イベントレポート詳細Details of an event

第82回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN セミナー
「マンションに100年安全で快適に暮らす方法
− 耐震化に取り組む中で見えてきたマンション再生の考え方 −

2017年10月21日(木)
講演会/セミナー

耐震改修の実例 ~飯田橋のマンション

 

今井 次に、実際に耐震改修をした事例をお話します。
 こちらは飯田橋の183戸のIPマンションで、地上15階建て、昭和55年の竣工です。設計は昭和53年で、築後32年で耐震改修を行い、わりと軽微な補強で済んでいます。
 我々は、耐震総合安全機構(JASO)というNPO法人の組織のなかで耐震診断を行っています。ここは新宿区のマンションなので、新宿区から委託業務を受けて、アドバイザーとしてマンションに行き、耐震化のアドバイスをしながら、耐震精密診断はJASOで受け、耐震改修工事は工事の事務所で受けて進めるかたちをとりました。アドバイザー派遣の段階では、まずマンションに赴き、図面が揃っているのか、耐震改修ができるのかなどを確認しながら、先程お話した耐震化への啓発も含めて、管理組合と話し合います。
 その後の耐震簡易診断では、構造の診断、基本的にはここでは壁式構造について診断します。コンクリート強度でOKがでていれば、全体の3割くらいは、精密診断に行く前に、簡易な方法でいけそうですよ、とアドバイスしています。一般的なラーメン構造の建物は、だいたいこの段階でNGがでます。
 大きく見ると、最初の目標は精密診断を行うこと、最終目標は耐震改修工事を行うことです。これらの一つ一つのステップを、早ければ1年、通常5〜6年かけてやっていきます。

 

 この飯田橋のIPマンションの精密診断をしたところ、2棟に分かれているうち、南側の棟はIs値0.59で、0.6に少し足りない。西棟は1〜4階がIs値0.49となり、NGがでました。南棟については、南棟と西棟の間のエキスパンジョイントを現状の30cmから45cmに広げると、Is値0.6以上になるので、計算上で調整することとし、NGがでた西棟1〜4階については、壁の外側片面を18cm程度打ち増しし、階段室2〜4階の窓塞ぎなどの併せ技の補強で、Is値0.6以上を達成しました。
 管理組合からは、耐震改修と一緒に大規模修繕ができないか、ということと、補強の資金の話が出ていました。躯体だけだと1000万円くらいでできるのではないか、という話し合いをしている間に、東京都の特定緊急輸送道路に、このマンションが面している目白通りが指定され、実際の工事費は6分の1負担になりました。診断までは通常の助成金でいって、1棟あたり200万円の補助金、2棟あるので400万円の補助金となり、自己負担がかなり発生したのですが、工事については6分の1ということでかなり安くできました。
 大規模修繕を行うにあたり、耐震改修の費用がかなり浮いた関係で、玄関ドアを替えたい、手摺りを替えたいなどのいろいろな要望がありました。概算をはじくと、管理組合の予算内で納まるので、要望を全部メニューに入れて実行したかたちです。既存の塗膜をはがして、新しい補強材と一体化する耐震改修を行い、階段の明かり窓もとり、そこに壁の閉塞をしていく。専有部分の窓は触れないので、その周りを補強する、そういう改修工事を行いました。この写真のように、目白通りにポンプ車とミキサー車を置いて、コンクリート打設を行ったかたちです。   
 これが耐震改修後の外観です。1〜4階まで壁の増打をし、共有廊下の鉄板にペンキ塗りだった手摺りをガラス張りに替え、美観上も今のマンションとさほど変わらないかたちにしました。この写真は耐震改修部分外観の以前のものと改修後の比較ですが、改修後に行ったとき、ちょうど通っていた人が、「このマンション大規模修繕をやったら、外観もきれいになったわね」と言っていて、良かった、と感じました。耐震改修というと、Vやバッテン型のものが入る工事をイメージされていたところに、さりげなく壁の増打をやったことで、外観も良くなり、きれいに耐震改修ができたかな、と思いました。

