イベントレポート詳細Details of an event

第91回 AGC Studio Design Forum
新しい建築の楽しさ2017展 プレゼン&トークセッション③
 「ワークプレイスのアメニティ・デザイン」

2017年11月28日(火)
講演会/セミナー

中崎 ありがとうございました。続いて、玉上さん宜しくお願いいたします。「レッドウッド南港ディストリビューションセンター KLÜBB エリア」のプロジェクトについてで、「KLÜBB」はスウェーデン語で「クラブ」と読むそうです。

 

「レッドウッド南港ディストリビューションセンター KLÜBB エリア」(物流施設内の休憩ラウンジ、託児所及び売店/大阪府大阪市)

玉上 貴人氏(タカトタマガミデザイン)

 

玉上 玉上です。宜しくお願いします。
 僕は設計を通して、人の感性・気持ちに訴えるような空間づくりを目指しています。この「レッドウッド南港ディストリビューションセンター KLÜBB エリア」のプロジェクトも、そういう側面が強いプロジェクトになりました。
 この写真はちょっと唐突に感じるかもしれませんが、子供の頃、こういう狭いところに入る遊びをした人は多いでしょう。僕にも、幼い二人の子供がいますが、よくこんな感じで遊んでいます。子供はそういう“居心地のいい場所”を見つける達人で、等身大の場所には惹きつけるものがあったり、ワクワクしたり、居心地がよかったりなどの感覚があるのだと思います。今回のプロジェクトでは、そういうことをデザインに含めていきました。

 

「レッドウッド南港ディストリビューションセンター KLÜBB エリア」は、大阪市にあるマルチテナント型の賃貸の物流施設です。物流倉庫は、皆さんにはあまり馴染みがない場所だと思いますが、最近は、アマゾンやアスクルなどのネット通販で買物される方が増えていて、eコマースが急成長しています。大量の商品を素早く配送する拠点として、企業がこのような物流倉庫を借りているという現状があります。それに応じて、アチコチで大型物流倉庫の開発が進んでいます。
 このプロジェクトのクライアントは、ESR(イーエスアール)という会社でして、旧社名はレッドウッド・グループ・ジャパンです。倉庫開発を行ってきた企業で、今回、国内最大級の物流施設をつくるということで、「ヒューマン・セントリック・デザイン」というコンセプトを揚げました。
 つまり、効率重視から舵をきって、人を中心に考えたデザインをしていこうという提案です。それを機に僕の事務所が加わりプロジェクトを進めていきました。

 

 この写真が、レッドウッド南港ディストリビューションセンター(以後「DC」)です。こちらが一期工事でできたDC1で、延べ面積12万5000㎡、昨年11月に竣工しています。DC2は二期工事として建設中で、延べ面積16万㎡、2018年2月に完成予定です。広さの目安としては東京ドーム6個分の巨大な物件となります。
 物流倉庫本体の設計は前田建設工業が行っていて、僕が手がけたのが、写真のここにある「KLÜBB(クラブ)エリア」です。現場では「アメニティエリア」と呼んでいて、働く人たちがより快適に過ごせ、仕事に向き合えるような施設となります。写真を見て、リノベーションしたのかと思われることもありますが、新築工事です。

 

 巨大倉庫の内部はこのようになっていて、天井高は6〜8mほどあります。ここに物がうず高く積まれ、倉庫からは外がほとんど見えない。まず思ったのは、このような空間で働く人にとって、くつろげる場所、リフレッシュできる場所はどのような空間なのだろうか、ということ。そこで、冒頭の子供たちの写真に戻りますが、心地よさやワクワク感を感じるのは、日常生活から離れて、自分の身体スケールにあった空間に身を置いているからではないか、と僕は考えました。
 ホテルのラウンジなどは天井が高いほうが心地いいと考え、そうするわけですが、天井が高い倉庫で働く人にとっては、逆に、こぢんまりとした空間がいいのではないか、と。敷地周辺の環境としては、写真のような港湾でして、このドラマティックな風景もポイントだと思いました。
 刻々と変化する空と海の色、行き交う船などを見ていると郷愁の念を感じ、子供の頃に戻ったような気持ちになるのではないか、この環境をより身近な存在にできればいいな、と。そこで、「人の感性スケールに馴染む佇まい」というコンセプトを提示しました。
 今回、「新しい建築の楽しさ」に出展したのはDC2のほうですが、DC1抜きには語れないので、まず、そちらを紹介します。

 

 僕が手がけたのは、DC1の車路周りの外構とファサード、エントランスエリアに付随する託児所・売店、車路と本体倉庫の間の中庭、4階の休憩ラウンジとなります。こちらがエントランス周りのファサードです。
 DC1では物が集積される様子をメタファーとして考え、「積む」というキーワードをデザインコードとし、大小さまざまなブロックが積み上げられたデザインにしています。エントランスホール内部も、「積む」というキーワードのもと、コンテナが積み上げられたような空間をつくりました。ホール部の天井高は4mくらいあり、それに対して、コンテナが吊られたような部分の天井高は低くなっています。
 天井が高い場所に比べて、こういう天井が低い場所をつくることが、先程の子供の写真のように、「人のスケールに見合う、一息つける場所になる」のではと考え、さまざまなところにそういう場所を散りばめました。
 例えば、ここは託児所ですが、天井高が2.1mです。天井高が4m近くあるエントランスホールからここに入ると、大人だと、頭がぶつかるのではないかという感覚を覚えたりします。しかし、子供たちが過ごす場所としては、それくらいがちょうどいい、と。むしろ、心地よい感じになるのではないか、と考えました。こちらは売店で天井高が2.4m、また、待合室は天井高が2.2mです。どちらも天井が低いですが、天井が高い倉庫で働いている人にとっては、大事なポイントになると思います。

