イベントレポート詳細Details of an event

第40回 AGC studioデザインフォーラム
「STEPS IN THE AIR」展 連動企画 「階段」のいろいろ
─世界の珍しい階段やあまり知られてない階段の紹介とお話

2014年2月20日(木)
講演会/セミナー

内田 ではここから、本格的な階段をご紹介していきます。

 


(画像2-1)
日本が誇る本格的な階段で、幅が広くなってきますと側桁の役割が段々小さくなる。一方、真ん中をどうやって支えるか、という問題が起こってきます。
そこで、例えば江戸城の階段ですとか、金沢の成巽閣あたりだと、こういう幅の広い階段があります。こういう幅の広い階段はみんなこの図(センターに縦の梁や桁がある)のようになっていると思いますし、私たちが戦後、庁舎・公舎等を木造で造っていた時は、みんなこういう図面を描きました。これは相当に知恵を集めた、なかなか難しく、うまくできた階段です。
まず、最初に両側を支える側桁があります。側桁として、こういう溝を彫って、それに蹴上げと踏み面を差し込んで挟みます。そうすると、蹴上げは小梁になるんですね。小梁の蹴上げと踏み面がガタピシすると行けませんから、これに吸い付き桟をくっつけます。これが吸い付き桟です。
雑な工事だと、これが釘打ちだけになってしまうんですが、本当は吸い付き桟にしないといけません。
この横の方も吸い付き桟、で、吸い付き桟同士をくっつけて乗っかった時にガタピシしないように、きっちりした平行ではなく、手前を少し幅広に、奥を狭くしておいて、差し込んだ時に楔を打って動かなくする。それで、蹴上げの吸い付き桟に踏み面の吸い付き桟がずっと並んでいる。
その通りをうまく合わせてやり、それをつなぐんです。つなぐと、小梁の役を果たしている蹴上げの力を上の踏み面に伝えるんです。
踏み面というのは、その一つ前の蹴上げ板を小梁にして後ろで吊っているし、その前も下の段の蹴上げを小梁にしている。そして、それだけかと思いますと、実は真ん中に中桁というのがあるんです。この中桁がまた、実に巧妙なものなんです。

 

よく見ると側桁がこれだけ寸法があるのに、中桁がこんなに細くていいはずがない。その理由を長い間誰も教えてくれず、私も、先輩が描く図面の通りに描くようにしてきたのですが、大工さんにいろいろ聞いてみると「これはトラスのような具合だ」と言われました。これが三角になっていますよね。
それから、ここに掛かった荷重が、このマゲを伝って上下に行く。それで、人がドンドンと走ってきてもその一カ所を全体で支えているわけです。日本の(幅広の)階段というのは大体、こういうようになっているのですけれども、たいてい天井板を貼っているので、下から裏を見ることはできないのです。これを実際に裏から見たことはほとんどないのですが、こういう写真を見つけました(画像2-1右)。これが中桁ですね。これが吸付き桟、ここにもちゃんと楔が入っている。非常にいい仕事をしています。
このような優れた階段は、ヨーロッパにはおそらくないだろうと思います。昔の日本のように、こういうことをやれる大工さんがいないですから。

 


(画像2-2)
欧米でこういう広い階段はたいてい石でできています。こちらはトロントの市庁舎の階段(直階段・石&鉄製・側桁・幅広)です(画像2-2右上・左)。オールドシティーホールとあるように、こういう昔ながらの階段です。
これは鉄骨でできていますから(構造が鉄、踏み板は石)、中桁などなくても保つんですが、この蹴上げ板部分に透かし模様があるところ何とも優雅で素晴らしい。鉄製の手すりにも同様の模様が付いております。

 


(画像2-3)
この蹴上げの模様を知ると、いろんな模様を蹴上げに付けることができそうに思います。
ベネツィアに行かれた方はたいてい見ているはずですが、サン・マルコ広場の突き当たりにある階段、サン・マルコ寺院の中に入場しなくても、こういう模様は広場から見ることができます。
まあ、一般的な観光の方はあまり気がついていないと思いますが、こういう非常にしっかりしたきれいな模様を見ることができます。
日本にはこういうものがないのではないか、と思っていたのですが、日本でも床に模様を描いた階段があるんですね。これは奈良・東大寺の二月堂の石段です(画像2-3左上・左下)。残念なことにみんなが歩く真ん中のところがすり減ってしまっていますけれど、こういうように始めと終わりのところに残っています。これが下の段です(画像2-3左下)。

 


