イベントレポート詳細Details of an event

第33回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ2013」展連動企画 講演会”個の思いと向き合う”

2013年8月8日(木)
講演会/セミナー

 

山口 こんばんは、山口です。よろしくお願いします。
ラオスで進めているプロジェクトのご紹介をします。
まず、ラオスについてご存知の人がどれほどいらっしゃるか疑問ですよね。そういう僕自身も、ラオスにはまったく馴染みがなくて、そもそもラオスとは国の名前なのか、都市の名前なのか、正直なところ分からなかったのです。
この話をいただいた時に、ラオスというと「地雷が埋まっていそう」「ミサイルが飛び交っていそう」と思いました。初めて現地へ行った時も、どこまで覚悟を決めていたかが不確かで、「無理!」とも思ったのですが(笑)……。

 

そんなラオスは共産主義国です。以前は危険なエリアだったこともありますが、今はそんなことはまったくなくなっており、極めて平和で美しい自然に満ちた国です。
ラオスは貧しい国と思われるかもしれません。確かに経済的には貧しい側面があるといえそうですが、ラオスに行って、貧しさの尺度にもいろいろあることを学ばされました。というのも、ほとんどの人が昼間働いていない。
街中を車で走ると、みんな昼寝している。ただそれは仕事があるとかないとかではなく、働かなくてもなんとか食べていけるのです。だから、その辺で放し飼いの牛、ヤギなどがいて、果物もたくさんなっている。彼らにしてみれば「何で働かなくてはならないの?」と、たぶんそんな感覚なんだろうと思います。
つまり、また違う意味で豊かな国だと感じますし、自然環境としてもとても美しい風景が残っている、というか、美しい風景しかない、という場所なのです。
そういう風景の中に、忽然として、こういう建物が現れる。この建物の様式はよく分かりません。たぶん明確な様式などないと思いますが、イメージとしてはヨーロッパの宮殿の雰囲気を模倣したものです。

 

構造的にはRCの3階建てで、面積は1500㎡くらいあります。この建物の背後に少しだけ見えていますが、後ろに6000㎡くらいのメーン棟があります。そしてシンメトリーで、その向こうに同じく1500㎡の同じような建物が建っています。
今回のプロジェクトは、この建物を舞台にしています。この建物はラオスで成功しているあるファミリーの家です。自宅がメーン棟の6000㎡で、写真の3階建て1500㎡の建物は20代の女性が独りで使う予定になっています。
その女性は世界中、東京も含めて、いろいろなところへ仕事や遊びで出かけており、常にそこに居るわけではありません。家としては、ここなのですが、日本人が考えるような自宅とは異なり、自分の客を招いてもてなすための迎賓館的な役割の建物でもあります。

 

この建物の真正面に大河メコンが雄大に流れており、本当に広々とした敷地に大きな家がドーンと建っています。
この国の決まりとして川沿いに建物は建てられないのですが、このファミリーは建てていいという、ある種、特権的な方々です。

 

中はこんな感じで、まだ仕上がっていません。工事が始まってから1年経っていますけれど進行が非常にゆっくりしています
建物全体の設計や施工はタイ人がやっています。というのも、ラオスには近代的な建築技術がほとんどないのです。
一般の人々が住んでいる家は、土や樹木等、自然素材でできた囲いみたいなもので、この建物のようにRCで何かをつくるような技術はほとんど存在しません。ですので、何かつくる際は隣国から人と技術を呼びます。建築家も工事関係者もそうです。
この国の決まりとして川沿いに建物は建てられないのですが、このファミリーは建てていいという、ある種、特権的な方々です。

 

僕らはインテリアのチームとして入っているので、この写真の状況はタイ人のチームによって内装の状態までもっていってもらう途中の段階なので、すでに1年経つのですが、こちらが思っているようには進んでくれず、インテリアの仕事もなかなかスタートできません。
そういう状況が最初はストレスでした。しかし、最近は大陸的な時間の流れや仕事の進め方に慣れてきた部分があって、そういう土地で、日本人が「納期」とか「予算」とか「引き渡し」などと神経質になっても意味がないと感じるようになってきました

 

今回、インテリアの設計は僕が行い、工事はタイに居る日本人が代表を務める施工会社が担当することになっています。
クライアントの女性はアメリカで育っているのですが、知日派・親日派の人で、日本人や日本人の仕事を信頼しており、また日本人のデザインが好きだ、という人なので、ぜひ日本人にやってもらいたいということになったのです。
そういう状況で、タイ人のチームとやり取りしながら仕事に臨んでいますが、例えば、「サッシはいつ入る?」と聞くと「来月だ」と答えるのですが、来月に行っても、その翌月に行っても何も入っていません。
そういう中でやっていると、行ったところで考える、それしかできない、という雰囲気で、そうするとデザインもどんどん大らかになっていきます

 

僕はこれまで東京での仕事が多かったのですが、東京の敷地でデザインを考えるのと、ラオスでやる仕事はまったく違います。
東京では、いかに隙間を、デザインの突破口を見つけていくか、ということでいろんなアイデアを出しますが、ラオスやタイではかなり違う。

 

例えば、バンコクもすごく景気がいいのでリノベーションなどとは言わない。リノベーションなどと言っているのは僕が知る限り日本だけです。日本がリノベーションに取り組むのは(日本が置かれた状況から先進的な)価値があると思いますが、タイやラオスだとそうではなく、イケイケドンドンなのです。
そんな中であのような建物で仕事をするわけです。ラオスの敷地で周りを見ると、自然素材そのままでつくられている家々がある。その環境の中で何ができるのだろう? と考えます。
僕がやれることは、そこに現代的なデザインを創ることなので、自ずとこの外観の建物の中にコントラストをつくっていこうと考えています。

 

具体的には、500㎡の3フロアなのでとても広い。このイメージ図は2階にある彼女のベッドルームなのですが、2階全体が彼女独りのプライベートスペースなので、ベッドルームというより、「ベッドがあるスペース」と言えます。名前の付けようがないスペースです。
また、この岩みたいなものの裏に彼女独りのバスルームがあります。3階は4室のゲストルームになっていて、1人当たり100㎡くらいですね。床面積100㎡以下のマンションが多い日本の現実から見ると大きいと思いますね。
でもバンコクのホテルでも1万5000円程度払うと60~80㎡の部屋に1泊できますので、それほど大きいとは言えません。だいたいゲストルーム1部屋当たり100㎡くらいのスペースがある。やはり、スペシャルなおもしろい状況になっていると思います。

 

当初、ラオスならではの伝統的な材料とか工法を使いたいと思っていたのですが、先にも話したとおり工法などない。それからデザインにしても民族が多すぎて、決められない。
もちろん木とか石などの素材はあります。しかし例えばラオスの木でフローリングを作ろうとすると、いったん中国に持って行って加工を国外で行い、それを逆輸入する形になり、結局、どこの国のものかわからなくなります。
ラオスには今、第一次産業しか存在しません。という状況なので、木材はたくさんあっても、いわゆる無垢材すら手に入りません。現地の一次建材を入手できません。
それでも何とかラオス産のものを探して、加工後に逆輸入するかたちでもいいから、それを使おうとしています。

 

とにかく、スケール感や工程と行程、デザインのスタイルなどが大きく違うので、ラオスのプロジェクトが始まって以降、自分のスタンスも変化し始めているような気がします。

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