イベントレポート詳細Details of an event

第87回 AGC Studio Design Forum AGC リノベーション展+DESIGN セミナー 「ガラスが空間に及ぼすニュアンス」

2017年12月7日(木)
講演会/セミナー

2017年4月、世界最大級のデザインの祭典「ミラノサローネ」において、「Touch」をテーマとしたAGC旭硝子の展示作品を手がけ、AGCリノベーション展においても、ガラスを用いた住空間提案を行ったプロダクトデザイナー・倉本仁氏が登壇。氏がクリエイターとして関わった数々の事例を通して、素材・カタチが空間に及ぼすニュアンスを多角的に分析・紹介。さらに、デザイン開発のプロセスの紹介や根幹にまで話が及び、新たなアクションのきっかけを来場者に与える講演となった。

 

倉本 仁 氏(JIN KURAMOTO STUDIO、プロダクト デザイナー)

 

あの商品、面白いなぁ。新しく、面白いブランドが生まれたなぁ

 

倉本 倉本と申します。今日は、「ガラスが空間に及ぼすニュアンス」というテーマでお話をさせていただきます。
 我々はモノゴトをデザインする仕事をなりわいにしているので、日頃、さまざまな素材に触れ合うことが多いです。デザインというと、「アイデア」が必要となってきますが、これまでの仕事を振り返ると、最初からのアイデアはなかなかありません。デザインすべき対象がどういう商品なのか、どういうユーザーに向けて送るものなのか、価格や素材はどうなのか、というような話をしていくと、少しずつ方向が定まり、やるべきことが見えてきて、その中でアイデアも出てくる、というのがほとんどです。
 素材がすべてという訳ではないのですが、我々のプロダクトデザインの世界では、素材は重要な要素となります。特に、ウチのデザイン事務所では素材を触りながらモノゴトを発見していく、というアプローチをとっているので、素材によりフォーカスしている、と感じています。

 

 自己紹介をしながら、話を進めていきたいと思います。
 私は、中目黒に「JIN KURAMOTO STUDIO」という事務所を構えておりまして、さまざまな商品のデザインを提供する、プロダクトデザインの仕事を行っています。経歴としては、美術大学のデザイン科を卒業して、約10年間、家電メーカーでインハウス・デザイナーとして働いていました。その後、独立して事務所を構え、ちょうど10年になるところです。
 デザインの内容は多岐にわたり、家具、日用品、車、眼鏡などのアイウエアなどを手がけており、ご依頼いただいた仕事はできるだけ“No”と言わずに行っています。楽しみながら、いろいろな仕事を行っている状況です。また、学校の講師、グッドデザイン賞の審査員もやらせていただいています。
 仕事で特に重要視しているのは、アウトプットとしてのデザインの形や見映えです。デザイナーである以上、「美しいものをつくる、カッコいいものをつくる」のは当たり前のことですが、その基本をはずさないようにモノゴトに取り組んでいくアプローチを大切にしています。
 この写真は中目黒にある事務所でして、仕事場で心がけているのは、“汚してもよさそうな空間”です。デザイナーのスタッフは私を含めて5名ほどで、皆でワイワイと話しながら、デザインを考えていきます。「汚せる」というのはいいことで、あまりきれいな状態だと、新しいモノゴトが生まれないのではないか、と思っています。
 散らかして、その中から新しいものを見つけていく、ラフな中から新しい発想の匂いがするような状況をつくる…。そういう状態を事務所につくっていきたい。後半で、アイデアを出すためのヒントについてもお話するので、その際に、事務所のつくり方の詳細に触れたいと思います。

 

 デザインを手がけた仕事の具体例を紹介しましょう。
 こちらは、広島県の高級家具店と同地の髙橋工芸が共同出資で新しいブランドを立ち上げた「MEETEE ミーティ」のプロジェクトです。日本向けに加え、世界に向けたブランドとしたい、という要望がありました。そのため、家具のデザインをしながら、ブランドデザインも進めるという内容でした。

 

