イベントレポート詳細Details of an event

第83回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN セミナー
「魅せる・仕切る − 空間におけるガラスの役割」

2017年11月2日(木)
講演会/セミナー

店舗や住宅をデザインするうえで、ガラスの役割は多種多様。空間を自在に仕切り、モノをいっそう魅力的に見せ、磨りガラスや型板ガラスを用いて、視線を巧みに遮ることも可能だ。空間にガラスを用いる効果的な手法を熟知し、魅力的なインテリアデザインを次々と打ち出す設計事務所imaのデザイナー、小林恭・小林マナ氏が登壇。二人の代表作である「マリメッコ」の店舗設計など数々の事例を通して、“魅せる・仕切る”ガラスの役割を語ってもらった。

 

小林 恭・マナ氏(設計事務所 ima デザイナー)

 

透明だけれど、フィルターがかかったような魔力、不思議な力があるのが、ガラスなのではないか

 

小林 恭: 今、ご紹介いただきましたimaの小林恭と申します。
 我々はインテリアデザインをメインに活動していて、物販店や飲食店、プロダクトデザイン、住宅設計などを手がけています。クライアントが様々で、仕事も多様なので、いつも大切にしているのは、その場所やブランドを生かしたコンセプトをつくっていくことです。また、空間を利用する方が使いやすいように機能性を向上すること、バランス感覚やユーモアを織り交ぜたデザインを追求し、設計活動をしています。多種多様な仕事があり、それに応じたデザインのバリエーションがあると思っています。

 

小林 マナ: 小林マナです。宜しくお願いします。
 よく「役割分担は?」と聞かれるのですが、そこはあまり明確ではなく、打ち合わせを重ねていって、アイデアを出し合っていくことで、二人でデザインを進めています。

 

恭: 今日はガラスについてということで、今まで手がけてきた事例と考え方を紹介しながら、その空間に登場するガラスの役割をお話していきます。
 僕たちの設計案件のなかに、「Marimekko(マリメッコ)」というフィンランドのライフスタイルショップの内装設計があり、ご存知の方も多いかと思います。これは、2005年に青山のスパイラルホールでマリメッコの展覧会を行ったときの写真です。この展覧会の後、2006年から日本全国にあるマリメッコの店舗36軒ほどを手がけています。
 その後、グローバル展開のための設計者を探していたフィンランド本社の人が、2009年に日本へ視察に来られました。そのディレクターが日本の店舗設計をとても気に入って、「本国のフィンランドよりもマリメッコらしい店が日本にあった」とおっしゃっていただき、「世界展開の設計も」という依頼があり、2010〜15年まで、マリメッコの世界各国の店舗を手がけることになりました。

 

 マリメッコのプロトタイプ的につくったのが、この写真の店舗です。
 同社のヘッドオフィスがあるヘルシンキ郊外の町ヘルットニエミにあり、そこに、ヘッドオフィス、誰でも入れる社員食堂、ショップ、アウトレットショップなどがあり、店舗機能が併設された場所になっています。これは、2010年にできたプロパーのショップ空間です。
 僕たちは、この写真のように、空間と空間を仕切るときにガラスを用いたり、仕切りながら陳列されている棚を見せていったりすることが多いです。モノの前にガラスを1枚おくと、その後ろにあるモノがすごく映えて、良く見える。透明だけれど、フィルターがかかったような魔力、不思議な力があるのが、ガラスなのではないかと思っています。
 こちらはショーウインドーで、通常よくあるパターンですが、それに加えて、商品を陳列する場所にもガラスを使って、モノを良く見せています。それら2つの見せ方が左右に並んでいて、その真ん中を入っていくとショップがあるかたちです。ガラスは、見せるものであり、仕切るものであり、空間と空間をつなぐ役割を持っています。

 

 マリメッコはライフスタイルショップということで、洋服、生活雑貨、ファブリック、キッズなど、いろいろなコンテンツがあります。
 僕たちが最初に日本で店舗設計を行ったときは、まず、その多様なコンテンツを整理して、コーナーごとに分けることなどで、一つ一つのコンテンツがわかりやすく、美しく見える配置を計画しました。「設計」というと、無からデザインを起こすと捉える方もいますが、整理されていないものを整理して「整える」ことも、デザインの重要なファクターの一つだと思います。この事例は、まさに「整えた」デザインです。
 こちらの写真では、右奥がファッション、左側がファブリックのコーナーです。ファッションのコーナーはガラスで仕切って、中に入らないと、直接洋服を触れないようになっています。「仕切りながら見せる」というデザインで、ガラスをかけることで、モノを抽象化するような役割があるのではないかと考え、こういう手法を使っています。

