イベントレポート詳細Details of an event

第34回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ2013」展連動企画 講演会”集まって住む”

2013年8月29日(木)
講演会/セミナー



 

猪熊 猪熊です。よろしくお願いします。
今回のテーマは集まって住むということであり、出展したプロジェクトもシェアハウスなので、他の方々に比べるともっとも共用部の多い建物になっており、いちばん”集まって住んでいる”ように見える物件です。

 

その紹介をする前に、私たちが他にどのような設計活動をしているのかについて例示させていただきます。
基本的には普通の住宅の仕事もやっておりますが、私たちの興味のあり方や巡り合わせもあって、比較的人が集まるような物件、コミュニティの中心になるような場をつくる機会が多いのです。
写真は「FabCafe」と呼ぶ、工房とカフェが混ざったような、ワークショップみたいなカフェです。
次の画像は陸前高田のコミュニティカフェです。
そしてこれは渋谷にあるコワーキングスペースで、ベンチャー企業の人とかフリーのデザイナーなどが一緒に仕事をしていく場です。

 

そのような「集まる」に関わる、これからの社会に役立ちそうなことも考えながら設計をしています。そういう流れの中で、今回のシェアハウス「LT城西」についてお話しします。

 

これは7月に竣工したばかりの新築物件です。外観はこのようにいたってシンプルなデザインです。
一方で中へ入ると複雑になっており、この写真のように立体的な空間がダイナミックに展開しています。入居者は計13人で、それぞれの個室と共用部分があります。
ちなみにシェアハウスの概念をこの図を基に簡単にご説明いたします。左側はいわゆるワンルームマンションのイメージで描いたもの、右側がシェアハウスです。ワンルームでは水廻りがそれぞれの居室と一緒に備えられており、居室も6畳程度といったところです。

 

それに対しシェアハウスは、個室は居室のみで、その代わりキッチンやトイレなどの水廻りを全部居室から離して複数人で共用してしまうことにより、余った面積を大きなパブリックスペースとして使うことになります。現在、シェアハウスというオペレーションがビジネスとして成立している中で、我々にたまたま新築のシェアハウスを手掛けてみないか、という話をいただいたわけです。

 

設計についてご紹介しますと、先ほどの内部空間の写真や、この俯瞰の写真ではけっこう複雑で立体的な設計に見えますが、平面図で見ると、そっけない3600ミリのグリッドでできています。一辺3600ミリの正方形のマスを3×4で配置し、すべてそのマスの中に収める設計です。
賃貸物件なので、なるべく安くしたいという理由があってモジュールを統一したという側面もありますし、設計者のスタンスとして、特殊なものをつくるよりは、どこかである種のプロトタイプに成り得る一般性を持たせたい、と考えたところもあります。木造在来工法の普通のスパンでつくることが重要なのです。

 

一般的な木造賃貸集合住宅よりも単純にしたいという思いもありました。もちろん、モジュール化したことによって、建物や空間としての魅力が薄れるのでは賃貸物件として意味がありません。そこで断面方向で、何かシェアハウスらしいアイデアを盛り込もうと工夫しました。
この断面図にあるように、2階には微妙な階高の違いがあります。1階は普通なのですが、2階には2種類の高さがあるわけで、このレベルは2階ですが、そこから半階上がったところにも2階があるというつくりです。半階分だけ階高を上げたところの余分なスペースは、以前、住宅メーカーが宣伝していた「蔵」的な収納スペースにしています。

 

そういう工夫によってより立体的な空間展開をしていますけれど、それも共用部が広いということで成立します。またそれが新築シェアハウスの魅力につながると思います。そういうことなので、2階の平面図は2階と2.5階の2種ありますが、基本的に6マスに居室が入っており(テラスの2マス分を除く室内の)共用部は4マス分しかありません。

 

このように断面図で見ても平面図で見ても一見共用部の多いプランに見えますが、延べ床面積で見ると全体の半分以上が専有スペースで構成されています。
計300㎡ほどの建物ですけれど、13人で共用しているので1人当たり23㎡くらいになり、ワンルームタイプと比べると、かなり狭い、合理的・効率的な設計になっています。
木造賃貸物件としては普通のワンルームタイプと比べてほぼ同じか、それ以上にコストの安い新築物件になっています。

 

この写真は1階の玄関を入ったところから見た内観です。けっこう複雑そうな内部空間に映りますよね。
これは奥へ進んでダイニングから見たところです。天井が高くて開放的なところと、低くて落ち着けそうなところがあります。
このように共有部は天井高の変化で雰囲気づくりをしています。一番高いところで2.5層分抜けています。
また、2階へ上がるとこの写真のように階段がいくつも見えます。これらは2.5階の居室へ上がるための個人専用の階段です。
グリッドで設計してありますので個人の各居室はすべて同じ面積になっています。ぴったり8畳です。ただし共用部からの居室までの距離がみんな異なっており、1階の人たちはすぐリビングに出られて共用部から近い。
一方、2階の居室の人たちは、写真で見られるように2階の共用部からさらに階段を上がって入る人もおり、かなりプライバシーが高い。音も静かです。
部屋の内装は全居室ほぼ一緒ですが、共用部との距離により、各居室の個性が出るし、入居者の選択肢が生まれます。

