イベントレポート詳細Details of an event

第32回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ2013」展連動企画 講演会”地域を読む”

2013年7月31日(水)
講演会/セミナー

 

中﨑 モデレーターの中﨑です。よろしくお願いします。このデザインフォーラムは1階で展示している「新しい建築の楽しさ2013」と連動しております。今年で2回目を迎えており、今回は全部で15のプロジェクトを集め前期、後期に分けて展示しますが、それらを5つのテーマに編集し、デザインフォーラムを開催いたします。

 

初回に当たる今日は「地域を読む」をテーマとし、3人の建築家に来ていただきました。
まず、畑友洋さんは神戸市に事務所を構えていらして、今、神戸市全体を使った前例のないプロジェクトに取り組んでいらっしゃいます。
また、横浜を拠点に活動なさっている保坂猛さんは、故郷の山梨県でもいくつかのプロジェクトを進めていらっしゃいます。
そして、前田圭介さんは、広島県福山市の地元で活動されています。福山市の中心市街地で取り組んでいる商店街を活性化するプロジェクトをご紹介いただきます。
それではまず、畑さんからお願いします。

 

 

 みなさんこんにちは。畑と申します。
ご紹介いただいたように僕は神戸市で事務所を開いております。今回のプロジェクトは足掛け3年以上、粘り強く取り組んでいるものです。「ネットワーク型集合住宅」という名称ですが、このプロジェクトは展示してある模型だけでは伝わりにくい部分もありますので、補足してご説明します。

 

きっかけを話しますと、友人が地元の広告代理店におりまして、地方ではよくあることですが、広告代理店が建売り住宅の開発などまで手掛けていることがあります。そうした宅地開発では、どうしようもない形状の土地というか、処理に困るような”ヘタ地”ができてしまうことが多々あります。
例えば、1軒の住宅を建てるには狭すぎて、車2、3台分のコインパーキングになっていたり、自販機を置くだけの利用になってしまう土地ですね。

 

それから神戸には土壌汚染されている臨海部のエリアがあります。ご存知のようにそういう場所では住宅を建てられません。神戸にはそのような土地が山から海まで多く点在しています。
これら1つひとつの敷地だけで何かをするのは非常に難しいのですが、ある時、そのいくつかを組み合わせることができるのなら、そしてそれらの土地を”編集”できるのなら、何かできるのではないか、と思いつきました。

 

またこのプロジェクトでは「神戸市である」というのが重要なポイントになっております。というのも、神戸市は地方都市ではありますが、150万人程度の人口があり、コンパクトながらそこそこの市街地がある。また海と山に挟まれ、車を10分走らせれば、海、市街地、山という環境を気軽に縦断、行き来できるという特徴があります。

 

その友人に最初に提案したのは集合住宅でした。もちろんそういう土地を利用するのですから、一般的な集合住宅ではありません。
単身の女性のための、思いついた当初は女性に特化していませんでしたが、単身であることを積極的に選択した女性を対象に集合住宅を提案しました。通常、単身者向けの集合住宅というと、ほぼ同じ間取りで同じパターンの、中途半端なキッチンと狭い風呂、狭い寝室といった形になりますよね。そのパッケージが非常に非効率に思えたのです。
そこで自分の発想を友人に話したところ、「それは女性向けで実現したらどうだ」と言われ、その話に興味を持ってくれた女性が3人いらしたのです。中途半端なユニットバスを3つつくる予算と面積があれば、かなり充実した浴室を用意できそうですし、同じようにキッチンも充実したものがつくれそうだ、と。
パッケージ化された集合住宅を一度分解して、単身の女性たちが、価値のあるものと考える、所有できるものをつくろう、風呂をまとめてスパをつくり、余裕のある特別なダイニングキッチンもつくる。彼女たちは毎日必ず料理を作るというライフスタイルの方々ではなく、週末などに仲間が集まって食事できる場所がほしい、という方々だったのです。
それから、女性たちの服や靴、バックなどは人によっては膨大な数になり、コレクションのようになっている。そのトランクハウス兼ギャラリーのようなものをつくろう、と。

 

一方、寝る場所については、簡単に環境を変えられる方がいい。
彼女たちにとって寝る場所は簡素で効率的なところでも十分で、所有する必要もない。賃貸物件で場所と環境を容易に変更できるほうがいい、ということなので、小さなワンルームを借りてもらったり、実家が近くにあるという人だったりするわけです。
通常、働く人たちがもっとも過ごすプライベート空間を効率化、賃貸化し、本来ならサブ的と考えられる、お風呂、クロゼット、ダイニングキッチンを3人で共有するという案が生まれました。