 

 中央には大きなテーブルを置き、レコメンドの商品などを陳列できる役割を持たせています。それを挟むようにして、ファッション、ファブリック、キッズのコーナーがあるレイアウトです。床にフィンランドのオーク材を使ったり、工場で使用するような塗り床を使ったりして、エリアを分けています。左側は服飾雑貨のコーナーで、ガラスケースをつくり、上下に照明を入れて、商品をより良く見せる手法をとっています。
 これは、最初の入口の写真です。ここがアイキャッチ的なものになって、興味を持ってもらい、中に誘導する。そういう、「入りたい」と思うような仕掛けの一つとして、僕たちはガラスケースの手法をよく用いています。

 

マナ: こちらは、2010年にできたマリメッコのニューヨーク店です。23丁目のブロードウェイ通りのクロスした場所にあり、フラットアイアンビルという細い三角形の建物のすぐ近くに、マリメッコのショップがあります。
 外観はニューヨークの規約があるので触れない、という条件でした。ですが、店の前にコーヒーや新聞を買えるキオスクがあり、そこからのインスピレーションなどによって、街の一部のような雰囲気の店をつくろうということで、いろいろな工夫をして設計しました。

 

 これがエントランスですが、先程言った法規が厳しく、店名を入れるだけのデザインとなっています。店内に関しては、入口にアイキャッチになるものを設けて、奥に誘導するデザインをいつも心がけているのですが、この店の場合も、同様の仕掛けを施しました。入口近くに2.5mほどの生地の棚を設置したり、高さ4mほどの場所から吊り下げるファッションコーナーをつくったり。店に一歩入ると、そういうものが見えてくることで、奥に入ってもらえるデザインになっています。入ってすぐの右側のギャラリースペースは、マリメッコのアーカイブの写真を飾ったり、大胆な柄のクッションを見せたりして、入ったときに、ワッと驚くような場所をつくっています。

 

 ニューヨークは寒暖の差が激しい街で、冬はとても寒く、ほとんどの店に風除室が設けられています。この店舗の設計の際にも、新たに風除室をつくりました。
 このように風除室にガラスケースを設け、入ってきた方がワクワクするような入口の演出を行っています。店内からは手で触れるようになっていて、通るときは、ガラスの仕切りを介して見るという感じです。仕切る、という風除室としての機能もありつつ、商品の陳列棚にガラスがあることで、光がキラキラして美しく見えるかたちです。
 こちらは、先程言った正面のキオスクがガラス窓から見えるコーナーで、キオスクでコーヒーを買ってきて、ここで飲んでもいいよ、という大らかな店づくりをしている空間です。「街の人が自由に出入りできる場所をつくってほしい」とのマリメッコ社からの依頼を受けて設けた場所で、贅沢な店の造りになっています。この写真のバーは、マリメッコのアーカイブの本からインスピレーションを得てつくったものです。天高5mくらいの空間に、フローティングハンガーという宙に浮いているような4mほどの長いバーを設けています。

 

 また、マリメッコはファブリック柄から生まれたブランドなので、入口を入ってすぐのところに高いボックスをつくり、ブランドの象徴であるファブリックを陳列し、「見せながら売る」という手法をとっています。
 奥はカーテンコーナーです。ソーイングルームがあって、カーテンのオーダーなどができるのですが、こういうスペースもガラスで仕切り、ラボっぽい雰囲気を見せたりしています。こちらはキッチンコーナーで、キッチン雑貨などの商品がある場所にキッチンカウンターを設け、実際に商品を使ったり、ワークショップを開いたりなど、いろいろな試みができるスペースになっています。キッズコーナー、ベッドリネンのコーナーなどもあり、奥のほうには、五段ベッドを設けた楽しいコーナーもあります。
 マリメッコというブランドは、会社自体もそうなのですが、「楽しいことが大好き」という人がとても多いです。店のオープン時には、外に大きなPVCクッションを並べたのですが、街の人がそこに自由に座って、おしゃべりを楽しむ光景も見られました。ウインドーも、カラフルな色が目に飛び込んで来るデザインで、ディスプレイを変えると、それが街の人にも伝わるという趣向になっています。

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