イベントレポート詳細Details of an event

第92回 AGC Studio Design Forum
新しい建築の楽しさ2017展 プレゼン&トークセッション④
 「ストックのリ・デザイン」

2017年12月5日(火)
講演会/セミナー

「新しい建築の楽しさ2017」展には、今年も気鋭の若手建築家らの最新プロジェクトが集結。その連動企画として好評を博した「AGC Studio デザインフォーラム」の最終回では、西澤徹夫氏と元木大輔氏が「ストックのリ・デザイン」をテーマとする講演を行った。企画者・中崎隆司氏をモデレーターとするトークセッションも盛り上がりを見せた。

 

モデレーター
中崎隆司氏 
建築ジャーナリスト、生活環境プロデューサー

 

中崎 こんばんは。これから、新しい建築の楽しさ2017デザインフォーラムを始めたいと思います。今日の講師をご紹介します。奥が西澤さん、元木さんです。まずは、「新しい建築の楽しさ」展に出展いただいているプロジェクトについてお話しいただき、その後に、「ストックのリ・デザイン」に関してのトークセッションを行います。
 では、西澤さんからお願いしたいと思います。「京都市美術館再整備計画」のプロジェクトについてです。宜しくお願いいたします。

 

「京都市美術館再整備計画」(美術館/京都府京都市左京区岡崎)

西澤 徹夫氏(青木淳・西澤徹夫設計共同体)

 

西澤 西澤と申します。宜しくお願いします。今回は、「京都市美術館再整備計画」の断面模型を展示させていただいています。僕の前のボスである青木淳さんと設計JVを組んで行った、美術館の改修と増築になります。
 京都市美術館は京都市の岡崎地区にあり、平安神宮、京都国立近代美術館、京都市動物園などが近くにあります。昭和8年に「大礼記念京都美術館」として建てられた、古い2軸の対称性を持った定冠様式のクラシカルな美術館です。竣工後80年以上経ち、現代のニーズに合わないということで、改修と増築をすることになりました。
「現代のニーズに合わない」というのは、どういうことかと言うと、設立した時代には、上流階級の人たちが袴をはいて見に来るような美術館だったのですが、今は、ルーブル展などをやると、10万人単位の来場者がある。そもそも、エントランスがそれほどの人数を収容できる機能がなく、トイレも老朽化しており、耐震性にも疑問があるとのことで、改修することになりました。
 こちらが当初の平面図です。ここが西玄関で、大陳列室である大きなアトリウム空間があり、南北に対称形の展示室が並んでいる2階建ての建物となります。正面には広場があり、大鳥居から平安神宮に延びる神宮道に面しています。僕たちが提案したのは、そこを地下1階まで掘り下げて、エントランス機能を地階に持ってくる計画です。

 

 1階部分には、すでに壮麗なエントランスがあるのですが、それがキャパ的に足りないという現状があるので、新しいエントランスが必要となります。そこで、広場を下げて現れた地下部分にガラスを張り、「ガラスリボン」と呼ばれるエントランスをつくる、というかたちです。
 参照元としてはパリのポンピドゥーセンターもあるのですが、イタリアのシエナにあるカンポ広場のイメージがより近いです。市庁舎に対して勾配がついた広場をつくると、自然と皆が正面に向かって座る、ということが起こります。アプローチと建物が本来持っている正面性をちゃんと維持するため、こういう広場を計画しました。こちらが断面図で、掘り下げたスロープ広場からエントランスを入り、大陳列室であったところを改修したロビーを抜けて、展示室に向かうという動線です。

 

 今回もう一つ行ったのが、東側にある日本庭園と動物園に抜けるルートをつくることです。
 美術館の背後に趣のある日本庭園があるのですが、地元の人が憩う、知る人ぞ知る場所という感じで、また、動物園と美術館はプログラムが異なるため、分断されていた感じでした。動物園側も今回の改修に合わせて、美術館側にショップを設けるなど、賑わいをつくる試みを行っているので、それと連動したかたちです。観光客の多くは、神宮道を通って平安神宮に行くのですが、その途中で京都市美術館に足を向けた人には、そこからさらに東側の動物園に向かってほしいという動線を計画しています。
 これが新しく地下に入っていくエントランスホールです。この写真は旧美術館の2階ロビーで、かなりクラシカルな素材と雰囲気の場所です。こちらが地下のエントランスから通じる1階の大陳列室でして、メインロビーの役割を持ち、展示室へ向かうハブ空間となっています。

 
 
 今回のプロジェクトで気をつけたことの一つに、「可逆性のある保存・改修」の仕方があります。
 なぜかというと、80年以上前の建物なので文化財的な価値があり、いろいろ補強して新しい空間をつくればいい、ということにはなりません。今回の改修は現在のニーズに合わせて行うわけですが、50年後、100年後にはもっと人口が減っているかもしれないし、増えているかもしれない。また、ニーズが変わる可能性もあります。
 そのとき、今つくっているものを壊して、完全に元の状態に戻せる「可逆性のある保存」が大事になってきます。どこを新しくして、どこを保存したかが明確にわかるように、エキスパンションジョイントをきちんととって、記録をとりつつ行っています。

 

