イベントレポート詳細Details of an event

第82回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN セミナー
「マンションに100年安全で快適に暮らす方法
− 耐震化に取り組む中で見えてきたマンション再生の考え方 −

2017年10月21日(木)
講演会/セミナー

「マンションに100年 安全に快適に住まう」ために大事なこと

 
 
今井 ここから、まとめに入ります。
「耐震診断を行い、耐震改修ができない場合は、資産価値が下がるのではないか」と、よく言われますが、もう、そういう時代ではなくなっています。
 まず、昭和56年前の建物は旧耐震の建物として扱われる、ということがあります。売買時などには、それをごまかすことはできない。そのレッテルを剥がすには、耐震診断をするしかない。不動産の重要事項にも、耐震診断をしたかどうかのチェック欄があります。例えばこの記事は、平成25年の台風の被害で川が氾濫したときの状況を伝えるものですが、「宅地造成の市を提訴」ということで、住民が水害リスクの説明をせずに土地を販売した市を提訴しています。こういう時代になっているので、仲介する不動産屋も、重要事項に耐震診断をしたかどうかのチェック欄を作っている、というかたちです。
 購入する方も、昭和56年以前の建物は旧耐震として認識して買う、という流れになっています。そのレッテルを剥がすには、耐震診断をして耐震改修ができれば一番いいですし、結果が例えば、Is値0.5であれば、そのリスクを承知して買う人もいると思います。まず診断してみなければ、それがさらに低いのかどうかさえわからない、という状況です。
 反対に、耐震改修をすると資産価値が上がりますか、という質問もでるのですが、これには我々は応えにくい。例えば、売値が上がったという話は、管理組合の人に来てもらって話をしてもらうと、必ず言っています。しかし、それは広告としての値段が上がっただけで、実際の取引はどうかはわからないし、そういうデータがあるほど、まだ耐震改修は進んではいません。

 

 ただ、こういうことに気がつきました。これは、昭和6年に建てられた大阪にある綿業会館です。国の重要文化財に登録されている建物で、JIAの大阪支部はここに入っています。こういうなかで仕事ができたらいいなと思っていたところに、こういうレトロ感のある手摺り、エントランスホールのモザイクの丸いタイル、坪庭などに興味を持つ若者がでてきた。そういう時代になってきました。
 耐震改修をした先程のマンションが住宅支援機構から感謝状をもらい、マンションで賞状の授与式があったのですが、その際にこういう話をしました。このマンションも、頑張って維持して築70年くらい経つと、レトロな資産価値がでてくるのではないでしょうかと言ったところ、それに、耐震改修後に入居して、すぐに理事長になった人が応えてくれました。
 その人が言うには、外から眺めたときのベランダの手摺りが今どきのマンションと違ったこと、裏側の面格子の趣、エントランスに坪庭があったことで、このマンションをすぐに気に入り、購入を決めた、とのこと。近隣のマンションより古くて、価格が高めなのですが、そういう視点からではなく、惹きつけるものがあったということです。
 なので、改修時にすべてを壊して新しくするのではなく、何を残して何を新しくしていくのかを考えながら、改修していくことが大事なのだろうと思います。

 

 築50年くらい経つと、健材は耐用年数を迎えます。ガラスは100年もつ材料ですが、アルミサッシとして見ると、戸車が割れてくる、スチールの手摺りは腐ってしまう。また、ブラウン管のテレビが今はないように、機械モノは新しいモノに30年くらいで変わってきます。
 この写真は、エレベーターの制御盤ですが、ベース部分が壊れてしまっている、先程話をしたトイレの排水口だと、渦を作っている箇所が腐ってサビている。プラスチックは30年経つと、触らなくても壊れるほどボロボロになります。
 マンションの部品を50年という時間で考えると、鉄筋コンクリート、タイル、ガラスなどを除く、ほぼすべての部品が耐用年数を迎えます。そのなかで躯体を残して、防水材、塗装材、塩ビ部材、二次部材、給排水設備などを全部 更新することになります。このような部材を、計画修繕のなかで段階的に更新するといい。一回でやろうとすると、資金がショートするので、今回はこの工事、12年後はこの工事というように、段階的に行うと、快適に住み続けることができると考えます。
 そのとき大事なのが、今から50年前のマンションの性能に戻すのではなく、新築マンションを目指しましょう、ということです。法律に対しても、法律が変わって生じた既存不適格に目をつぶるのではなく、積極的に解消することが大切です。既存不適格は、建てたときには適法であっても、その後の事故を受けての法律改正によって、不適格になるというものですが、それを全部直せ、ということでは法律の改正がしにくい。そのため、建築基準法では、次の確認申請時に改修してください、ということになっています。そういうところにも敏感になって、なぜ法律が変わったのか、事故が起きて法律が変わった場合、是正しないリスクは自分たちにある、ということです。  
 この写真は、東日本大震災時に壊れたエレベーターのものです。つるべ式になっていて、同じ重量のおもりが後ろにぶら下がっています。かごが下に行って、重りが上にあがったときに地震に遭ったエレベーターで、この重りが落ちてかごが壊れた。こういう事故は、それなりの件数あったと思います。平成26年に、ここの重りが落ちにくいように基準が変わっています。法律のこのような変更に従い、それを直していくということも必要になってきます。

 

 これは最初にご覧いただいた「マンションに100年 安全に快適に住まう方法」の図ですが、築後30年を超えて60年までの間に、今までお話してきた耐震改修を行い、あるいは既存不適格を解消していく、そういう気持ちでなんとか初期の性能を上げ、このグレーゾーンに突っ込まないで快適に過ごせるのではないかと考えています。
 2015年末のマンションストック数は623万戸と推定され、年間10万戸以上のマンションが供給され続けています。空き家だらけだと言うのに、さらに補給されている。そのなかで、改修技術は発展途上で、我々も日々研究し、情報交換をしながら、いろいろなことを試みています。
 旧耐震基準で設計されたマンション、高度成長期に郊外に大量に供給された団地、バブル期以降の超高層マンションなど、建築業界として取り組まなければならない課題が多いです。それに携わる建築技術者も不足している。新築でも不足しているし、改修はもっと不足している。なんとか皆さんの協力を得て、建築技術者がマンション改修工事に関する知識・技術及び対応力の向上を計り、既存マンションの適切な長寿命化に寄与する社会的役割を果たしていきたい、と考えております。
 以上で私の話を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

 

 

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