(画像2-4)
それから、これは私が最も尊敬するマルセル・ブロイヤーの階段です(画像2-4上段中)。
この階段を尊敬する理由は、これは側桁が即ち手摺である、ということです。逆に言うと、側桁もなければ手摺もない、という階段なんです。これは1940年代で、日本ではこういうものがなかなかで2のですが、当時はそういう鋼材が豊富にありませんでしたから、別の物ものでつくったのです(画像2-4下段左)。
そうすると、何とも言えず重たい印象で、太いんですよ。それで実験をやったのです(画像2-4上段右)。当時は荷重試験なんてできませんから、セメントの袋を積んだりひもで吊ったりして、構造屋さんに測定してもらいました(画像2-4下段右)。
その結果、これは手摺としてではなく、側桁としてTNTトラスのような効果を発揮している、ということが分かりました。そうなると、上下の材は座屈をしないために幅が広いほうがいい、それから真ん中の材料はTNTトラスとしては幅が狭くても背が高いほうがいい。
できれば全部埋まっていればいいのですが、それではトラスになりませんから、細くして背を高くすると、これは踏み面を乗せるのに都合がいい。それで、TNTトラスとして上手に造ればつくるほど踏み面を乗せるのもうまくいくし、手摺としてもうまくいく、ということがわかっています。その後、そういう階段を方々でつくりました。こちらは名古屋の電話局に使った例で、また霞が関の電話局でも使っています(画像2-4下段中)。
こっちがブロイヤーの階段ですけれども(画像2-4上段左)、私もようやくブロイヤーの階段と同じくらいの繊細さでできるようになったということです。

 


(画像2-5)
次のこの階段(霞ヶ関電話局屋外階段/直階段・鉄製・手摺桁)は、今でも存在しています。
これは帝国ホテルの隣に駐車場がありまして、そこへ上がるとこれが見えます。これができたのは1956~58年くらいですから、もう40年以上経っています。その40年目にPC製踏み板の耐久検査を実施しました(画像2-5左上)。
NTTのメンテナンスの方々が調べられて、コンクリート中の砂利が、長い間の雨で、このように表面に飛び出してざらざらになっていました(画像2-5下段左右中)。
それでは危ないということになってNTTは新しい踏み板に交換しました。その取り外した元の板をNTTの研究所に運び込みフェノールフタレインをかけて中性化の試験をしたら、まだまだ使えるという結果が出ました。
つまり、屋外階段は鉄板を使うと錆びてしまうのですが、このPCの階段は大丈夫だし、この手摺側桁は無垢の鉄ですから、まだまだペンキを塗って保たせることができる。けっこう耐久性があります。
そんなわけで、このタイプは材料が極めて少なくできる、階段の一つの極限ではないかと思っています。
ブロイヤーはもう亡くなってからもう何十年も経っているし、こういう手摺側桁の階段をつくっている人を他に知らないので、もっと(この構法を)利用していい階段だと思います。

 


(画像2-6)
ところで、この画像を見ると、みなさん、アッと言われるかと思います。これは、プラハにあります(画像2-6左)。プラハの城からブルタヴァ川へ降りて来る、観光客が必ず通るというところに坂道があり、その坂道の途中にカフカの家があり、そのカフカの家か、その隣の家の扉を開けると、こういう光景があります。
これは、この廊下の幅が3尺しかないのですが、この建物には2階があって、狭い廊下から2階へ上がる階段が必要なのです(しかし、設置できない)。ところが、この畳んである手摺を手前に引くと、右左踏み分けの階段に変わる
もし、これが普通の階段であれば、段板が引っかかって、このように納まりがつかないのですね。それで、こうすればわずか3尺幅に廊下と階段を同時につくることができるわけです。こういう素晴らしい知恵がありました。
ここを訪ねる人は多く、日本人も大勢、ここへ行っていると思いますが、この階段だけは、なかなか見つけてくれないのです。

 

もう一つ、これも幅3尺のところを珍しい折り返し階段で上がろうというものです(画像2-6右)。
どのように上がるかというと、よく見ると分かりますが、このステップを上がっていき、半分までくると、ここをギリギリと巻き、そうすると(先に1階にあった)下端が上がって(2階の床まで上昇)、そこから上へ上がれるというものです。これはこれでまた素晴らしいミニマムな階段といえます。
で、これが平面図ですね。こちらから来て、ここ(踊り場)へ上がって、そこから上へ行く。この人が上がったら最後、次に来た人が上がれない(笑)。

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