イベントレポート詳細Details of an event

第82回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN セミナー
「マンションに100年安全で快適に暮らす方法
− 耐震化に取り組む中で見えてきたマンション再生の考え方 −

2017年10月21日(木)
講演会/セミナー

熊本地震の被災状況と耐震改修の事例

 
 
今井 ここからは、熊本地震の被災地の話と耐震改修の話をしていきたいと思います。熊本地震は去年の4月に起こり、震度7の揺れが2回ありました。建築士の間では、「極まれに起こる地震」というのは、その建物の一生のうちで1回という解釈をしていたのですが、それが2回来たということで、相当ダメージが大きいのだろうと思い、現地入りしました。
 震度7の揺れは4月14日と16日で、2回目の16日が本震とされています。熊本地震でのマンションの被害については、人名は守られました。我々は「非木造建築物」と呼んでいますが、鉄筋コンクリート造などのマンションの倒壊と崩壊による圧死は免れたかたちです。14日の地震後、そこをもちこたえて16日の地震で倒壊した建物が多かったので、人が避難した後というのも幸運だったかもしれません。
 建物の被害としては、ピロティの被害が目立ちました。地方は車の所有率が高いのだと思うのですが、ピロティ形式のマンションが多く、ピロティ柱の損傷や層崩壊が目立ちました。旧耐震基準の建物だけでなく、新耐震基準のものも被災していました。また、非構造壁の被害については、建物の修復は可能ですが、生活支障が大きくて、住めないマンションもありました。

 

 我々、JIAメンテナンス部会は、阪神淡路大震災のときに、「住宅はシェルターである」という提言を行っています。住宅は、シェルターとして外界から身を守ること、外敵の侵入を防ぎ、外気や風雨、騒音などを遮る機能があります。マンションは住宅なので、生活を守ることが求められます。
 建築基準法は最低基準として位置づけられ、生命・健康・財産を守ることが謳われていますが、「生活を守る」ことを付加していかなければいけない。死傷者・重傷者がでないのは当たり前で、地震直後は安全な場所に非難できて、地震が収まれば自宅であるマンションで生活できる。避難所があふれていると、鉄筋コンクリートの住宅に住んでいる人は自宅で過ごしてくれと言われるようですから、そういう対策をしていかなければならない。建築基準法で考えているのは、地震に対しては構造です。それと、関東大震災の経験があるので、火災に対しては既存の基準が高いのですが、生活を守るということは、自分たちで付加していかなければならないと考えます。

 

 実際の事例をいくつか紹介します。
 これは、熊本地震で被害を受けて崩壊した、1階が店舗になっているピロティ形式の賃貸マンションです。こちらが去年5月の崩壊状況の写真で、その後、去年7月に行ったときには、解体が済んでいました。ワンオーナーの場合、自分の意志があれば、解体はすぐとりかかれます。今年4月に行ったときには、駐車場になっていました。
 それに対して分譲マンションは、崩壊しても簡単に解体できません。こちらは、崩壊したピロティ式分譲マンションの去年5月の写真ですが、今年4月に行ったときも、同じ状態でした。こちらは、そのとき中に入って撮った写真ですが、下側が崩壊しているので、廊下が坂になっている状況です。管理組合で持っている名簿にのっているのは、人が住んでいない部屋にある固定電話の場合が多い。新聞によると、それを元に住人がどこに避難しているかを突き止めて、去年7月には解体決議ができたようです。建物の中に、車や家具などの固有財産が残っていますので、居住者の財産放棄の手続きに入ったことも、報道されていました。

 

 先程述べたマンションの北側200mくらいのところに、ほぼ同じ年代に建てられた同規模のマンションがあります。こちらの建物は先程のより5年古く、柱も5cm小さく、ピロティにはブレースが入っています。たまたま、こちらのマンションは崩壊しないで軽微な被害で済んだかたちです。
 ブレースは壊れましたが、そこは直せばいい。ここを見ていたら、管理組合の理事長がでてきて、「ペシャンといかなくて良かったよ」と言っていました。そのペシャンといかない補強を、我々は管理組合に提案していかなければいけない、と思います。
 この写真は非構造壁の被害です。東日本大震災のとき、東京のマンションでも、同様の被害はけっこうありました。この部屋は南京錠がかかっています。ドアの開閉は可能だが、鍵はかからないのだろうと思います。近くの面格子がはずれていて、玄関ドアの開閉が困難なので、面格子をはずして出入りしたのだろう、と。この程度の建物は、基本的に柱と梁が生きていれば、非構造壁が損傷しても復旧できて、住み続けられます。その判定は、建築士が被災度区分判定を行い、管理組合に提示するかたちになります。

 

 こちらは、ピロティ形式で非構造壁の別のマンションで、地震後の5月の写真です。出窓とバルコニーの間に大きなバツ状のクラックが生じている。地震後約1年の今年4月の写真がこれで、きれいに直っています。中にセメント状のものを注入してクラックを塞いで、上からタイルを貼り直すという改修方法だと伺いました。直す前は、おそらく漏水があって部屋に水が入るという状況で、住める状態ではなかったと思いますが、直して住むことができます。
 ただ、こういうふうに復旧できたマンションは限られていて、熊本の場合、建替えにドンドン向かう傾向があります。阪神淡路大震災後から見ると、だんだん建替えに向かうマンションが増えている気がします。なんとか直して使うことを、皆で共有していかなければならないと思います。
 こちらは廊下側の雑壁にクラックが入っていますが、きれいに直しています。玄関ドアは取り替えていて、塗装はパッチワークです。限られた予算のなかで生活を取り戻すことを課題に、復旧工事を進めていっています。

 

 平成17年の福岡県西方沖地震でも、同じようなことがありました。これは福岡県の旧耐震の賃貸マンションですが、柱が壊れています。ペシャンといかないように、半年後は鉄骨で支える補強をしている状況でしたが、平成25年に行ったときには、コインパーキングになっていました。要は、建物が壊れて人が住まなくなると、壊されてしまう。そこを、なんとか復旧しなければいけないと考えます。
 こちらも福岡県西方沖地震で被害を受けたマンションですが、ここは半年後には一所懸命に直していました。断層の上にある建物だったので、新耐震でも雑壁がかなり壊れていますが、柱と梁は健全で、築3〜4年の建物だったので、なんとか直そうという意志があったのだと思います。
 直し方の例は、次の事例である同時期に建設された同じディベロッパーのマンションで説明します。ここは、壊れた雑壁を全部コンクリートで打ち直すという、住人が引っ越しての復旧工事を行っていました。これは専有部分の室内の洋間でして、共有廊下と出窓の間の壁をすべて除き、配管も全部とって、その奥の壁を打ち直す工事をやっていました。雑壁は注入で直し、玄関ドアは取り替えています。また、このマンションは1階にピロティがあり、新耐震なので構造上はもつはずですが、ピロティの基準は阪神淡路大震災の後に少し変わっているので、上部は注入で済ましておいて、下側に耐震要素となる耐震壁を打っていくという工事を行っていました。
 どのように復旧するかは、それぞれの考え方なので、それに寄り添う専門家がいて、一緒に工事をやっていくことが求められるのだと思います。

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