イベントレポート詳細Details of an event

第36回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ2013」展連動企画 講演会
“建築とランドスケープを融合する”

2013年10月3日(木)
講演会/セミナー

 

石上 今日は、このスタジオ1階に模型を展示している、神奈川工科大学に計画中の、学生のためのカフェテリアについてご紹介します。
まず、僕が建築をつくる際に考えていることの1つに、空間を組み合わせて空間構成として建築をつくるのではなく、風景のようなものとして建築を扱いたいということがあります。言い換えると、建築の空間単位を設計するのではなく、ある広がりを持った空間を、ある形を持って提案できないか、と考えています。その点で僕は自然環境にすごく興味を持っており、それを建築のヒントにしています。

 

これは大気圏外から地球を見た写真ですが、こう見ると、雲の高さと地上レベルの関係は、貼り付くようにせめぎあっていように感じられます。この雲や大気と大地の間に僕たちが生活しているということであり、僕らが居る場所は、そういうどこまでも広がっていくような結構平たい空間であり、そういう平たい空間がつくり出す景色のようなものをつくっていきたいと考えております。

 

景色というと、形の無いもののように思うかもしれませんが、じつはそうではない。例えば、海や砂漠でいうと、海と空、大地と空が交わる水平線や地平線によって空間が仕切られるわけで、その仕切られた空間を僕らは広い景色と感じている。
また山に囲まれたところでは、山の稜線、山の端と空が交わるところで境界線ができて、そういうものに囲まれることによって、海や砂漠よりも小じんまりとしたスケール感を感じる、ということで、僕たちが体感している景色というものは漠然としたものではなく、形あるものだと認識しています。そういう形のあるものであれば、建築でつくりだせると思っています。

 

 

さて、今回は大学の敷地の中に学生のためのカフェテリアをつくります。
敷地としては、こういうところです。KAIT工房という、昔つくった建物はここにあり、こちらがグラウンド、またこちらが広場です。このグラウンドの一部に、こういう大きさで7000㎡くらいの建築物をつくるという計画になっています。

 

これが図面です。形は全体として少し歪んだ四角形になります。長手で150mくらい短手は70mくらいの、計7000㎡の建物です。空間としては前庭があって、ガラスで仕切られたカフェテリアとキッチンがある。そして全体に屋根がかかっていて、前庭は半屋外の空間で草花が生えています。その景色を見ながら学生たちは食事をし、時間を過ごす。
またこの建物の機能として単に飲食だけではなく、学生たちが集まって話し合いをしたり昼寝をしたりなど、自由な使い方をできるスペースになります。庭の一部は道路から車が入って来てお弁当を販売することなども考えており、いずれにせよ学生たちは半屋外的な草原で食事をしたり過ごしたりすることになります。
この屋根面については、110×70mの大空間を覆う大屋根になります。またこの大屋根のところどころに四角い穴が空けられています。

 

地形としては、この等高線で分かるようにすり鉢状になっており、それに沿うように屋根も同じすり鉢状にしています。
これが断面図です。こちらが既存の地面で、これが次第に入り込むようにして空間をつくっていきます。こちらのスパンが110mで、その上に大屋根がかかるのですが、空間を風景としてとらえようとする場合、柱を落としてしまうとそれが建築的なスケール感を呼び起こしてしまうので、このプロジェクトではまさに建築としての新しい風景をつくるためには、柱のような建築的な分節はどうしてもそぐわない。だから、そういう大スパンにもかかわらず、柱は1本もありません
そうした無柱の大空間のようなものは、従来の建築で言うと、例えば大きな工場や飛行機の格納庫などメガストラクチャーとして存在しています。そうした建築物は、結果として飛行機や機械のスケールに合わせて100mスパンとか、50mの高さなど巨大なものになったわけです。

 

僕は、そういう人間離れしたものにも興味があるのですけれど、そういう大きな構造物をいかにして人間的なスケールに寄せるかということにも興味があります。それができれば人間的なスケールで風景をつくりだせるのではないかと思うので、この110mの大スパンに対して天井高は2.1mから2.3m程度になっています。
この屋根は9㎜厚の鉄板1枚でできており、その上に極薄の人工土壌を開発して植物を植えられるようにします。先ほど話したように、屋根の下の内側にも植物が生えるので、上(屋根)と下(地面)が薄く重なり合っている状態になりますが、少し斜め上から見ると建築だと言うことが分かります。
グラウンドのレベルに対してわずか2mくらいの高さのレベルに屋根があり、学生たちは、この大きな草原のような屋根を眺めてから内部へ入って行く。イメージとしては水面の下へ吸い寄せられていく感じです。

 

立面は、このようにとても薄い建物になっています。内部空間は柱が1つもないので、ある意味、スケール感が狂うような感じにしたいと思っています。
建築としては驚くほど大きいというものではありませんが、建築のプロポーションを操作することによって新しい建築のスケール感をつくり出して、その結果、建物の内側にまるで新しい景色が生まれたような、そういう感じにできないかと思っています。
なお、先ほど紹介したように鉄板の大屋根には無数の開口部があり、そこにはガラスなど何も入っていないので、光だけでなく雨風も入ってきます。晴れた日だと無数の開口から入ってきた光がグラフィカルな模様を草原の上に描き出し、曇った日には光の明暗が浮き上がって丘の上を流れ、低い雲のような感じになったりします。また雨の日は、この開口からそれぞれ雨が入ってくるので、雨の柱のようなものが空間全体に出現します。
ただし、屋根で受ける雨水については全部の開口からは落ちないようにして、いくつかの特定の開口部まで導いて、そこから落ちるような仕組みにしますので、いくつかの開口部には滝のようなものができます。このように天候によって空間の様相が変化していく、そういう建物になっています。
そのような空間もしくは風景のようなものを眺めながら学生たちは食事をすることができます。

