イベントレポート詳細Details of an event

第92回 AGC Studio Design Forum
新しい建築の楽しさ2017展 プレゼン&トークセッション④
 「ストックのリ・デザイン」

2017年12月5日(火)
講演会/セミナー

「西麻布ビルのコンバージョン」(レンタルキッチン、ショールーム、オフィス、住宅/東京都港区)

元木 大輔氏(DDAA ダイスケモトギ デザイン&アーキテクチャー)

 

元木 元木です。宜しくお願いします。今回、「ストックのリ・デザイン」ということで、1986年に竣工した西麻布にある建物の改修計画について紹介します。
 スキップフロアになっている4階建ての建物で、1階がレンタルキッチン、2階が企業のショールーム、3階が2階にショールームを持っている企業のオフィス、4階が建物のオーナーの住居となっています。それを丸ごと改修するプロジェクトでした。
 このお話をいただいて、現場を最初に見に行ったときに、正直、かなり驚きました。写真のように、外壁に旗をたてるスペースが設けられていたり、壁面にスタッズ(鋲)のようなものがコンクリートで造形されていたり、まさに「バブル」という感じの建物でした。建坪は100㎡ほどなのですが、回転扉も配されています。そういう、やや“大げさ”な建物を改修したい、というご要望がありました。

 

 僕が主宰しているDDAAでは、建築やインテリアだけではなく、プロダクトデザインも行っています。先程言った2・3階に入っている企業はiPhoneケースのブランドを幾つか運営している会社でして、そのオフィスとショールームがこの建物に入っている、という関連性がありました。一つの看板ブランドが超高級iPhoneケースで、どれくらい高級かと言うと、iPhoneより高いです(笑)。
 ちなみに、今ご覧いただいているiPhoneケースは、航空機の機体にも使用されるジュラルミンを、日本の技術者の知恵と技術を終結し制作しています。
 建物を見に行った後、面白いとは思ったものの建物の趣がバブル期のかなり極端な趣向だったので、「どうしたものかな」という思いもありました。

 

 既存の建物は、奥行きがほとんどなくて、面積の3分の1くらいが吹抜けのエントランスロビーでした。そこに回転扉が配され、その隣に普通の扉もついています。また、床には僕らの感覚では絶対に選ばない派手なモザイクタイルが張ってあり、壁には玉虫色のタイルがボーダーラインに配され、銅や金の細工も散りばめられていました。
 僕は1981年生まれなのですが、バブルの恩恵を受けたことはありません。当時の浮かれていたような感じは、嘲笑の対象になっている傾向もあると思うのですが、80年代の嫌らしさのようなものも一周して、リバイバルしているのでうまく当時の良さを生かせないだろうかといったことを考えました。
 そこで、エントランスホールをどうしようか、というのが、この計画の大きなかなめになりました。選択肢としては、真っ白に塗りつぶしたり、回転扉を壊して普通の扉に変えたりなど、今までの空間を隠蔽するような方法も検討はしましたが、ちょっと違うかなと思いました。
 というのは、それが、「回転扉って楽しいよね。エントランスホールは広いほうがいいよね」というような、当時の楽しさを伝えている側面もあるからです。2011年の震災以降、社会的な正しさやコストとの合理性などでどうしても判断することが多い今の時代に比べて、「いいなあ、楽しそう」とも感じました。

 

 そこで、既存のエントランスホールはそのままに、隣に何を置くかで、やや嫌らしかった空間をもうちょっと楽しみ直すことはできないだろうか、と考えました。
 グラフィックデザインなどでよくある手法だと思いますが、例えば、緑の隣にある赤、茶色の隣にある赤では、同じ赤でも見え方が異なります。錯視の考え方と同じで、バブル建築の隣に何を置けば、ホールの見方が変わってくるかをスタディしていったかたちです。
 真っ白ではホールとのコントラストがつきすぎるかと思い、明度をいろいろ検討して、壁はグレーにしました。また、ホールの正面に、古い松の盆栽を置いています。冗談のようなホールのデザインの隣にシンプルなものを配置してもどうしてもバランスが悪くなってしまうので、カウンターウエイト的にバランスを持ち直す要素として、設計の初期段階に、この位置に古松を配する案を思いついた次第です。先程のiPhoneのケースブランドは、日本のものづくり企業の技術者とコラボして製品をつくっているので、そのあたりのアイデンティティも説明しやすいかな、ということで、クライアントものってくれました。

 
 