 

この写真のように2階にも吹き抜けに面したリビング的な場所がありますし、これ以外でも家全体に複数の共用スペースがあります。
シェアハウスでは、共用部に出て来るとみんなワイワイして楽しそうであり、常にイベント的なものが発生するといったストーリーが思い浮かびますけれど、決してはそうではないだろう、ということを強く意識して設計しました。むしろ共用部に独りでいられるような空間づくりを心掛けました

 

この写真は、竣工後に撮ったものですが、それが特徴的に出ています。
1階のリビングで話し込んでいる人たちがいて、そこから離れたソファーでくつろぐ人、また2階リビングで読書に耽っている人など、共用部でありながら思い思いに過ごしている。そのように自分の行動の自由さを確保できれば、かえってみんなで集まるイベントを開いても選択的に楽しめるだろうと、そういう設計を意図しました。
独りでいられる共用部をつくることで気軽に居室から出て来られる雰囲気が生まれます。それと、これは居室の入り口を撮ったものです。部屋の入り口にちょっとだけアルコーブ的なへこんだ場所を設けて、扉が開いてもそれほど個室の中が丸見えにならないようにしています。そういう細部が大事と思うのです。また、先に話したように各居室はプレーンな正方形で、どこも一緒ですが天井高の違いで多少の変化をつけてあります。

 

現在、ようやく貸し始めたところですが、シェアハウスでは面接などをしてメンバーとして合いそうかどうかを運営者が事前に判断しますので、すぐに満室にはなりません。募集して1カ月ちょっとですが3分の2くらい居室が埋まった状態です。
オーナーの方は、他にも3軒のシェアハウスを運営していて、他のハウスと共同でイベントを開催することもあるそうです。

 

さて、私たちは今回のプロジェクトもそうでしたが、先ほど紹介したコミュニティカフェなど「人が集まれる場所をどうつくるか」に興味を持ち、取り組んでいます。そういう中で自分たちが捉えている「集まって住む」ことの変遷、これは社会学者の方々が指摘され、よく知られているものですが、次のような変化があると思います。
まず、高度成長期までは地縁や血縁でコミュニティができていました。これはいい面もありますが、きゅうくつで慣習的という側面もあります。内部の人も外部の人も、そこに出入りするのが難しいという弊害もあった。
そして高度成長期には国全体の生産性を上げるために都市や新しい場所に労働力を集中させ、その郊外に住む場所をつくりました。その結果、会社というコミュニティと核家族というコミュニティだけになった。
そして現在は会社の終身雇用制度が崩壊し、会社としてのコミュニティが怪しくなった。少子化でもはや核家族さえ崩壊している。高齢者、未婚者を含め単身世帯が増え、平均世帯人数が約2.5人になっているのが現状です。
「それでいいのか?」という疑問が我々にもあり、何か新しいつながりが必要なのではないか、という気がします

 

近年はコミュニティデザインが行われるようになって、それをすごく大事なことと思っています。そういった状況で現在、私たちが考えていることを簡単にまとめてみました。

 

まず1つ目は「マスに接続し得るプロトタイプとしての単純化」です。突飛なものをつくってそれで終わってしまうのではなく、社会的にも可能性が感じられる、同じことをやってみたいと思ってもらえる、そうした広がりのある設計をしたい。マネをする人が出てきてほしい、という考えでいます。
シェアハウスは今、増えていると言われますが、そこに住んでいる人は全国に1万人程度しかいない。
一方で、単身世帯は1000万人とされ、シェアハウスの単身シェア率は0.1%くらいです。だから、今後、もう少し増えるだろうから、こういったシェアハウスが当たり前なことであるようにしたいと思います。

 

2つ目が「新しい合理性と豊かさ」と書きました。例えばワンルームのほうがオペレーションは楽で、つくってしまえば後は貸すだけ、なのですが、それが合理的で豊かなのかと問うと、ちょっと違うような気がします。
シェアハウスで言うなら、今後の縮小する社会における合理性と豊かさに対して、共用部が本当に豊かで合理的である、と感じられるかが大事だと思います。

 

そして3つ目として「設計が生み出す都市型のコミュニティ」です。設計とは、空間設計だけでなく、オペレーションも設計だと思うのです。
一度壊れたコミュニティを別のかたちでつくり直すのは、慣習だけに頼ると難しい。やはり制度や空間などオペレーションも必要です。シェアハウスにもそういう考えで取り組んでいます。

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