イベントレポート詳細Details of an event

第33回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ2013」展連動企画 講演会”個の思いと向き合う”

2013年8月8日(木)
講演会/セミナー

 

原田 原田です。よろしくお願いします。最初にハモニカ横丁についてお話しします。
この横丁は吉祥寺駅の北側の一画に戦後のヤミ市が残っていて、そこにいろんな飲食店や飲み屋が集まっています。最近も話題のスポットになっているのですが、その仕掛人である有名な方がおられまして、横丁文化というか、自然発生的に生じた飲食店集落みたいなものを継承していきたいと考えておられる。
それを吉祥寺で展開するのではなく、隣の三鷹で「ハモニカ横丁アネックス」みたいなものをやりたいと言われ、このプロジェクトがスタートしました。

 

吉祥寺のハモニカ横丁は、地図で示すとこのブロックになります。ここにグチャグチャと小さな建物・店舗が寄り集まっています。
写真のように1.5~2m程度の路地が入り組んでいて、そこに面して非常に小さな間口の店がびっしりあります。こういう昔のヤミ市だったようなエリアは、首都圏でもまだ少し残っていますが、だんだんと減ってきており、昨年も下北沢の似たような一画が壊されてしまった。そこで、こういう文化を何とかして残していきたい、という思いがクライアントにあります。
この写真のように、非常にゴチャゴチャしていて計画的なエリアではありません。何か上位のデザインがあるのではなく、それぞれの店の考え方や嗜好が出て来て、自然と出来上がってしまったような場所です。
このように下から持ち上がって出来上がっているダイナミズムは、建築の世界から見ると魅力的でして、さまざまな大学がハモニカ横丁を研究対象にしています

 

そもそも我々建築家は、あるデザインを考えて、その意図によってつくっていくのが元来の職能だと思います。ですから、意図に支配されない、意図から外れた場所をつくるのはかなり難しい場合があります。
逆に、普段は意図で全ての場所を支配するようなことをやっていますので、こういう自然発生的なものに惹かれるところがあります。

 

さて、僕らがそういうプロジェクトを任された場所は、JR三鷹駅から徒歩5分くらいのところにあります。
もともとは1階が広いパチンコ店だった建物です。この1階部分をリノベーションしてハモニカ横丁アネックスをつくろうということでした。
これが解体中の内観です。仕上げを次々と剥いでいます。次の画像が解体後の内観です。古い軽量鉄筋などは一部捨てずにとってあります。
そしてこれが外観です。こういう環境を見て、どうしようかと思ったのですけれど、「計画的に非計画的な場所をつくる」というのは、だいたい学生が卒業設計で取り組み、玉砕するパターンのテーマ設定ですよね(笑)。やはり僕も玉砕してしまうのか、とも思ったのですが、そういう難しい課題であるからこそやってみたい、と引き受けた次第です。

 

実際、どういうことをやるかというとこのアニメ(トムとジェリー)を見ると分かります。
日頃、僕らが暮らしている場所は、この猫のトムが居る空間です。すべて仕上げに囲まれ、理性でデザインされ、整っていますね。その裏側にはネズミのジェリーがいる空間があります。躯体と仕上げの隙間にある裏の空間ですね。そして、トムよりもこういう空間に居るジェリーのほうがいきいきとしている。
こういうジェリーの居る、5センチ幅とか3センチ幅しかない隙間空間を拡張していくと、意図のある場所に意図外の場所をつくることができるのではないか、と思ったのです。
この考え方は、以前秋葉原の中学校をリノベーションさせてもらった時にも使ったアイデアです。仕上げを剥ぎ取られた空間の中に、仕上げられた空間を挿入する。仕上げられていない空間を拡張させる。

 

この写真はデベロッパーによるマンションの建築現場で、仕上げ前の段階です。配管などが剥き出しの仕上げられていない空間ですが、けっこう格好いいですよね。
LGSと呼ばれる下地材の軽量鉄骨も、それぞれ見ているときれいですよね。また、こういったダクトなど、それらの物性みたいなものを丁寧に拾っていきながらデザインするという考え方です。

 

実際には計画の段階でいろいろな模型をたくさんつくりながらジェリーの場所をどのようにしてトムの空間に配置すればいいかをスタディしていきました。
なぜ、そんなにたくさんのトライ&エラーを繰り返したのかというと、自然発生的な集落や空間は、単にランダムだから自然発生的というわけではありません。自然発生的であっても例えば、隣との関係であるとか、そのエリアが持っている背景などを個々の人がちょっとずつ読み解きながら、何度もトライ&エラーをしながら、全体のバランスをとっていくので、結果的にある種の調和がとれているのです。そういう自然発生的調和を人工的なスタディによって捕まえようとしたわけです。
その結果、最終的にはこのような図面(平面図)に固まってきました。グレーで塗られている部分がトムの空間で、それ以外がジェリーの空間です。

 

そしてこれがこのスタジオにも展示してある模型です。普段僕たちはここまでマテリアルの質感などをつくり込むことはありません。そういうものをわざと捨象して白い抽象的な模型をつくり、設計の意図を明確に純化し、それでスタディします。
でも、今回の場合は、普通なら抽象化して捨ててしまう要素こそが大事なので、物性をONにしてスタディしたわけです。結果的にすごく時間がかかりました。精度も不十分だったりするのですが、その代わりに狙った環境に近いスタディをできました。
これが着工後の現場です。「建築」を名詞ではなく「建て、築く」という動詞としてとらえると、いつまでも終わらないんですよね。完成がない
この写真が外観です。もうオープンしているので、ぜひ行ってみてください。内観はこんな感じで塗装もほとんどされていません。素材が剥き出しです。今日、うちのスタッフが営業中の現場へ行き、ムービーを撮ってきたので、ご覧ください。

 

(ムービーと解説あり)全部設計しているのですが、設計していない感じにはなったかな、と。まだ建設の途中のような印象を受けると思います。こういう(屋台村のように)群れになることで、トムとジェリーたちの空間が連続していて関係の豊かさが現れました。
この写真は僕が一番気に入っている場所です。ぎょうざで有名な「みんみん」さんのこのテーブルから見ると剥き出しになった裏側がよく見えます。仕上げられた空間だけでもつまらないし、剥き出しの空間だけでもつまらない。その両者が関係を持つことで、新しい空間がつくれると思いました。

1 2 3 4 5