開催
講演会/セミナー

「プログラム・リアライズ・コミュニケート」という建築表現の3つのプロセス

 

 本題である、AIと建築についてのお話に入りましょう。
 まず、「AIは建築表現の生成に有効か?」についてです。先程、建築の仕事がAIにとられるかどうか、という話がありましたが、果たしてそうなるのでしょうか。我々建築家の他に、AI建築家が出てきて、AI建築家がつくった作品ばかりが『新建築』にずらっと並ぶような時代になるのか、というような話ですが、「有効か?」という問いに対しては、現時点では、「一部分は有効」という回答となります。
 では、その「部分」とはどこか。「部分」があるということは、建築表現は一枚岩ではない。他の多くの職業と同様に、建築設計は何段階かの複雑な職能で構成されていて、そのプロセスを大別すると、「プログラム・リアライズ・コミュニケート」の3つとなります。
 プログラムは概念を生成することでして、新しいイメージを生成し、既成概念を超えた“意味”の創造、ということになります。「新しいイメージの生成」は、「コンセプトをつくる」「イメージング」などの言葉で表現されるもので、簡単に言うと、今回はこういうデザインにしてみよう、こんな建物をつくってみよう、とイメージすることです。
 リアライズは、プログラムにカタチを与える段階です。プログラムのイメージを現実化するため、敷地に合うように法律・構造・地域の風土・要求される間取りなどをクリアして、“建築”のカタチにまとめていく。具体的には、設計図をつくる作業などが、この段階に相当します。また、クライアントの個性を含めての、さまざまな状況の調整も必要となります。

 

 一般的な芸術表現の中には、プログラムとリアライズの2段階で完成するものもあり、例えば、絵画や彫刻などが挙げられます。しかし、建築表現はそうではなく、コミュニケートの段階が必ず入ります
 コミュニケートは実体化したものを提示して、社会に問われ、見られ、使われる段階です。このプロセスがないと、建築は“建築表現”とはならず、単なる空間を持った彫刻みたいなものになってしまう。社会的なコミュニケーションと共に存在するのが建築表現であって、それが建築の大きな特徴だと考えます。そのため、コミュニケートの段階はとても重要で、その段階での結果が次のプログラムの基盤になってきます。
「こんなカタチをつくりたい」という建築表現が突然ひらめくか、というと、それは難しく、また、そういうものを世に出しても、社会から拒絶される可能性が高い。コミュニケートの結果として何かしらのものが提示されているのが、建築のプログラムだと思います。
 誤解がないように付け加えますと、この3プロセスのプログラムは、誰かが組んだプログラムを指す名詞としての意味ではなく、「プログラミング」という意味合いでの動詞です。アクションとしての“プログラム”でして、プログラムをつくる、という意味です。

 

 そこで、先程の話に戻り、AIが「部分」として建築表現に関われるプロセスはどこかと言うと、概念を実体化するリアライズの段階だと言えます
 多くの条件を学習して、そのデータをロジカルに解析・解決していくという論理的なプロセスについては、AIは得意であるはずです。プログラムができあがっていて、それを敷地にアジャストして設計図面をつくるというリアライズのプロセスには、近い将来、AIが入ってくるのかと思います。現に、今のCADの一部はそういう機能を持っており、今後、その精度はかなり上がってくると考えられます。 
 一方、プログラムとコミュニケートのプロセスについては、AIは苦手だと言えます。ひょっとすると、次の世代の「汎用AI」でも、あまりできないかもしれません。その最大の理由は、コミュニケートができないことだと思います。
 建築表現には芸術性があります。新しい芸術表現が世の中に現れたとき、受け手は正確な反応をしているかというと、そうとは言えない。例えば、ロックミュージックが最初に登場したとき、世の中には強い拒絶反応があり、ピカソなどの絵画が出てきたとき、ほとんどの人が理解できなかった。そういうリアクションは芸術表現にはつきものです。

 

 先程のディープランニングでは、AIが出力層の段階で○か×かを判定できることで、再び入力層に戻れ、その繰り返しによって正解の精度を高められます。しかし、芸術表現の判定は人間が行うので、AIだけでは出力層から入力層に戻れない。そうなると、ディープランニング自体が不可能になります。
 さらに、建築表現はリアクションに時間がかかります。新築当初は満足していても、「10年経ってみると、メンテナンスにもコストがかかり、住み心地も悪かった」というように、評価がまったく変わったりすることもあります。つまり、最終的に近い反応を得るのに時間がかかる。高速で学習できるというAIのメリットを最大限生かすことができない訳です。
 先程述べたように、建築表現はコミュニケートを前提にしてプログラムをつくらないと、受け入れられることは難しい。プログラム・リアライズ・コミュニケートのサイクルでは、AIがコミュニケート不全を持つがゆえに、苦手なプロセスとなります。AIが芸術的表現に向かないというのは、この特徴に尽きると思います。

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