 今回のプロジェクトには、現代美術展示室の増築も含まれます。
 こちらが平面図です。先程の「ガラスリボン」がここで、大陳列室を東側に抜けた先に廊下があり、その先に現代美術展示室を増築するという計画です。ここには古い収蔵庫があります。
 京都市美術館は、東京で言うと、東京都美術館のような貸館や大型展をやる美術館になります。このタイプは、関西ではここと大阪の国立国際美術館の二つが代表的な美術館で、大型展などの時期はかなり混み合います。そこで、現代美術に特化した空間がほしい、ということで、増築を行うこととなり、地下は収蔵庫となっています。
 こちらが模型でして、「新しい建築の楽しさ」展に出しているのは、ここから東西にスパッときった断面模型です。ここが現代美術展示室となり、素材は本館の色味に合わせながら、かつ、それとはまったく違うものとしました。京都は景観的な規制が厳しいので、何度も審議会にかけて素材を決めていきました。
 本館そのものは、大きなデザインの変更はできるだけ加えないようにしています。ただし、中庭部分の機械室には変更を加えました。ここはロの字の中心になるところで、空調機械を置くと効率がいいため機械室になっていたのですが、空間としてもったいないので、屋根をかけて、パーティーやレセプションなどができる場としました。

 

 日本の文化施設の多くは、1970年代や80年代高度経済成長期にラッシュでつくられました。それらの寿命が近づいてきているということと、先程言った、ニーズが合わないということが起きています。そういう現状にどう対処すればいいかについて、別の例でお話します。
 こちらは、2012年に東京国立近代美術館の所蔵品ギャラリーをリニューアルした事例です。この美術館は2001年に耐震改修のみを行っており、2012年に、大きな構造を変えずに内部をリニューアルしました。
 ここはワンルームのようにつながった空間だったのですが、一画が暗い展示で、別の一画が明るい展示になることがあり、光がもれるなどして、お互いに鑑賞のノイズになることがある。また、現代の鑑賞者の見方や趣味が多様化しているので、展示室をはっきりした部屋に分け、小テーマを設定して展示するほうがいい、というご要望でした。設計は谷口吉郎氏です。

 

 そこで具体的に行ったことをご紹介します。
 床は寄木細工のようなパーケットフローリングで、微妙な不陸が生じ、またワックスをかけ過ぎてテカテカになり、それが反射して鑑賞のノイズになっていました。そこで、床にサンダーがけを施し、微妙な不陸を取り払い、表面のかたいワックスを取って、きれいにしていったかたちです。
 また、4階に皇居方向を望める眺めがいい休憩室があるのですが、そこに行く人が少ないということで、「お客さんを誘導する仕掛けをつくってほしい」という要望もありました。
 そこで、床をオレンジ色のカーペットを、4回のEVホールの前の情報コーナーから連続するように敷き、自然と休憩室に向かえるようにしました。今は、以前と比べて、休憩室でゆっくり過ごしている人が増えている状態です。

 
 
 公共施設では一般的に、長い時間が経つと、備品類は都度その時のニーズに合わせて購入されるのでデザインはバラバラです。そういうものが蓄積されると、アルミ製・ステンレス製・プラスチック製・木製などに分かれ、まったく違う種類のものが入り交じったかたちになる。それらを整理する必要があると思い、木工でできるタモ材を使った、ラック・本棚・ベンチ・銘板・額縁・アンケート台などをつくりました。
 こういうふうに同じタモ材の造作を配しておくと、今後新しいニーズが生まれたときには、「じゃあ、タモ材でつくりましょう」ということになり、かつ、安く簡単にできます。それが増えれば増えるほど、統一感ができてくる。一見、乱雑なものが増える感じですが、実は統一感が増す、ということで、ひとつの材料に絞ってつくっています。
 また、ベルトイア社のワイヤーメッシュチェアがたくさんあるのですが、かなり汚れていたので、ワイヤー部分をとってクロムメッキを施し、ファブリックを変えて、生まれ変わらせました。

 

 今、お話したように、美術館のリニューアルは、新築をつくるときのような明確なコンセプトがあるわけではなく、展示室はこうしてほしい、休憩室はこう変えたい、というように、要望がバラバラです。また、それらの間に何の関連性もないのが実情です。それらの間に、冗長性のあるルールを設けて、雰囲気を統一させて馴染ませていくことが、重要だと思っています。
 その一環として、東京国立近代美術館では、「サインの再生」も行いました。この写真は、エントランス周りを含め、ロビー空間にどういう掲示物があるのかをピックアップしたものです。
 こういう公共施設では、A4にワードで書いた掲示をラミネート加工して、壁に両面テープで貼ることが多いです。それらには統一感がなく、必要に応じて計画性もなく、つくってしまう。それを整理しようということで、ラミネート加工まではそのままとして、掲示物を差し込むラックを造作しました。
「サイン」はアチコチにあればあるほど、わかりにくくなります。サインというのは、それがここにあります、というメタメッセージが必要なので、サインが一箇所に集中するのは、とても重要なことだと思います。

 

 常設展・企画展エリアの間に丸いカウンターがはみだしていて、それをまっすぐにすることで、混雑の解消も行いました。
 通常開館のなかでの改修のため、建物本体は触れないので、什器のサイズや配置を細かく変えて、リニューアルしていったかたちです。休館日にサッと行えて、サッと設置できるものの範囲のなかで、いかに動線を整理するか、ということを行った事例と言えます。

1 2 3 4