イベントレポート詳細Details of an event

第88回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN クロージングセミナー
 「AI時代のリノベーション」

2017年12月14日(木) 開催
講演会/セミナー

「弱い”AI”」と「強い”AI”」

 

 次は、「AIがBuzzword(バズワード)であるがゆえに、市場や政治に都合よく利用されやすいのでは?」という項目について見ていきましょう。
 バズワードは「もっともらしいけれど、実際には定義や意味が曖昧な用語」として流行り言葉的に使われたり、権威ある専門用語っぽい言葉として使われたりもします。「クラウドコンピューティング」「ユビキタス」「マルチメディア」などの例が挙げられ、科学的な定義は曖昧ですが、こういう言葉をつけると、もっともらしく聞こえます。「この製品はマルチメディア対応ですよ」とか、「当社はクラウドコンピューティングのサービスを提供しております」と言うと、なんとなくそれっぽくて、利用しやすい言葉になる。AIにも同じようなことが言えるのかな、と思います。
 建築関係では「IoT(Internet of Things モノのインターネット)」、「CAD キャド」などの言葉が日常的によく出てきます。「CAD」という言葉が世の中に出てきたとき、「computer-aided design」の略で、コンピューターがデザインをサポートしてくれる、と聞きました。なかなかすごいモノが出てきたなと思ったのですが、その後、「computer-assisted drawing」となっていて、作図を支援してくれるだけだった。そういう曖昧な言葉なのですが、「CAD使っています」というと、それっぽく聞こえるかとは感じます。
「サステイナブル」「エコ」「スマートハウス」なども、かなり曖昧に使われている。その中に、「リノベーション」という言葉もあり、単なる「改修」とは違うニュアンスを持つことが多いかと思います

 

 バズワードの例を見たところで、本題に戻りましょう。一見、明確に定義されていそうな「AI」がなぜバズワードなのかと言うと、我々が思っている「AI」が何種類かに分かれることも関わっています。
 この写真は将棋電王戦のものでして、コンピューターと人間が戦って、コンピューターがだいたい勝っている。こちらは自動運転車の様子。また最近は、“近い将来、AIに奪われる可能性が高い職業”について聞くことも多くなっていますが、根拠はかなり曖昧だと言えます。
 こちらは、いわゆるAIアシスタントの写真です。今のコンピューターのOSには、コルタナなどの音声認識機能のソフトが入っていて、話しかけたことに応えてくれる機能に特化した、グーグルのスマートスピーカーです。
 こういうシーンや商品が、AIについてなんとなく話しているときに皆が抱くイメージかと思います。

 

 ところが、AIにはいろいろな分類があり、各々の特徴があります。簡単に言うと、次の2つの分類について知っておくと、理解が広がるでしょう。
「弱いAI」と「強いAI」という分類があり、アメリカ人哲学者のジョン・ロジャーズ・サール氏が使い始めた言葉です。サール氏は、AIをこの2つに分け、「強いAI」に反対していて、つくるべきではない、という立場をとっています。 
 どういう立場をとるかは別にして、「弱いAI」「強いAI」に分けることは、各々の明確な概念を示すと考えます。これまでお話してきたAIは、すべて「弱いAI」についてです。ただし、AIに奪われる可能性が高い職業については、一部、「強いAI」もあります。
 2つの違いは何かと言うと、「弱いAI」は基本的には人間の命令で動き、限定的な答えを出します。例えば、将棋に勝つという目的のためだけに知的作業を行う。その部分だけに関しては、ディープランニングの技術で深めることができ、問題解決能力はドンドン高まります。
「強いAI」は、人間の脳をシュミレーションしているものです。構造的にも処理的にも人間の脳と同等なので、人間の命令で動く訳ではなく、自律的に「何を考えるか」まで考え、「汎用AI」と言われます。専門家の間では、「強いAI」を「AI」という言葉では呼ばない、という動きも出ています。
 今は「弱いAI」の時代で、ディープランニングによって、限定的な領域での問題解決においては人間の知能以上の能力を発揮し、実際に社会の役に立っている。一方、「強いAI」は、専門家には「汎用人工知能 /AGI(Artificial General Intelligence)」と呼ばれており、現在の技術では不可能、というのが大方の見方です。

 

シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉を聞いた方もいらっしゃると思いますが、AIが人間の脳の能力を超え、世の中が激変する科学的な特異点が訪れるという学説です。やがては来るのでしょうが、それがいつかが問題で、今言われている中では、2050年くらいという説が多いです。
 2050年というと、我々が生きている間に来ることになりますが、今世紀中には来ない、という説もあります。ただ、シンギュラリティが訪れると、いろいろな問題が出てきます。人間の知能と同等なので、人格や市民権の問題が生じ、そもそも制御ができないものとなるため、人間がAI に支配されるのではないか、というような議論もあります。
 こういう「弱いAI」「強いAI」という世代が違うAIを、今、我々は一緒くたに議論している。専門家はそうではありませんが、一般的な議論では、「弱いAI」と「強いAI」の話が混ざっていることが多い。そのため、「AI」という言葉はバズワードになっているわけです。
「AIというのは、何となく怖いなあ」とか、「AIは面白そうだな」というようないろいろな意見が出てくるのは、「AI」の概念をかなり曖昧に捉えて話をしているからだ、という背景があります。
 このあたりまでが、AIの超基礎的な知識と言えます。

 

AIは仕事がしたいのか?」というテーマについて見ていきましょう。
 先程、“近い将来、AIに奪われる可能性が高い職業”の話が出てきましたが、建築界でも、「設計はAIでも、できるんじゃない」と言われたりもします。そういうことを聞くと、本当にAIは仕事をしたいのか、という疑問が浮かびます。AIが本当に知能であるならば、人間と一緒ということです。人間は、何ができるかできないか、ということより、元々やりたくないことはやらない。あらゆる人が、あらゆることを行うわけではない。なので、AIに仕事を奪われることを気にしても仕方がない気がします。
「人工知能」と呼んでいるわりには、人間の目線だけで考えているから、仕事を奪われるというような話が出てくる訳で、AIが知能であるならば、AIにも意志が存在するので、AIがやりたくないことはやらせないほうがいい。ただ、今はまだ「弱いAI」の時代なので、AI自体がやりたいかどうかを考えることはなく、基本的には人間が命令して、限定的な問題を解決させている段階です。

 

 AIが兵器に使われるのではないか、という議論もされています。現に、AI兵器は今も山ほどあります。
 ご覧いただいている絵で見ますと、人間がAI兵器をコントロールしている状態でして、これは、まだ安心材料だとは言えます。最終的には人間が判断して、攻撃をしている。しかし、AIが対象を見て、敵か味方かを自動判別するようになると、人を殺傷するのに、人間の判断が介在していない状態になるのではないか、ということが議論されています。
 ところが、その議論でさえも、まだ「弱いAI」についてのものです。AI兵器が人を殺傷したいと思って、そうしているわけではなく、人間がAI兵器に判別と実行の命令を与え、それに従って動いている状態です。一方、AIが自分で判断して、自分が殺傷したいものを攻撃するようになると、AIをコントロールしていた人をも殺傷する可能性が出てくる。それが、先程述べた「汎用AI」の能力となってくる訳です。

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