 この真っ赤な椅子はブランド第1号の家具でして、「Nadia ナディア」と名付けました。どういうブランドなのか、職人さんたちがどういう技術でつくっているのかを、一つの椅子で表現するアプローチを行っています。広島県府中市にある会社でして、自然豊かな場所で、職人さんがしっかりとしたスキルを持って丁寧にモノづくりを行っているメーカーです。
 初めて仕事をする相手先とは、必ず工場を見学させていただいています。その際に、社風を感じ取り、どういうクオリティのものをどれくらいの価格でつくっているかをチェックします。打ち合わせで話をするだけでなく、工場を見学したり、逆に、ウチの事務所を見てもらったりすると、すべてがわかる、と思います。工場を見ると、職人さんの所作も含めて動き方や整理の仕方などから、いかに丁寧にモノをつくっているかがわかってきます。
 このメーカーで興味深いのは、カンナも自分たちで手づくりしていることです。家具をつくる前に、まず、そのために必要な道具をつくることからやっている。初めて伺ったときに、そういう姿勢を見て、いいものができそうだな、と思いました。

 
 
 先程お話したように、ブランド第1号の椅子「Nadia ナディア」をつくるのと同時に、「MEETEE ミーティ」のブランドづくりを行っています。赤いロゴも同じタイミングで進めており、ロゴのデザインは知人のグラフィックデザイナーが担当しました。
 椅子については、商品そのものの機能を満たすのに加え、ブランドを育てて後押しするイメージ機能を持っている必要がある、というなかなか難しい企画でした。1号目の商品がこけると、そのブランドはうまくいきにくくなる。なので、まず、一度見ると忘れないようなアイコニックな存在をつくることを考えました。ただ、そういう商品が家庭の生活シーンに入ると、家のインテリアと馴染まないことがよくあります。そうなると、商品として売れにくくなり、ブランドが長続きしないことになるので、「目にさわる」「生活にさわる」という2つの軸を持って商品開発にあたりました。 
 使いやすいものをつくろうとすると、シンプルになり、価格も含めて“必要十分”ということになってきますが、そういうものを世の中に出すと、いまいちインパクトに欠ける。わかりやすく言うと、「普通だなぁ。ふ〜ん」で終わってしまう。そこを、「あの商品、面白いなぁ。新しく、面白いブランドが生まれたなぁ」と感じてもらうイメージをストーリー付けてつくる必要がある。非常にたくさんのデザイン案を出し、設定した条件に見合うものはどれだろうということで、多くの案を淘汰しながら商品づくりを進め、最終的にこのデザインになりました。

 

  商品名の「ナディア」は女性の名前です。椅子のデザインは、木造船の構造をモチーフにしており、ブランドの発表会を海外で行う前提があったので、日本のモノづくりの技術を見せる必要があります。そこで、メーカーの社長と話を重ね、組み木の技術に焦点をしぼろう、ということになりました。接着剤も釘も使わずに、しっかりと留まる構造をつくりたい、と。
 なぜそこで木造船になったか、というと、社長から伺ったことのなかに、瀬戸内海周辺は木工家具の産地である、という話がありました。かつて瀬戸内には、平家の落武者が海賊となった歴史があり、木造船が必要となり、船をつくる技術に長ける者も出てきた。その後、源氏が平家の落武者討伐のために瀬戸内海に赴いたので、落武者たちは山間部に逃れ、中国地方や四国の山奥で木工技術が継承されてきた、ということでした。
 その話を伺ったとき、ストーリーとして、船に立ち返るのも面白いな、と。また、船は嵐に耐える強さと水に浮く軽さが必要となり、そういう構造は椅子にも近いものがある。“軽くて強い”ことは椅子にも大事なことなので、何かつながりをつくれるのではないか、と思いました。

 

ワイワイと話をしながら、ここまで内容がまとまってくると、商品のストーリーと肉付けとしても、いい感じになってきます。
 後はいいカタチで、アイコニックなきれいなデザインとして世の中に出せばうまくいく、という確信がありました。木造船をモチーフとしているので、このように、椅子の底面にも構造体が入っています。同じ組み木の技術を使って、コートハンガーやサイドテーブルなどもつくり、一通りのラインナップを用意して、ブランドの発表に至りました。
 結果としては非常にうまくいき、ブランド誕生から6年目を迎えますが、売上げを延ばしながらヨーロッパにも拠点をつくり、いいカタチになってきています。私も、デザイナーとしてだけでなく、ブランドダイレクタとして、今後も関わっていく予定です。

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