イベントレポート詳細Details of an event

第87回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN セミナー
「ガラスが空間に及ぼすニュアンス」

2017年12月7日(木)
講演会/セミナー

世の中の価値観を変えるようなアイデアのきっかけを感じ取れるように、心を自由にしておく

 

倉本 ここからは、ちょっとこぼれ話的なことを述べていきます。
クリエイティブ・インスピレーション」という言葉がありますが、一つのキーワードとして、新しい発見が生まれる土壌について、お話したいと思います。冒頭に述べた、事務所をどうつくるかという内容につながるのですが、いろいろなことがその場で起こり、アイデアが生まれやすい“土づくり”と言いますか、土自体がスタジオにならなければいけない、と考えています。最初に、事務所は「きれいになりすぎないほうが良い」という話をしましたが、スタジオの有り様によって、いいアイデアが生まれたり、生まれなかったりします。
 我々の事務所では、共有スペースが作業空間になっています。各デザイナーがいろいろな作業をしますが、できるだけお互いのアイデアに口を挟む、というスタイルです。担当を設けてはいるのですが、別のプロジェクトに当たっているデザイナーが、「それいいよね」「ここは変えたほうがいいんじゃない」というように、口を挟むことを良しとしています。
 そうしていても、なかなか口を挟めないこともあるのですが、いかにして遠慮をなくして、口を挟める状況をつくっていくかが大事だと思っています。事務所メンバーの仲がいいというのも大切ですが、同じ空間でテーブルを並べながら、一緒に作業する時間もとても大事だと感じます。
 同時に、リサーチもできるだけ深くしたい。しかも、フランクな状況のなかで、相手の本音を聞き出せるように取り組みたいと思っています。お茶やお菓子をつまみながら話し合う状況がよく、かしこまった状態だと本音がもらえなかったりするので、できるだけフランクに話せる機会をつくるようにしています。

 

 また、アイデアを企画するときにこうありたいな、ということがあります。
 この写真は、実は同じ場所から見ていて、「View Point / View Area」という言葉が関わってきます。家具デザインで有名なイームズ夫妻がつくった「Powers of Ten パワーオブテン」という映像でして、宇宙全体から始まり、右に進み、下に進み、というようになっています。見た目が全然違うのですが、同じところから見ていて、解像度が異なるだけです。
 広い宇宙の端っこから見ていき、ドンドン中に入っていくと地球があり、その中にアメリカがあり、サンフランシスコがある。その公園に男性がいて、その人の中に入っていくと、細胞にまで至る、という内容です。
 この映像はモノゴトの本質を表していると感じるもので、同じところから見ても、眺める範囲や見る場所によって事象自体が変わってくる。仏教の教えにも近く、人間の死や生物の死にまつわる話があります。例えば、葉が枝から離れ、地面にはらはらと舞い落ちる。葉という視野で見ると、それは葉の死であるかもしれないが、少し引いて木として見ると、木の一つの新陳代謝に過ぎない。さらに引いて、山として見ると、落ちた葉は養分になり、木も一つのピースでしかない。モノゴトのアイデアを出したり、企画したりするときの状態は、こういう見方に近いな、と感じます。
 一元的にこれが正しい、ということはあまりない。デザイナーとしてアイデアを出すとき、ある視野を何度も出たり入ったりして繰り返して考え、一つのアイデアに対していろいろな評価を自分の中に持ちたい、と思っています。

 

 ここで、千利休の話を紹介しましょう。ご存知の方も多いと思いますが、“割れ茶碗”のエピソードがあります。
 それまで、窯出しの際に割れている茶碗は不良品でしかなかったのですが、千利休が割れ方の美しさを誉めたことで、当時の人が割れ茶碗を評価するという風潮が広まりました。しかし、割れ茶碗自体は何も変わっていない。ただ、物事を見る角度・場所、視座を千利休が与えたことで、世の中の価値観が大きく変化しました
 これは大好きな話でして、デザイナーとして、こういう視座を大切にしたいと思っています。常識も大事で、かつ常識の反対側にあることも、同じくらい価値があるものとして捉えていきたい。ただし、この話には「割れ方が良かった」ということも関わっているので、そこも見ないとダメで、千利休の目と、既に成功している利休がそう言うのであれば世の中の人もそう思う、というような、複合的なことが起こったのだ、と感じます。
 世の中の価値観を変えるようなアイデアのきっかけを感じ取れるように、心を自由にしておくことが、クリエイターとして仕事をしていくなかで、とても大事だと思います。

 

 もう一つ大事にしていることが、“脳”についてです。
 コンセプトワークでアイデアを出すとき、脳で考えているように思いがちですが、脳は新しいモノゴトをつくりだすようにはできていない、と感じます。脳はすでに経験した事象を結びつけて、“新しそうなこと”をする「編集」には向いている。例えば、夢は脳がつくっていると思いますが、飛ぶ夢をみたとしても、それは空を飛ぶ鳥を見て、飛べない自分をそこにつなげて、新しいモノゴトをつくったかのように編集しているだけだ、と感じます。
 本当に新しいことは、私たちの体の中からは出てこない気がします。そのため、新しいモノゴトに出会ったとき、それに気づけるような状態に自分の脳や体を保っておく必要がある。いい意味での「アクシデント」に出会ったとき、ポジティブに変換してアイデアに変えていくことが大事だと思っています。
 このことは、偶然に頼るしかないわけです。例えば、我々の事務所の公共スペースで、A君がソファのデザインをしていて、B君は「それ、いい花瓶だね」と言ったとすると、その商品は、もう「花瓶」のほうがいいかもしれない。ソファのデザインを花瓶に間違えたということですが、これが「アクシデント」でして、偶発的に次のステップに進む変化が起こる状況をいかにつくるかが大事だな、と。それには、各々の心構えも関わってきますが、そういう土壌を生む舞台装置としての事務所の環境も大切だと考えます。

 

 我々が事務所でよくやるのは、「とにかく手でつくってみよう」ということです。手でつくっていくうちに、素材が教えてくれたりします。
 脳で考えて、こういうカタチになってほしいと思っても、なかなかそうはいかない。例えば、メッシュにはメッシュの行きたい方向があり、その素材の声を聞きながら、形状・状況・ニュアンスや気配をうまくデザインに取り込んでいかないと、いびつなものになってしまう。手でつくっていくうちに目の前でモノが展開し、それを「アクシデント」として捉えながら、より良い方向に結びつけるアプローチをとっています。
 無数の失敗作の中から偶然生まれたものをデザインに取り込んでいく。素材が教えてくれるものは合理性があり、そこに構造が生まれ、無理なく材料を使うことができます。
 大学時代に教えていただいた特別講師の柳宗里氏の言葉に、「手で考え、心でつくる」というものがあり、これを肝に据えながらデザインを続けています。
 今日はありがとうございました。

 

1 2 3 4 5 6 7