イベントレポート詳細Details of an event

第83回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN セミナー
「魅せる・仕切る − 空間におけるガラスの役割」

2017年11月2日(木)
講演会/セミナー

クライアントの考えを形にするデザイン

 

恭: 次の事例は、代官山にある子供服の店「familiar ファミリア」です。
 ここは、クライアントさんから、「商品は売れなくていい」という条件がありました。どういうことかと言うと、ここのコンセプトは『TOUCH for the first 1000days(最初の1000日間に触れる)』というもので、妊娠から出産・育児にかけての1000日間を大切に過ごすため、妊婦さんがレクチャーを受けたり、ワークショップをやったり、出産準備や出産後の育児を学べるショールーム兼ショップになっています。

 

 これは、店舗の平面図です。いくつかのコンテンツに分かれていて、ワークショップのスペース、持参した離乳食をファミリアの食器で食べられ、商品の使い心地を実感できるスペース、出産準備に必要なモノを可視化した棚、ファミリアの上質な肌着に触れられるスペース、赤ちゃんの人形で月齢による体重を体感できるスペース、成長を記録していく撮影コーナー、「たっち」スペース、沐浴体験の場所、授乳室やオムツ替え室など、多彩な空間があり、他に、ソファスペースや相談コーナーなどもあります。
 このように通常のショップにはない機能がいろいろあり、さまざまな体験ができるショップになっています。

 

 ファミリアには、ファミちゃんという熊のマスコットがいます。それを巨大化したものをつくり、そこに陶芸家の鹿児島睦(かごしま まこと)さんの図案をペイントしたりして、ブランドのアイコンとして、ファミちゃんをキャラ立ちさせようという提案も行いました。
 先程の平面図をよく見ると、全体がファミちゃんの顔のようになっています。最初は四角のプランでつくっていたのですが、妊婦さんが店内の各スペースを回るとき、非常に角がたったような感じがあり、回遊していくときに、机の角にお腹をぶつけてしまうようなイメージを持ちました。
 そこで、プランを進化させる過程で、平面図が熊の顔のような丸い形になってきました。最終の打ち合わせで、あとは耳をつければ、熊の顔になるね、ということで、その部分をつけて、熊の顔の平面図にしました。こういうデザインの仕方は初めてで、かなり面白かったです。

 

 これはファミリアの商品の陳列ですが、上下(トップスとボトムス部分)が分かれていて、そこを回すことで、服のコーディネートを確認することができます。出産準備に必要なものを可視化した棚、肌着や赤ちゃんのリアルな重量を体感するコーナーなどもあります。こちらが、赤ちゃんが立てるようになったときに、バーを持って「たっち」できるスペースです。湾曲したガラスを使い、立った赤ちゃんを、反対側から写真撮影できるようにしています。ここも、ガラスの機能を利用した事例です。  
 こちらは、卵型のところに赤ちゃんを寝かせて、上から撮影ができるスペースです。いろいろなアプリで壁紙を選ぶなど、デジタル加工を楽しめるようになっています。店内の什器は、丸・三角・四角など、わかりやすい形状にデザインしています。オムツ替え室、授乳室はかなりゆったりととり、代官山にいる人たちが困って駆けつけてくるのもOK、というようなスペースにしています。

 
 
 ファミリアが、なぜこのような店舗づくりをしているかというと、ファミリアの思想や商品をここで「体感してもらう」ことをコンセプトにしているからです。妊婦さんが買物袋を持って帰るのもどうなのか、という側面もあり、実際の買物はネット販売に力を入れている。一方、実店舗は、体感する場所という考え方をとっています。
 ここは実験的な店舗になるのですが、店舗のあり方の考えとして、「売ります」というのだけではなく、「店舗で体験して、自宅に帰ってからネットで購入する」ということを見据えて、店づくりを行った例です。

 

マナ: こちらは、今年6月にできたファミリアの横浜元町店です。
 この店舗では、テキスタイルデザイナーの鈴木マサルさんとコラボして、デザインを行っています。このカラーコルトンは、ファミリアの生地をパッチワークにしてつくった絵になります。ここも代官山店と同様、いろいろな体験ができるのですが、商材が豊富で、買物も楽しめるようになっています。

 

 ここにも巨大なファミちゃんを置き、鈴木マサルさんの絵を配しています。最近はスマホで手軽に写真を撮ることが増えているので、撮影スポットになることも意識してデザインしています。
 ファミリアの商品はすべて国内生産で、その自慢の生地を皆さんに実際に触ってもらうため、こういうインスタレーションを考えました。代官山店と同じように、出産準備に必要なものの可視化、沐浴コーナーなどがあり、お父さんが休める場所、オムニカウンター、本棚などもあります。また、元町店には2階があり、そこへあがっていただくため、鈴木マサルさんの絵パネルを階段壁に貼って、上部に誘導しています。

 

 2階には、ワークショップなどを行う多目的スペース、トイレなどが併設されています。多目的スペースは、体操や妊婦さんのヨガ教室など毎日いろいろなコンテンツがある場所で、その壁にカラフルなボックスを設けました。
 2階のトイレに行った人などが、「あれ、何かあるな」と、多目的スペースに興味をひかれる仕掛けです。カラーボックスは取り出せるようになっていて、教室の際に使う母子用の椅子になり、子供も自分で戻せるようなつくりにしています。椅子として使わないボックスは棚として用い、内部にヨガマットなどの道具が入っています。この多目的スペースも、ガラスを使って一部を見せながら仕切る、というデザインをしています。

 

 代官山店・元町店の2つのファミリアの店舗をつくりながら、私たちも、随分贅沢な場所ができたなぁ、と感じました。「どうやって人を呼ぶか」を追求しているクライアントの考えが、かたちになった例だと思います。

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