 このプロジェクトは竣工済みでして、ディテールも見て行きたいと思います。
 エントランスホールを入ると上下に抜ける空間があり、上部正面には先程述べた松の盆栽があります。
 下部の1階レンタルキッチン兼、撮影スタジオには、奥行きを強調する大きなテーブルがあるといいと思い、長さ3700mmのテーブルを造作しました。脚に使っているのは、105角の木造住宅用の一般的な柱材で、約4mのスパンをとばしています。家具として考えるとかなり大きいのですが、建築だと思うとさほどでもないので、建築的なサイズの材料を使用しています。たわみ計算では1〜2mmほどだったので荷重も大丈夫だろう、と。接合部には、銅メッキをかけた金物と一般的なボルトを用い、細部の見え方に変化を加えています。
 テーブルの天板が厚めなので、普通の椅子で足を組んで座ると、天板の裏面に足が当たってしまうため、低めのスツールも造作しました。機能としては、スツールをひっくり返すと、重ねてスタッキングできます。椅子としての風情もきれいで、また、スタックしたときに彫刻的に見えるような家具を設計しました。

 

 先程のテーブルは建築的な構造の家具をつくったのですが、その流れで、ソファも建築っぽくつくってみました。この写真は、H形鋼材を銅メッキして、ソファの脚に使った事例です。普通の素材でも、メッキをかけることで見え方が変わり、まったく新しいものをつくるのではなく、普通のものの隣に何を置くかという組み合わせや、仕上げを変えることで、印象はかなり変わってきます。
 このようなことを随所に散りばめています。例えば、グレーに塗り替えた壁もリシン吹付仕上げでして、一般的な住宅に使われる普通の材料ですが、使い方が異なるのでバランスも変わり、違う感じに見えてきています。

 

 こちらは2階のショールームでして、先程の古松があります。1・2階はエントランスホール空間が持つ主張が強かったので、一度それを受け入れたうえで設計しました。
 そこからつながる3階のオフィス・スペースは、階段室を介して上がるつくりで、1・2階とは切り離された別空間となっています。元々はフレンチレストランが入っていて、床のフローリング以外はほぼスケルトンの状態でした。3階より上の階は、バブル建築とはあまり関係がない空間でして、別のプロジェクトのような趣です。
 3階は、最初にお話したiPhoneケースをつくっている企業のオフィスになっています。ハイエンド向けが先程のジュラルミンやレザー製の商品などですが、2000円台や3000円台の商品もあり、アンドメッシュというメッシュ状のデザインのケースも作られています。ここでは、そのアイデンティティを壁面に使うことを提案しました。

 

 西澤さんの東京国立近代美術館のプロジェクトのなかに、床をサンダーがけしたという話がでてきましたが、この西麻布の建物の3階でも、まったく同じことをしました。既存のフローリングが残った床をサンダーがけして、塗装し直し、周りと馴染ませています。
 以前フレンチのお店が入っていたこともあり、窓際に仰々しい間接照明がついていたのですが、それを解体した後の床面は、そのままモルタルで埋めました。そのため、写真のような素材のコラージュのような切り返しがある部分も生じています。
 ここに入っているオフィスは企業は、iPhoneケースをつくっているだけではなくて、ガジェットと人の間のプロダクトをつくろう、というコンセプトがあります。簡単に言うと、コードを整理したり、触り心地のいい携帯電話をデザインしたり、携帯電話が機能的に入るカバンをデザインしたりなど、インターフェイス的なプロダクトを作っていこう、という考えでした。
 そのため、オフィスの配線計画もできるだけ整理したい、という要望がありました。しかし、既存の床を残しているので、床下の配線計画ができません。天井からの計画も考えたのですが、せっかく残す床をうまく使ってみよう、ということで、フローリングを1枚だけはがし、その中に配線を収めてガラス製のフタをつくりました。写真のように、中に入っている配線がそのまま見えるデザインです。

 

 フリーアドレスのオフィスで、奥に日当りのいい場所があり、その手前にハイカウンターのスタンディング席があります。執務エリアには、ガラス天板のテーブルが並んでいます。オフィスにガラステーブルを用いるのは珍しいのですが、配線が中に通っていて、テーブルトップからコンセントを取り出せるつくりなので、それがわかりやすいように透明の素材を選んでいます。
 完全なフリーアドレスで個室的なスペースがないため、集中したいときに籠れるような、マンガ喫茶的なスペースもつくっています。写真のように、家具のファブリックなどを使った設えにしています。
 西麻布のビルのリノベーションは、このようなかたちです。

 

 世の中には良くできているもの、そうでないものなど、すでにモノがたくさんあります。モノをつくるときによく思うのは、そういう既存のモノを良いと悪いに振り分けるのではなく、「すでにある」というところから考えたい、ということです。これは格好悪いからダメ、というのではなく、どうすれば面白くなるか、という視点を見つけていくことに喜びを感じながらやっています。
 ありがとうございました。 

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