イベントレポート詳細Details of an event

第39回 AGC studioデザインフォーラム
「STEPS IN THE AIR」展 連動企画
ガラス・エンジニアリングの歴史・現在・未来

2013年12月12日(木)
講演会/セミナー

佐藤 さて、私の研究室は3年半前に、旭硝子さんの寄付講座としてできまして、正式名称は東京大学建築構成材デザイン工学AGC旭硝子寄付講座ということになります。それが設立されまして、ここまで紹介してきたプロジェクトはそれ以前のものなのですが、そういったガラスの構造を探究する活動もしていましたので、研究室の設立はちょうど自分に合致したものとなりました。

 

それまでの経験から金属のフレームが有効だと分かってきたのですが、こういうガラスを拘束する構造はちょうどステンドグラスのような構造なので、ステンドグラス的な構造も実験をして研究を進めてきました。
その結果、軽い建物では十分使える性能があると分かって来ました。ポイントとしてはこういう小さなH型の金物などにガラスをはめ込むのですが、その緩衝材に錫を使えばいい、ということが分かっています。というのも樹脂を使うと紫外線劣化や高温による劣化が起きますけれど、錫の場合はそうならない。将来的には錫よりももう少し硬い金属を使いたいのですが、今のところは柔らかい錫を使っています。

 

ガラスの魅力の一つは固いことだと思います。ヤング率がアルミとほぼ同じぐらいで、透明材料の中では圧倒的に固いですね。ダイヤモンドなどの結晶と比べるともちろん劣りますが、アクリルなどの樹脂類と比べても20~30倍ほど固い。
固いということは座屈に強いということなので、薄くしたりしても細い構造にしたりしても圧縮材として効かせることができる。今回のガラス階段でも、その性質を生かしています。
今の段階では、そういったステンドグラス状の構造について、自由な曲線にすることができるので、今年度の研究では自由曲線の配置を試すことができました。これはまだ先ほどの直線タイプと(全体的な構造的強さに関して)遜色ないということがわかっていますけれど、もっと強くできる可能性もありますので、そういう構造を探っています。

 

今日から始まったこのスタジオの展示に合わせて1階に実験後の、割れてしまったステンドグラス構造を、本当は壊す前のものを展示したかったのですが、どの程度の加力が可能か実験をしないといけないので、実験後の状態で展示してあります。
それから、もう1つステンドガラス状の展示と絡めて、その隣に、この画像にもある、こんなインスタレーションも展示しました。これは日本建築学会の催しに出展したのですが、ガラスによる「飛び出す絵本」のような構造です。開くと、中から構造が立ち上がるというようなものをガラスでも作ろうと、飛び出すステンドグラスと銘打って、現在は展示での安全性を配慮し、アクリルをはめ込んでいますが、将来的にはガラスに置き換えていきたいと考えています。
この構造は幾何学的に面白い性質を持っており、きちんと折りたためるためのルールがあります。
例えば、直線が一点で交わるとか、同じレイヤーに納まる板同士が当たってはいけない、などです。この2つのルールを同時に満たす形状を探すのは結構大変なのですが、学生たちが、こういう形を見いだして作っています。
もう1つ展示してあるのは、板ガラスを溶着する技術です。ガラスの魅力の一つに溶かして自由な形状で使える、という性質があります。その1つとして板ガラスの縁だけを溶かして溶着させています。これが可能になれば、(工場以外の)現場で大判のガラスをつくることができるようになるだろう、と。

 

