イベントレポート詳細Details of an event

第34回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ2013」展連動企画 講演会”集まって住む”

2013年8月29日(木)
講演会/セミナー

 

藤野 生物建築舎の藤野です。
私たちが取り組んだプロジェクト「鹿手袋の長屋」はさいたま市の武蔵浦和から徒歩10分くらいの場所にあります。周囲は低層住宅がまばらにある、埼玉にしては閑静な住宅街です。
そこにこのようなRCの2階建てと3階建てが合わさったような建物を計画しており、来年2月の竣工を目標に現在工事を進めております。
この建物の特徴は、上から見るとコンクリートの正方形に近いボリュームを格子状に抜いていったような形、削りとったような形になります。この図面で色を塗った部分が建物のある場所で、1階はこのように密ですが2階、3階へと行くに従って密度が疎になります。

 

実際のプランはこのようなかたちで、全部で14世帯が暮らします。3階建ての建物の中に入り組むように各部屋が計画されており、最も狭い部屋が19㎡、大きなものは85㎡までバリエーションに飛んでいます。
大きな特徴として先ほど配置が格子状と言いましたが、それに加え各住戸が専用の外部空間を持っています。例えばこういうガレージやテラス、箱庭などです。

 

結果としてコンクリートの中にいくつもの個人的な外部空間があります。何でそうしたのかと言いますと、この建物はアパートメントなのですがタイトルにあるように「長屋」という形式になっているからです
長屋というのは、例えばあるアパートで1階に3戸、2階に3戸入っている場合、自分のところへ行く際に同じ動線や階段を共用するのですが、こういう長屋の場合は、全部自分専用の動線で自分のところまで行ける、道路に出るまでは共用部がないのです。そういう意図的に分けた個人のスペースの中に個別の外部空間を設計してあります。

 

ただし、これら個人の外部空間は他の人からも一部見えるようになっています。
例えばベランダに置いたテーブルや洗濯物、1階であれば車やバイク、鉢植えなど自分が借りている外部空間を思い思いに使う一方で、格子状なのでそれがよそから見られて、外部空間同士が少し距離を置きながらもつながっているような関係になっています。
他人の外部空間がチラチラ見えます。そしてそれも風景になる。
図面上のここに暮らしている人から、こちらのほうに暮らしている人の外部空間が見えますし、反対側の斜め上に、また別の人のベランダが見える。
少しの距離を置いて他の人たちの生活の風景や気配を感じられる集合住宅になっています。
お隣さんと初めて会話を交わす前に、自転車好きな人とか、植物が好きな人、など風景を通してすでに関係が始まるようになっています。

 

では何でそのように他の人をチラチラ見える空間をわざわざつくるのか、ということが問題ですよね。
今回、プレゼンしている3つのプロジェクトの中では私のプロジェクトが最も設計者の関わりがドライだと思います。住むというプログラムに対してあまり提案をしていませんし、建物の形だけで関係性をつくろうと考えた面もありますけれど、住人同士の共有とか関係づくりをあまり信じていない部分があります。

 

実は以前、群馬の高崎で同じような長屋を設計した経験があります。基本的には同じようなつくりの長屋で、共用部のない、人の関係性まで関与しない、建物のつくりだけでとどめるという設計でした。
ただし、考え方として今回ほど視線が交差するような設計ではありませんが、それでも近くの人がつながるかもしれない可能性を意図しました。その結果、やはり個人に与えられた専有空間を個人が好きに使うことになりました。各住人たちが各自の外部スペースに集まることで少しずつコミュニケーションが生まれました。

例えば、写真にあるように、その長屋には植物を扱う商店が入りました。そうすると住人の方々がそこへ来て、そこの同じような植物を買うということが起こりました。各個人に与えられた専有面積を使って、ゆるやかなコミュニケーションや関係性が生じている。
今回のプロジェクトを考える際も、共有部分をどうしようかと悩んだのですが、ここに住む人たちの多くが外に出て来て、共用スペースで一緒に食事をする光景がどうしてもイメージできませんでした。むしろ、仲良くなったら各自のリビングへ呼んだり、バーベキューをやるなら一緒に河原へ出掛けてやるのではないか、と思えたのです。
そうであれば個人のスペースを最大限に充実させ、共用部をなるべくつくらないほうがいいだろう、と。何となく緩やかだけれど、隣人や同じ長屋に住んでいる人たちの生活の雰囲気を感じ取れるようにして「この人とだったらつながってみたい」という、そんなサインが見られるような、控えめではあるけれど、ある種の関係性が徐々に芽生えるのではないか、と考えました。

 

もうひとつ、オーナーさんの視点から考えてみることも非常に重要です。
まず、今回のプロジェクトは構造的にRCの打ち放しにしています。その最大の理由は車の存在です。車を個人の専有部分まで引き込めることが埼玉という土地柄では重要になってきます。
自分の土地まで駐車スペースを引き込み、東京のように離れた駐車場まで行くのが面倒、というニーズが強くあり、そういう入居者ニーズに応えなければなりません。
また賃貸物件なのでオーナーさんが投資を20年、30年かけて家賃から回収していく。そうであれば今後の建物と車の関係まで考える必要があります。今後、電気自動車が普及していくと、建物と車が充電可能な距離にないといけない。ここの長屋ではそうなっても対応可能です。
また、車を引き込むならば隣家への振動や音の問題が生じますけれど、RCにすることでその問題を緩和できる。さらに車以外でも、楽器が趣味の人、大型犬などペットを飼う人などRCにすることで募集を広げる効果が見込めます。群馬の長屋もそうだったのですが、当然、電気や水道の設備を外部空間に備えてあります。

 

最後に、今回の展示方法について触れておきます。
私たちのプロジェクトは他の方々の模型に比べて最も小さな展示になっています。今回、とくにつくってみたかったのが、この小さな模型の下にiPadを置く展示です。iPadのディスプレイでは動画で24時間の人の流れ・動きをシュミレーションして示しました。
というのも格子状の構成になっていることによって生じる関係性を外部空間との関わりでも見せられないか、と考えたのです。そういう展示にしたかった。
ここでは住人を含め人が動き続けていて、集合住宅とはいえ、常にお隣さんのことばかり気にしているのではありません。隣人は、光や風、音、天候など外部環境のひとつでもある。格子状にしたのは、そういう光や風などまで含めた外部環境を導くためでもあります。
デザインでは、そういう周囲の環境を強く意識しないといけません。そうした周辺環境があるからこそ守られて、安心して周囲の人ともつながることができる。そういう賃貸住宅を計画しました。

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