イベントレポート詳細Details of an event

第92回 AGC Studio Design Forum
新しい建築の楽しさ2017展 プレゼン&トークセッション④
 「ストックのリ・デザイン」

2017年12月5日(火)
講演会/セミナー

西澤 次は、マンション改修の事例です。
 とてもモノが多いお宅で、東南アジアで買ってきたグッズ、ベルトイア社のチェア、80年代のポストモダンの椅子、CD棚など、設計者がコントロールできないものが大量にあり、かつ、「ここにこういう部屋がほしい」という空間についての要望も、当然ありました。
 そこで、鴨居の上には世界各国で集めてきたグッズや小物を置いたり、「食事中はいつも音楽をかける」ということで、CDラックとダイニングテーブルの配置を近づけたり、料理好きの奥様が腕をふるうキッチン周りには器を効率的に収めたりしました。生活のシーンに応じて、それに関連するモノを集めるという方法です。
 建物の空間にどういう建具をつくるか、どういう間仕切りをするかということと同時に、まったく等価にそこに置かれるものがどういうものかを計画したかたちです。
 つまり、設計者がまったくコントロールできないものの集まりが、空間の中でどういうかたまりとして、領域的に住み分けられるか。例えば、書斎的なコーナーには筆記用具やパソコンを置くというように、住み分けられた空間に合うモノを収納したり、あるいはそのままにしてあっても、コントロールできないモノも、かたまりとしての風景をつくれるのではないか、という計画を行った例です。

 

 最後に、今、進めている八戸市の美術館についてお話します。
 今日のテーマである「ストックのリ・デザイン」に関することをご紹介します。青森県の「八戸市新美術館」のプロジェクトで、タカバンスタジオの浅子佳英さん、森純平さん、僕の3人のチームで行っています。僕は美術館に関わる仕事が多かったので建築関連のことを担い、浅子さんはインテリアツアーなどの街歩きやデザイン批評など、森さんは美術館の運営関連の専門家で、その3人が一つのチームになっています。
 八戸市内には、すでに市がつくった「八戸ポータルミュージアム はっち」という施設があり、八戸市のお土産、文化、観光案内、イベントなどすべての情報が集まる場所になっています。
 また、市が実験的に行っている本屋「八戸ブックセンター」もあります。民業圧迫になるかというと、そうではなく、今は本を読む人が減っているので、一般の書店では売れ筋の本を置く傾向がありますが、それでは市民のリテラシーが下がってしまう。そこで、公共的な意味合いから、市営の本屋では、売れるもの・売れないもの問わずに、必要だと思われる本を置いています。しかし、潜在的なニーズはあるので、売れないと思っていたなかから売れる本がある。それを市内の一般書店に伝えるという情報共有を行うと、書店もうるおう、というウィンウィンの方法をとっています。

 

 八戸市は、朝市が盛んです。また、国の名勝に指定され、東山魁夷の『道』のモデルでもある種差海岸があったり、デコトラ(デコレーショントラック)発祥の地と言われたり、国の重要無形民俗文化財に指定されている八戸三社大祭があったり、青森県出身の銅版画家・今純三氏や棟方志功氏の版画を美術教育に使っている伝統があったりもします。
 一方で、八戸市はものすごい名作絵画を所有しているわけではない。どちらかというと、先程言ったような市井の民族や風俗がとても面白くて、素晴らしいと思います。そこで、今進めている「八戸市新美術館」では、どちらかというと、八戸市が今持っていて、かつ、「これ、アートなの?」というものをちゃんと掘り下げていき、市のハブとなるような「ラーニングセンター」をつくろうという考えでやっています。
 この写真が現行の美術館でして、旧税務署をリノベーションして使っていたのですが、天井高が3mくらいしかないこともあり、これを建替えて新美術館をつくるというプロジェクトです。いろいろな小部屋と「ジャイアントルーム」と呼ばれる大きな部屋をつくり、それらの部屋の関係を組み合わせることで、展覧会・イベント・ワークショップに対応できるような機能を考えています。

 

 新しく美術館をつくるときの考え方として、「我が美術館にも、目玉となる作品を用意しよう」と思い、何億円もする作品を購入することがあります。
 これは全国の美術館がやっていることなので、結局、印象派絵画を持っていたり、地元で有名な作家の作品を購入したり、という傾向が強いと思います。しかし、それで地域の独自性がでるかというと、なかなか難しく、どの美術館にも豪華なエントランスロビーがあって、似たような絵があるということになります。
 もしくは、2000年代の傾向として、青森県立美術館、金沢の21世紀美術館、十和田市現代美術館が特徴的だと思いますが、「コミッションワーク」という方法があります。そこに行かないと絶対に見られない彫刻作品やアート作品を置くと、それ目当てに来るとか、企画展をやっていない時期にも、名物として見られるものをつくるという戦略ですが、結局、それにはコストがかかる。また、一点豪華主義的なことをやると、その作家の旬が過ぎたらどうなるか、という問題も生じてきます。だから、そういうやり方ではない方向性もあるだろう、と考えるわけです。

 

 つまり、今、手元に持っているカードを活用する方法があります。
 例えば、先程言ったように、種差海岸をモチーフにして東山魁夷が風景画を描いたのであれば、それを切り口にして、東山魁夷の他の絵を揃えたり、種差海岸の美しさを撮った写真展を行ったりなど、一つの切り口で美術をいろいろに楽しむことができ、展覧会の企画は幾らでもつくれます。さらに、それを行うには、内容を掘り下げていくことが必要です。
 例えば、僕は、先程のデコトラと三社大祭の山車は明らかに関連性があると思っています。祭の山車は1年かけて素人の人たちがつくり、デコトラもドライバーが自分たちでつくる。自分の中から溢れ出るものを表現するという文化が東北にはあり、そういうものを掘り下げることが、文化のリサーチになり、展覧会の可能性も広がるというのが、八戸市新美術館が目指していることです。

 
 
 今日、最初にお話したのは、既にある建物の空間のリノベーションにまつわる事例でした。新築する八戸の美術館の例も、実は地続きでして、美術館というハードをつくる以前に、そこにある文化資源をどう使うか、という共通性があると思って進めています。
 ありがとうございました。

 
 
中崎 ありがとうございました。続いて、元木さん宜しくお願いいたします。

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