イベントレポート詳細Details of an event

第87回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN セミナー
「ガラスが空間に及ぼすニュアンス」

2017年12月7日(木)
講演会/セミナー

デザインの情景や成果を先に見据えておき、そのなかのピースを一つ一つデザインしていく

 

倉本 素材に対して、より深くフォーカスしていく契機になった仕事について、お話します。
 マテリアルのライブラリーで、「Material ConneXion マテリアルコネクション」という組織があります。世界中には、いろいろな素材をつくり続けているメーカーや研究者がいて、日々、新しい素材を開発しています。
 マテリアルコネクションは、それらの素材と、その素材を用いて製品をつくる企業やデザイナーを結びつけるための組織です。マテリアルライブラリーを備えており、イタリア発祥で、現在は世界の7カ所ほどにライブラリーがあり、東京もそのうちの一つです。この組織から声をかけていただき、「今ある技術にデザインのアイデアを掛け合わすことで、何か新しい商品ができないか」という依頼がありました。
 そこでつくった一つが、このフルーツボウルです。いろいろなものに使えるトレーでして、真ん中が肉厚になっており、間に、熱圧プレス成形を施した発泡ポリエチレン(水泳用ビート板と同様の素材)が封入されています。
 熱圧プレス成形の工場に見学に伺い、成形の様子を見たのですが、「布も挟み込める」ということで、靴の中敷きが製品例ということでした。そういう話を聞きながら、技術だけでもとても面白いので、そこを最大化して何かできないか、ということで、このデザインを考えました。

 

 同じマテリアルコネクションとのプロジェクトで、メッシュトレーもつくりました。コインやキーなど、ポケットに入っているようなものを置くトレーでして、メッシュなので透けています。
NBCメッシュテック」という、メッシュの専門会社があり、“NBC”のNは日清製粉の頭文字でして、小麦粉をきれいに選別するメッシュを開発しようということで、日清製粉がつくった組織です。さまざまな素材でメッシュをつくるうちに、いろいろなものができることがわかり、研究開発を進めて成長し、会社として独立したかたちです。
 この会社の製品のなかに、立体的に成形されたメッシュがあり、それはエンジンのオイルフィルターでした。不純物を取り除くためにエンジンの形に合わせる必要があり、ポリエステルのメッシュを使って熱をかけて成形してつくり、硬度も調節できる。さらに、成形の前にインクジェトプリンターで色もつけられる、とのこと。面白い技術であり、価格もさほど高くならない、ということで、このメッシュトレーが生まれました。

 

 ここで、デザイン開発のプロセスについてお話しましょう。
 この写真はアクリルでつくった花器です。剣山でなく、花を刺さないで留めて行く「花留め」という華道の道具があり、それにヒントを得てつくりました。アクリルの立体部分に溝を設け、そこに水をためられ、スリット幅がいろいろあるので、茎のサイズに応じて差し込める、という構造です。これを組み合わせていくと、ジオラマや箱庭のような見立ての世界観が出てきます。
 この作品は、ミラノサローネでグループ展をする際、「補色」というテーマをいただいて開発したものです。制作のプロセスを述べると、まず、いろいろ考えているなかで浮かびあがったアイデアを、忘れないようにスケッチに描きとめます。これがそのスケッチでして、岩山から花や植物が生えているような情景をつくりたい、と思って描いたものです。元々、花器をつくりたかったのではなく、“情景をつくりたい”というところからスタートしています。
 とはいえ、そういうジオラマをつくっても面白くないので、一つ一つのピースが商品として販売できるような小さなものになればいいな、と。そこで、組み合わせのイメージが出てきました。この写真は煉瓦でできあがった建物ですが、こういう煉瓦一つ一つをデザインすることで、組み合わせた先の情景につながる展覧会ができればいいな、と思ったのがきっかけです。
 煉瓦一つ一つをデザインするのはけっこう難しく、煉瓦はデザインされていないようで、実はデザインされています。今回の作品も、一つ一つに魅力がないと手にとってはもらえない、と考えました。1個の状態でもいいし、組み合わせた先にも別の情景が見えてくる、というデザイン条件をつくり、実際に手で削りながらデザインしました。それを3Dデータに取り込み、先程の木を削っていたNC切削機でアクリルの塊を削り出しています。最終的に、展示会のテーマ「補色」に合う色を選んで、アクリルに染色しています。
 このように、デザインの情景や成果を先に見据えておき、そのなかのピースを一つ一つデザインしていくことも、プロセスとして大事だと思っています。

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