イベントレポート詳細Details of an event

第33回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ2013」展連動企画 講演会”個の思いと向き合う”

2013年8月8日(木)
講演会/セミナー

原田 ところで、山口さんのプロジェクトはスケールがすごいですよね。普通の民間では手が出せないところへ食い込んでいるわけですよね。そのプロジェクトを可能にしているものは、何なのだろうと思うのですが。

 

山口 質問しづらいだろう、と思っていました(笑)。ラオスの場合は特別で、共産国であり、官はあるがそもそも民がない。僕のプロジェクトはすごく政治力のあるクライアントなので、ある意味、官みたいなものであるし、同時に民でもある。
ただ、今お二人から聞いていて、原田さん、平瀬さんのプロジェクトは建築の話だと思います。特にヨーロッパの場合の建築は、突き詰めるとファサードをつくる仕事だと感じていて、建築は比較的長い時間保たれるもので、一方、僕の仕事のインテリアデザインはある意味、変わっていくものですよね。

 

ラオスにはああいう建物はまだ他にない。だから、周辺に住んでいる人たちに、建築としてどう見えるのか、に興味があります。「大富豪が勝手にやっている」ように映るのか、「自分の街に立派な建物が建って嬉しい」と思うのか、あるいは「ちょっとくらい分け前をくれ」と妬んでいるのかもしれない。それが僕には分かりません。たぶん建つことで意識が変わっていくこともあると思います。
インテリアを含め、建物がきちんと動き始めると僕の感じ方も変わっていくのかもしれません。

 

中﨑 山口さんからお二人に質問はありませんか。

 

山口 今日のテーマで考えると、お二人のプロジェクトは関わっている人(=個)が多いですよね。
例えば原田さんでは焼き鳥屋さん、中華料理屋さんをはじめ、それぞれのテナントの方々が「こうしたい」という個の思いをもっていらっしゃる。
平瀬さんの場合も直接関係あるかないか分からない人まで打ち合わせに参加していて、今後もテナントとの関わりが出てくる。そこで、どのようにしてみなさんのコンセンサスをまとめあげられるのかをお聞きしたい。
ものすごく大きなプロジェクトだとかえってイメージできそうですし、公共建築であれば政治的な判断で収まる場合もありそうですが、今回くらいの規模で、関係者と面と向かって言い合える距離でしょうから、どのように建築家が話をまとめるのかをお聞きしたいです。

 

原田 ハモニカ横丁は確かに多くの関係者がいます。一方、僕が関わった公共的なプロジェクトでは愛知万博があり、そこにも多くの関係者がいました。そういうプロジェクトの場合でも、僕が感じているのは、いい意味で「聞かない」ということです。そうしたほうがうまくいきます。
「嫌だ」と答えるのではなく「僕はこれがいいと思う」と、個人の顔で言う。自分の感覚について社会的な責任をとります、という顔をする(笑)。そうすることで信頼してもらえるところがあると思います。それはプロジェクトの大小を問わない。逆に透明な存在になって「何でも言うことを聞きますよ」という顔をしていたら絶対にまとまりません。

 

平瀬 僕のプロジェクトの場合は、先ほど「行政の人も来た」と言いましたけれど、実際にはそれほど多くの関係者はいません。どちらのプロジェクトも非常に大きな力を持っているオーナーさんがいて、その人の意見を聞いているという状況です。
で、案を出すときについては、僕も原田さんと同じようなやり方です。またプロジェクト自体、すぐ終わるわけではありません。

 

例えば酒蔵のほうだと2009年くらいから関わってきていますが、1年の半分は酒を仕込んでいるため工事をできません。毎年ちょっとずつしかできないんですよ。その時間の中で信頼を得ていくわけです。
最初のうちは試行錯誤していろんな案を出していましたが、今はホットラインのように電話がかかって来て「どっちがいいですかね?」と聞かれたりして「こっちでしょう」と言うと、割とすんなり進むようになってきました。
時間をかけたやり取りの中で信頼してもらえたのかもしれません。

 