 

構造体としては、壁が周辺にあってその下に基礎があり、鉄板が連なるように110mのスパンを渡している。これだけ大きな建物なのに、建築としては壁の部分だけになります。
内部空間に構造体はまったくなく、周辺に布基礎のような壁がグルッと回っているようなものになっています。先ほどの平面図に等高線があったのを覚えていらっしゃると思いますが、鉄板も自然と垂れ下がるようなすり鉢状の曲面になっています。そのすり鉢状の屋根の曲面をトレースするように内側の地面も形作ってあります。

 

これが細かい図面です。基本的に9㎜の鉄板1枚ででき上がっているのですが、周辺部だけところどころリブが出ています。周辺構造体以外の部分の地面は地盤改良をして雨水を確実に吸収できるようにすると同時に、草原のようなものをつくります。
構造設計は小西泰考さんに頼んであります。小西さんがさまざまな解析をしていて、鉄板を周辺の壁で引っ張る時に、しかも歪んだ四角形なので、どういう応力がかかるか、熱ではどのようなモードで変形するか、台風やゲリラ豪雨の対応など含めて、変形の仕方をシミュレーション、スタディしています。
この建物はいわゆるメガストラクチャーを人間のスケールにすり寄せたようなものなのですが、メガストラクチャー的な動き方もします。代表的なメガストラクチャーだと、例えば東京ドームでは天井高が1mくらい平気で上下することもあるらしいのですが、それはあのような大きさだと大した変化ではありません。
一方、この建物では2.1mの天井高ですから1mの変化があるとかなり大きな空間の違いになります。朝、大学へ来た時に2.1mくらいの高さだったのが、夕方に3mくらいに高くなっているということも起きます。つまり、メガストラクチャー的な動きのスケール感が、人間的なスケール感で体感できます

 

屋根の断面をもう少し詳しく説明しますと、9㎜の鉄板があって、その上に防水シートがあり、その上にアスファルト、それから客土をします。9㎜の鉄板は熱変形がクリティカルになる。鉄板だけだと周辺の壁が壊れてしまうくらい変形するということなので、その上に20~25㎜くらいの客土をして植物も植え、常に水を流すことで屋根全体の温度を下げます。そうすることで熱変形を許容範囲に抑え込めるようになります。
また9㎜の鉄板だけだと風圧による吹き上げもあるので、重りとして土を乗せるという意味もあります。先ほど話したように、雨が開口部から入ってくるので、下の土壌を地盤改良して、そこに落ちた水は必ず吸水できるようにします。
光のスタディもしており、これは朝から夕方、季節による変化もシミュレーションしており、時間によっては光が直線的に見えたり、広がりをもつこともあります。また季節によってどこが明るくなり、どこが暗くなるかも考えています。

 

ところで先ほど話した、屋根で受けた雨水の流れが全部の開口部からは落ちない、というのは、水を堰き止めるようなものがあるからです。計画的に特定の開口だけから滝のように落ちる、ということについて、これを設計するにあたりかなり悩みました。設備設計の方にもお願いしてみたのですが、このような建物での水の流れ方はなかなか解析できないというのです。
そこで、ある大学の研究室と協力して雨水の解析を行っています。例えば、ここへ一カ所だけ穴を開けたらどうなるか、また二カ所開けたらどうなるかなど、水の止め方を分析しています。
屋根全体を薄く見せたいので、できるだけ水止めの高さを低くしたいとも考えています。そうして、どこに滝をつくると溜まりを浅くできるかシミュレーションし、最終的には5つの開口に水を集めて流す予定にしています。
開口部を1つ開けた場合に、その周辺に開けられるルールをつくって、小西さんが数式化してくれました。ただ、この計画では開口の位置により光の入り方が大きくプランに影響してくるので、そこをいろいろと試行錯誤しています。
結局、この建物には、もともとプランがないようなものですから、そういう建築的空間ではなく、どちらかというとランドスケープをつくるイメージで「ここから見える景色はどうなるのか?」というように、景色をつくるような手法でつくっていくしかないかなと思い、結局、こうした模型を作り、その模型からプランを起こすようなことをしています。
この模型の内側から見えるものをスタディしながらやっていくということにしました。だから、最終的には20分の1の模型をつくって確認をし終えたところなのですが、現状としては10月の中旬に風洞実験を始めて、得られたデータを解析して大臣認定に臨む。来年2月に認定を取得して来春に着工、その冬に完成という予定になっています。

 

このプロジェクトの場合、分からないことが多すぎて、例えば建物の動き方がどうなるのか、また人がこの中でどう振る舞うのか、地面は緩やかな勾配から少しきつめの勾配に変わっていくのですが、人が歩きたくなる勾配がどれくらいで、一方、座りたくなるのはどの程度の勾配か、なども考えています。
先の雨水対策にあったように一般的な建築とはだいぶ違うので、かなり時間がかかりましたが、ようやくここまでたどり着いたというところです。

 

中﨑 ありがとうございました。

1 2 3 4