このスタジオでもそうですが、一般に使われる板ガラスは運搬と製造の制約があり、だいたい3m角くらいになってしまいます。もちろん、長さ(長辺)を10mなどにすることは(製造上や運搬条件次第で)できないこともないでしょうが、現実社会では不可能です。
しかし、現場でエッジだけを炙って溶着できれば、4m角、10m角というものも可能になるだろう、と思い、そういう溶着技術を研究しています。またそれができればシームレスな多面体のガラス箱を作ることも可能になる。
ここで難しいのは、エッジだけを加熱して割れないのか? ということです。ガラス板を単純に火で炙ると200℃~300℃くらいで簡単にパンと割れてしまいます。エッジだけを加熱して割れないようにしつつ、現場で溶着するという技術に取り組んで来たところ、1年くらい前にできそうだと分かってきました。
溶着する際は、その周りの温度を540℃程度に保たなければいけません。ただし、この温度は冷却に時間がかかり、その温度コントロールも非常に難しく、1000℃以上にして溶かしたものを540℃に冷やして、その温度をいったん保持します。これを「アニーリング」と言いますが、これをするとガラスの分子がゆっくりと移動して、残留ひずみが緩和される。そのおかげで割れなくなります。
というわけで、しばらく540℃以上で全体を保てば割れなくなる、というのを予想はできるのですが、実際にやってみたところ、いろいろな結果が出ました。1階のスタジオには、その条件で成功したものが1つ展示してあります。
また何度か失敗しまして、ついこの間までは、溶着部のまわりを540℃ではなく、もう少し低くした条件でいったん成功したのですが、1週間後に割れてしまいまして、これは冬場の気温と関係しているのかどうかまだ不明なのですが、それも1つ展示してあります。
それとつい最近、先週のことなんですが、(低めの温度でも)成功しまして、それも展示してあります。ご覧いただくと分かりますが、比較的きれいに溶着できております。こういうものができたおかげで、周辺部がもう少し常温に近くても溶着できる可能性が出てきたと思います。
こうした取り組みなどを前提に今回のガラスらせん階段の構造についてお話しします。

 

このガラス階段「STEPS IN THE AIR」の構造については、太田先生から説明があったとおり、ワイヤーをピンと張ったサスペンション構造の一種になります。
こちらが構造計算をした画像です。基本的には、この中央に張った3本のロッドがいちばん効いています。
こちらが3階のスラブから1階のスラブまで約8mあるのですが、ここにピンと張ります。また側面にも3本張ってあります。
縦に張ったワイヤーは、押すと最初は少し柔らかいのですが、変形し始めると固くなるという特長があります。変形すると、ここに角度が生まれて、そのおかげで抵抗力が働きます。ですので、例えばこういうワイヤーを2カ所に張って、間に段板を挿入すると、段が揺れようとしても、抵抗力はあります。
その原理を利用して地震に抵抗するということを考えられますが、やはり縦に張ったワイヤーだけだとかなり柔らかいです。変形が非常に大きくて、変形しても構わないというのだったら地震力に対しても、揺れはするが壊れはしない、というものを作ることはできます。

 

しかし、実際に人が使う階段にするには、もう少し揺れにくい固い構造にしないといけません。
太田先生から最初に話があったときは「ガラスの段板が宙に浮いたような階段」ということで、それをワイヤーで支えている、と。そうすると段板が圧縮材になる。ガラスは薄い板でも座屈に強いので圧縮材になる。それはガラスの特性を生かした形態になる、と思いました。
ただし、圧縮材同士が接触しないということは、先ほど言われたテンセグリティの一種になります。テンセグリティは数々の研究者や建築家が取り組み、タワーとかオブジェ的なものなど非常にたくさんの例があり、今でも研究者がいるくらい、まだまだ解明すること、もしくはテンセグリティで実現できる新しい形がたくさんあると思います。
なので、非常に興味を引かれるものなのですが、テンセグリティは模型でつくることですら難儀する非常に難しい構造です。ある点を手で支えながらゴムひもを張ろうとするのですが、手がいくつあっても足りないくらい難航します。安定する形状を見つけるのが非常に難しいのです。

 

だから話があった時に「ぜひやってみたい」と思うと同時に、期限内にテンセグリティの成立する状態を見つけられるかどうか不安な状況でした。現実にかなり難航したわけです。太田先生の模型にもあったように思い通りに安定した形をすぐには見つけられなかったのです。
なおかつ、「ワイヤー類の数が少ないとより透明感を出せる」ということを太田先生と話しており、帆船を見てもわかるように、ワイヤーをたくさん張り巡らすと簡単に構造を固めることができるのです。そういう風にやれば何とかなるのですが、この階段は全体の透明感が大事なので、極力ワイヤーを減らしたい。

