イベントレポート詳細Details of an event

第33回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ2013」展連動企画 講演会”個の思いと向き合う”

2013年8月8日(木)
講演会/セミナー

 

中﨑 モデレーターを務める中﨑です。よろしくお願いします。このデザインフォーラムは建築模型展「新しい建築の楽しさ2013」と連動しております。
今回は15のプロジェクトを2つに分けて展示しますが現在展示されているのは前期分です。今日は連動フォーラムの2回目として「個の思いと向き合う」をテーマとし、発表とトークセッションを行います。
最初の発表は、平瀬有人さんです。平瀬さんの「SGR」は、佐賀市の中心市街地に建つ歴史的建造物を、地元で成功した事業家の方が引き継ぎ、その価値を継承して地元に役立てようというプロジェクトです。
また、原田真宏さんの「ハモニカ横丁ミタカ」は、吉祥寺駅前の一画にある有名なハモニカ横丁に関わる中心的人物が、ヤミ市文化を継承していきたいという思いを持っておられ、もう一つのハモニカ横丁空間を隣駅の三鷹につくるというプロジェクトです。
そして山口誠さんはラオスで進行中のプロジェクトに関わっておられます。クールジャパン的な趣があるようで、日本人の建築家や日本の技術を評価しているラオスの女性がおられて、その20代の女性のためのゲストハウスのインテリアデザインを進めていらっしゃいます。
それでは、まず平瀬さんからお願いします。

 

 

平瀬 平瀬です。こんばんは。

 

私は昨年「milieu マテリアル」というタイトルをつけた展覧会を開きました。
「milieu」というのはフランス語です。英語では「in the place」、日本語では「周辺環境」と直訳できますが、社会的環境、文化的環境、歴史的環境などと広く解釈できる言葉です。
そういうことを普段考えており、つまり、建物の高さとか屋根の形などの物理的環境だけではなく、社会状況や文化状況に注目するということです。写真にあるこうした住宅なども地域の歴史を読み解きながら考えているわけで、そんな中から今日は模型で展示した「SGR」と酒蔵の改修プロジェクト「KFG」をご紹介します。

 

さて、私は設計事務所を開きながら佐賀大学でも仕事をしています。その絡みもあって、佐賀でのプロジェクトがいくつか動いております。
佐賀市はいわゆる地方都市で、この地図で示すいちばん上のほうにJR佐賀駅があり、そこから徒歩15分程度の範囲の中にいろいろなものが揃っています。

 

まず、この地図で示す赤い点がSGRの当該敷地になります。またそこに至るまで商店街が続いておりますけれど、最近はシャッター通りになりつつあります。
緑色の枠で囲った「イート&ドリンク」と記されたエリアが歓楽街です。それから折れ曲がった赤いラインは長崎街道です。その下のほうに神社だったり、県立図書館だったり、県庁などがあります。つまりプロジェクトの敷地の周囲に、さまざまな街の拠点が存在するわけです。
この位置に、模型で展示した古い建物が有ります。もともとは銀行だった建物です。地方都市へ行くと、こういった新古典主義風の地方銀行の建物がよく残っていますけれど、これもそういう建築物で築80年程度のものです。
これは1934年に竣工した旧・佐賀銀行呉服町支店だった建物です。1999年までは銀行として活用されていましたが、銀行自体は店じまいをして、建物は2002年に市の所有となりました。
そして、市もその上手な使い途がもうひとつ分からないということで放置されていたのですが、地元でアパレル企業を営んでいる方がおられて、この方はもともとこのエリアで生まれ育ち、地元に恩返しをしたいと考えている方なんですけれど、この方が、どう使うかは分からないままこの建物を市から購入されました。2010年のことです。
そして、活かし方を相談にこられたのがプロジェクトのきっかけです。

 

当初からプログラム自体も提案してほしいという話だったので、いろいろと考えました。
例えば、佐賀はクリーク(小川)が多く豊かな水環境が街中に張り巡らされているので、この敷地の前の水辺を利用してレストランやカフェを開いたらいいのではないか、と。
またこのエリアは歓楽街やビジネス街の近くにありながら、ホテルなどの宿泊施設が不足しているので、建物の2、3層部分にコンパクトで快適なカプセルホテルのようなものをつくったらどうか、と提案しました。
京都の寺町には「nine hours」というデザイナーズ・カプセルホテルがありますけれど、立地的にそういうモダンなタイプのカプセルホテルをつくる提案もあり得ると考えました。

 

また(立面図に示す)このあたりの、後世になって付けられたものは取り除き、改めて増築することを考えています。というのも、この建物の設備等は1934年からのものなので現在と合わないものが多々あります。そういった設備関係を新しく増築するボリュームで再整備します。
なお、佐賀の町の建物は昔の排水の問題等があってなのか、クリークに対して背を向けている建物が多いのですけれど、(今はきれいなので)それをヨーロッパにあるようなパブリックな水辺空間につくり変えれば、若者たちも集まるエリアになると考えております。

 

一方、内部はこのように、あるボリュームを挿入する、いわゆる「アーキテクチャー・インターベンション」を行い、長い時間を経た建築空間にコントラストをもたらすような意匠を提案しています。
現在はテナントに関する話を進めているところで、もう少し時間がかかりそうですが、この建物を買われて地域貢献や地元への恩返しをしたいというオーナーさんの思いの実現を、しっかりとお手伝いしたいと考えております。

 

それから今回、模型は展示してありませんが、もうひとつ「KFG」というプロジェクトも紹介いたします。
佐賀県の南部、有明海に面したところに鹿島市があります。その鹿島の(地図で示す)この辺りは伝統的建築の保存地域になっております。またここに日本酒と焼酎の酒蔵通りがあります。
あまり知られていないようですが、佐賀は日本酒づくりも非常に盛んなところで、有名銘柄も多い土地です。この鹿島にある酒造メーカーさんがロンドンで開かれる国際的な品評会でチャンピオンになり、それを契機にかなりの観光客が、この酒造を訪れるようになりました。
そこのオーナーさんから、いま使っていない古い酒蔵や醸造工場などに少しずつ手を入れていきたい、という相談を受けたのです。
この築100年ほど経った2階建ての大きな蔵と精米所や麹室(こうじむろ)は国の登録有形文化財になっていますが、これらをどのようにして現代的に使いこなしていくかについて提案しているのです。
配置図で示すと、これが大きな蔵です。かなり力強い梁がありますね。現在は使われておらず、倉庫のような扱いです。そこを丁寧にきれいにして、新しい空間を提案します。

 

2年前につくったこうしたショールーム空間もありますが、もう一つの建物では構造補強もしながら新しいギャラリーとして活用する方向で考えております。
来年はこの500㎡くらいの蔵を改修し、その次はこちらの棟、と順繰りにオーナーさんの考えていらっしゃることを翻訳しながら、提案するつもりです。
以上、ご紹介した2つのプロジェクトでは、ともに強力な個人オーナーさんの思いを、どのように翻訳して提案をしていくかが非常に重要になっています。

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