  

 こちらは共有廊下です。玄関ドア、照明器具、手摺り、面格子を取り替えると、今の新築マンションに比べて遜色がなくなり、タイルが違うくらいです。タイルについて言うと、後々の浮きや剥落などを考えると、今は塗装の仕様がよくなっているので、むしろ塗装のほうがいいのではないかと、最近は思っています。
 こちらは、エキスパンションジョイントの改修の写真です。どのマンションに行っても、このつなぎ目のところは10cmほど上がっているのですが、エキスパンションを広げると同時に、バリアフリー化も行いました。管理組合の話では、以前の大規模修繕の際にも、ここのバリアフリー化は話題となりながら、そのままだったとのことで、我々の改修では、要望をださなかったのに、バリアフリーになっていた、と喜んでもらえました。設備についても、エキスパンションジョイントの改修を行い、3次元に対応できるジョイントということで、スイベル配管で直しました。最終的に、このマンションは東京都の耐震マークを取得したかたちです。
 工事完了後の管理組合の感想としては、よかった、安心して住める、耐震化に向けて真剣に話し合うなかで、自分たちでやらなければならないという意識が芽生えた、などの意見がありました。
 このマンションは大手の管理会社の管理で、基本的にはおまかせなのですが、この時だけは、自分たちで耐震化に向き合った人たちが集まった。今はまた管理会社におまかせになっていますが、この時だけは違い、住民の管理に対する意識が変わったかたちです。改修前は、廊下にゴミが落ちていても、そのままにされることが多かったのですが、改修後は、ゴミなどを拾い、積極的にきれいにしようという雰囲気に変わりました。

 

 もう一例、こちらは56戸の西荻窪のマンションですが、耐震化までに8年かかりました。北側の裏側に補強材を入れ、そのとき、階段室のガラスブロックが漏水しているので、ここも取り替えたいということでした。
 予算がないなかでの話でして、またガラスブロックに替えますか、と言うと、そうではなくて、プロフィリットにしたい、ということ。後者のほうが高いし、防火戸認定がとれていないので、それは使えないということになりました。
 そこで、乳白の合わせガラスで提案することになり、旭硝子さんの見本を持っていって見せたら、予算も含めてOKとなり、階段室の改修を行いました。工事の際、階段の小口の仕上げが当初から雑なことがわかり、乳白の合わせガラスとすることで、外から見たときに、そこが気になるかと心配したのですが、実際には、階段のシルエットのみが見えている仕上がりとなり、ホッとしました。改修のなかには、こんなふうにドキドキしながら進めるものもあります。

 

 このマンションは旧耐震の建物で、耐震性能はIs値0.6まではいっていません。そこで管理組合からは、0.6まではいかなくていいから、地震時にペシャンといかないようにということと、美観上の資産価値を保ってくれ、という話もありました。正面に、躓きそうな車寄せと大庇があり、ここに大きなコンクリートの柱が1本あって、ヤジロベー式にもたせているのですが、大きな地震がくると、ペシャンといっちゃうだろう、という造りでした。
 この部分を取り除いてのやり替えには、承認申請が必要となりました。杉並区と相談しながら行いましたが、「ゼロ平米増築」ということで、取り除くのも増築になるので、それにかからない計画が必要となる。そこで、つないでいる梁を残して、外側はアルミに軽量化して張り出し、スロープは奥にあるマンションの庭とつなげて延ばす、大きな柱は表面の御影石をはがして15cmのコンクリートを柱巻きする、という改修を行いました。
 この写真は管理組合の完了検査の様子です。大きな工事なので、近所の人も眺めていて、この方々は通行人ですが、皆が建物を眺めていく。管理組合の人たちは、皆で頑張ってきた成果がでたね、ということで、検査というより、これからどのように維持していくか、という会話がでていました。完了時に、「このマンションに住むことを誇りに思う」と言ってくれたので、我々も達成感を感じました。

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