 

太田先生から見せていただいた模型を基に私の事務所でも模型を作ったところ、ここの背骨状に段をつなぐケーブルがあって、ここにテンションをかけると全体が絞り上げられて、全体が固くなることが分かりました。またその背骨があるおかげで段板を吊るワイヤーの本数を減らせることも分かりました。
それを見つけられたために、段板1枚を2点で吊っただけでは安定しませんが、3本のワイヤーがあれば安定する、ということも分かってきました。そこで、この構造計算を進めたのですが、サスペンション構造は変形し始めてから抵抗力を発揮します。変形がある程度進んでから抵抗が大きくなるので、比較的柔らかい構造になります。決して危険なわけではないのですが、揺れやすいという性質があります。
計算で、高さ8mに対して5cm程度変形するとか、歩いている時に1cmくらい揺れるけれどそれほど怖さは感じない、とご説明していたのですが、そういう数値だけを聞いても、その揺れ具合を把握しにくいということがあります。
私たちのように普段から構造設計をやっていると、自分が設計した数値を実際の建物で体感するクセがあります。建物で、そういう揺れなどを体感する機会は少ないですが、例えば手すりなどを設計した時に、自分の設計した揺れを身体で確認することもできる一方、それを他の人に(数値で)分かってもらうのは非常に難しいと思います。

 

そういうこともあって、歩行時や地震時の揺れを実大のモックアップで確認しようということになりました。AGCさんがそう判断してくださって、こういう実験はなかなかできませんので、ワークショップとして、イベント的にもやってみようと、東大および早稲田の大学院生に10人ほど集まってもらい、実験をしました。
このモックアップは揺れの実際を確認するだけでなく、施工手順の確認という意味もあります。こういう鉄骨のやぐらを組んでそこにガラスの階段をかける。段板は、上部の数段だけをガラスにしておいて、他は合板(重量を合わせるため鉄板も付加)にしてテストしました。
こうやって人が歩いて揺れを試したり、あるポイントに力をかけてどの程度変形するかを計測しています。テストの結果、歩行時の鉛直変位はほとんど問題にならないと確認できました。スタジオの階段を歩いてみても縦の変位は感じられないだろうと思います。

 

一方、水平方向には揺れはあるのですが、例えば激しく走って降りても8mm程度の水平変位であることが分かりまして、なおかつ、その変位は歩いている人にとってはそう大きいものではない、恐怖感を感じる変位ではないと確認できました。
それから地震時の揺れがどうなるかということについては、振動台に乗せているわけではないので、完全なシミュレーションをできないのですが、構造計算をして、実験の挙動と計算が一致するということを確認すれば大丈夫ということになるので、この1点に荷重をかけ、後にその解析がモデル計算と一致するかどうかを確認しました。

 

また地震で揺らした時の応答解析シミュレーションもやりました。兵庫県南部地震時の揺れ、建築基準法で想定される最大値の150カインで解析したところ、この紫のグラフが変位計ですね。5cm程度の揺れになるということが確認できます。
中央ロッドの張力も、こちらの黒いグラフですが3t以下になるということが分かっています。こうした解析の結果、高さ8mに対して変形が5cmというのは、変形がやや大きめではありますが、鉄骨造などの柔らかめの構造と比べても許容範囲になります。ですので、この実大実験では「このままいきましょう」ということになりました。
ただし、この時点では側面のロッドは下(床スラブ)まで降ろさなくていいだろうと考えられたのですが、降ろせばそれなりの(耐震や揺れに対する)効果があるということで、側面にも3本のロッドを降ろすことにしました。

 

こうしてガラスの構造による階段が大丈夫ということになると、ガラスは扱いがもっとも難しい建材と言えるので、これが自由に操れれば、他の材料についてもさまざまな可能性が出てくると考えています。

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