 

これは先に申し上げたとおり、神戸という立地が可能にしています。海沿い、市街地、山辺の森の中、という3つの異なる環境を車で10分程度の時間で行き来できる。街中には、行きつけのジムとか飲食店などがあり、それぞれのライフスタイルに合わせて3つの所有する拠点、ダイニングハウス、スパハウス、トランクハウスを巡る。街全体を住まいにするのです。そうしたネットワーク型集合住宅のモデル・プロジェクトを進めてきました。
また3人で3軒というのが重要な要素です。当初のクライアント女性のうち2人は友人で、もう1人はその2人と無関係な人でした。
ところが、現在、友人のうちの1人が抜けて、新たに募集した人が加わり、まったく旧知でない女性3人がクライアントです。この3人が3つの拠点を共同所有するということになるので、この場では説明できないような、いろいろと複雑な契約要項があります。

 

各拠点の概念を示すと、この図のようになります。基本的には街を巡る。その結節点上に共同所有し、共用する拠点がある。これが街全体を対象とした新しい集合住宅になります。積極的に単身であることを選択する方々が多くなっている時代の中では、こういうかたちもあり得るのかと思います。

 

ここからは個別の建物を少し紹介します。
まずひとつは、和田岬という神戸中心部から南西にある土地です。ここは土壌汚染のひどいところで、規制で住宅は建てられません。しかし、立地を活かし、海の見えるスパ、水辺の空間をつくることはできます。
このように防水を施した床に起伏があるだけのワンルームになっています。その床にお湯や水を入れると、床の窪みにたまって、水(湯)だまりができます。独りの時は、独りに応じた水量を、友人を招いたり、共同所用者と居合わせた場合など、大人数の時は水量を増やして調整できます。断面がこのようになっております。

 

次はトランクハウスです。クライアントの方々は、それぞれ衣装や靴、バッグを非常に沢山所有しておられます。彼女たちが仕事へ行く際は、いくつか決まったものでいいのですが、仕事の後や休日は、普段と違うものに着替えたりされる。
私自身はそういうライフスタイルではないため、当初、なかなか理解できませんでした。でも、そういうことが目的のトランクルームであるなら、駅から1、2分という至近距離、駅に直結するような場所がふさわしいし、必要になります。そういう便利な場所は通常だと価格的にも所有するのが難しくなりますよね。

 

しかし、商売にも向かないような不整形な敷地だと、所有も可能になります。これがほぼ実施されたプランです。JRの中心的な駅から徒歩30秒です。ここはギャラリーでもあり、トランクルームでもあります。
不整形な土地をなぞるような形態でピラミッド的なギャラリーを組み上げ、実際に着替えなどをできる空間になっています。もうひとつの拠点がダイニングハウスです。これは山手の森の中にあります。
国立公園がすぐそこまで迫っていて、いろいろと面倒な建築の規制がかかるため、住宅や店舗を建てにくい環境にあります。そういう場所にダイニングキッチンだけを建てるというものです。
緑に囲まれているので、天気のいい日などはガラスで囲うよりもむしろ外へ出てしまったほうがいい。そう考え、空間の内側は外へ出ると負けてしまいそうなものを敢えてつけないようにしました。森の一番高いところと一番低いところをバイパスするような空間づくりを行い、上部空間や下部空間からは中間帯が見えないという設計にしました。

 

これら3つの拠点を共有しながら、それ以外の部分では街全体をフィールドとして個々に神戸に住まう、街のネットワークを巡りながら生活するライフスタイルを提案しています。

 

世の中には変わっていくものはあるので、それに対してどういうモデルを提示できるかが建築家にとって重要ではないか。一方、変わらないもの、変わってほしくないものも当然あるので、それは無理に変える必要はないと考えています。
そういう観点から見ると、いまある集合住宅のモデルは、単身女性たちのライフスタイルに応えられているのだろうか、あるいは「応えるべきか?」という疑問も含みますが、こうした新しいモデルへの挑戦は意義があると思います。
前例のないことなので、これまでも非常に時間をかけて苦労してきましたが、もう少しというところまできましたので、何とか形にしたいと考えております。

 

中﨑 ありがとうございました。都市の新しい住まい方として非常におもしろいと感じました。とくにトランクハウスには興味がありますね。1人の女性が衣装を400着くらい持っていて、3人ですから1200着ですか、それを収納して展示するというのはそれだけでもすごいと思います。
畑さんのプロジェクトは、後日に開催する予定の「集まって住む」というテーマでも議論できそうな切り口があると感じます。
それでは、続いて保坂さんから「LAPIN(ラパン)」について発表をお願いします。

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