ところで、原田さんのハモニカ横丁のプロジェクトは、都市をつくっているのにも似て、すごく羨ましい感じがします。”計画しない計画”の細部についての決定をどこでしたのかについて教えていただきたいのですが。

 

原田 関係者の声も多く、その声もあれば、素材の物性としての声もあるんですね。それらのバランスがとれた時、としか言いようがないのです。
さっき、わがままと言いましたが、わがままを言う時は、ちゃんとしたことができないと、ちゃんとしたことを言えないと、ダメなんですよね。
確かにさまざまな強い個性の方々なので、丁寧に対応してきた結果、あるバランスがとれる時があるんです。調和された瞬間が来る。その時に「コレだ!」言います。ずっとネゴシエーションしてきていますから、それでいいということになる。

 

平瀬 そうすると、やはりかなりの時間をかけて調整している?

 

原田 そうですね。長期間というほどではありませんが、会った時に濃密な時間を過ごすようにしています。

 

平瀬 10年くらい前に山口さんが手掛けられた別荘を拝見させていただいたことがあり、それ以降も気になって、いろいろなところで写真を見させていただいております。
先ほどから聞いていて、ラオスの仕事は今後、山口さんに大きな影響を与えそうな気がしました。納期があるかないか分からないような時間ですとか、いろいろな制約から放たれた考え方もされるようになるとすれば、次に進む際に、作用しそうなもの、変わって行く予兆みたいなものがあるのでしょうか?

 

山口 強く感じているのは、時間的なこともありますが、それ以上に、何もない状況でつくる、というか、何かを生み出さねばならないので、対クライアントというよりも、自分と向き合うことの難しさを感じています
日本のプロジェクトの場合はいろんな条件が付きますよね。例えば、お隣の開口部の状況や敷地の方位だけでも変わるし、もちろん予算など縛る条件がたくさんあるので、その中のベストを模索していくと、案外、決めやすい気がします。

 

しかし、ラオスのプロジェクトは、何も規制がない。器である建物は決まっているのですが、1500㎡もの家を造ること自体はすごく簡単なことで、言いづらいですが、スペースが余っちゃうんですよ(笑)。
ベッドルームと言っても、人間のサイズやベッドのサイズは決まっているので、ベッドを置いて、それ以外をどうしようか、と(笑)。自分が試されるわけです。
普通ならリビングと呼ぶ場所を、あそこではホールと呼ぶ空間にしていますけれど、リビング的な考え方をすればソファーを置いてリラックスできる場所を設けても、300㎡くらい余っちゃう。これが住宅ではないファンクションなら、まだ考える余地はありますが、住宅として考えると、どうしてもスペースが余る。とにかく自由なんです。
予算も十分、スペースも十分、そんな自由な時に自分がアウトプットとして何を出せるか、という状況に置かれています。

 

同時に、アメリカのシリコンバレーでも3000㎡くらいの平屋のインテリアに取り組んでいます。IT企業の優秀なエンジニアを集めるためのプロジェクトですから、いかに魅力的なオフィスをつくるかというプロジェクトです。
例えば、昼間からゆったりとお酒を飲めるとか、すごく心地よいラウンジがあるとか、そういう空間を企業が用意して優秀な人材を囲い込もうとする。そうなると、3000㎡といっても、すごく狭いスペースになってしまい、余白をどのように確保し、そこに何を提案するか、が大切になってくる。大きいスペースがあっても、そこがラオスとはまったく違う。
そんなプロジェクトを併行して動かしていると「東京に居て仕事するのは、甘えていたのではないか!」と感じました。

 

中﨑 時間ですのでそろそろまとめます。
個の思いと向き合うというテーマでセッションしてきましたが、個の思いというのは、距離みたいなものだと感じております。その思いとどういう距離感をとるか、が建築の中に出てきていると思います。
例えば、原田さんは、すごく近い距離にある感じですし、山口さんはまったくわからないような距離で、自分との距離も測りながら進んでいる。また平瀬さんのプロジェクトは地域のランドマークでもあるので、個人と地域の距離を固めていく大変さがあると感じました。それが今回の印象です。どうもありがとうございました。

 

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