 

 こちらは4階のラウンジです。コの字の部分が本体に貫入したような構成になっています。目の前に港が広がり、はね出したテラスによって港の風景を眺められ、風を感じられる空間にしています。これは内観です。低い軒とテラスで景色をきりとることで、より印象的に見せています。また、奥に行くにつれて床の高さを上げ、奥にいても前の人が邪魔にならず、外を眺められます。
 最上段のソファエリアは列柱状のフレームで囲い、「コロネード」と名付けました。ここも、こぢんまり感を出した空間で、人のスケールに合わせた要素で、人を緩やかに囲っている。それが気持ちの拠り所になり、落ち着けるスペースになるのではないか、と考えたわけです。

 

 次は本題のDC2です。DC2はDC1の兄弟であり、対の存在でもあります。同様のコンセプトと手法でデザインをしているのですが、DC2なりの個性を持たせています。
 こちらは工事中の写真です。4階にラウンジがあり、1階に託児所と売店があります。また、この部分は荷重をかけられない場所で、建物を建てられないので、前田建設工業の計画で緑地帯が整備されることになっています。ビオトープなどがあり、人がゆっくり過ごせる場所になる予定です。西側にあるので景色もよく、ドラマティックな眺めを楽しめるエリアになると思います。
 そのこともあり、DC1側からDC2側の緑地に誘導できる仕組みを考えました。DC2は、メインエントランスに並ぶように売店と託児所を設け、4階部分に休憩ラウンジ、ミーティングルームなどがあります。
 今回、「新しい建築の楽しさ」に展示させてもらった模型は、この部分のものになります。

 

 これまでの倉庫は開口部がほとんどなく、無機質な風景をつくってきました。また、内外の関係もほぼ皆無です。今回は、外部空間との接点をつくることで、新しい倉庫のあり方を模索したいと思いました。
 4階部分のラウンジには、壁面をセットバックさせてインナーテラスを設けています。1階エントランス周りも壁面をセットバックさせてピロティ状の空間をつくり、外部に面して託児所、売店を配しています。
 先程述べた緑地がこの方向にあるので、売店からの動線がスムーズになります。例えば、売店で買ったお弁当を持って緑地に向かうなどの動機づけになればいいかな、とも考えました。また、倉庫の周りには、陽射しや雨などから身を守る場所がほとんどないのですが、こういうピロティ状の空間があると、人がそこに集まり、コミュニケーションをとるきっかけになるだろうと思っています。4階ラウンジのインナーテラスも同様で、海風を感じたり、景色を眺めたりしながら、外の環境に触れる機会を増やすことにつながります。
 こういう手法をとることで、これまでの無機質な倉庫のイメージを変えたい、と考えたプロジェクトです。

 
 
 こちらは託児所のファサードです。軒を低くして、ウッドデッキで子供たちが遊ぶスペースをつくっています。軒とウッドデッキが連続する空間とし、空間を「くるむ」という考えです。
 DC1の「積む」という考えに対して、DC2は「くるむ」というキーワードをデザインコードをとしています。床・壁・天井に同じコルク素材を用い、空間をぐるっと囲い込む手法をとることで、こぢんまり感や安心感が出ると思いました。子供たちの滑り台になるスペースがあり、人工芝の場所もあります。
「くるむ」ときは、コの字型にくるみ、一方をオープンにしています。外に向かって視線が向くように一方を開けている状態ですが、このようなつくりは、子供にとっては遊びに集中できないこともある、と保育士さんに伺いました。そこで、大人の身長では外を見られ、子供の身長では部分的に見られない箇所をつくり、替わりに子供の身長に合う小さな窓を設け、そこから港の風景が垣間見られるようにしました。

 

 こちらは4階ラウンジのインナーバルコニーです。天井高が4mほどの部分には先程述べた列柱があり、影のコントラストなどもきれいです。
 内部は、1階託児所と同様に、床・壁・天井を同一素材でぐるっとくるむようなデザインにしています。また、DC1と同様に床にレベル差を設け、奥にいる人も、阻害されずに景色を眺められる工夫をしています。包み込んだ床面がめくれるような形で変化しながら、ベンチ・階段・テーブルになるような手法をとっています。
 床だけでなく、天井もこんな風に折り曲げています。それによって見える風景が変わり、さまざまな居心地を生んでいます。天井の一番低いところは2.1mくらいまで下げ、折り曲げた天井が室内に軒をつくるようなかたちになり、外に視線を導くような役割も担っています。
 ここは4mくらいのフルハイトサッシを付けた箇所です。窓際はこのように高い天井で、列柱越しにダイナミックな景色を眺められるようにしています。天井が低いところとメリハリをつけることで、窓際を生かした開放感を感じられるようなデザインです。列柱を強調するデザインはヨーロッパの建築様式などに見られるもので、それを参考にしています。列柱の向こうに景色を見せ、逆光を受けた柱が、景色を引き立てるという手法です。

 

 先程のDC1のラウンジは、低い軒とテラスで風景をきりとっていました。一方、DC2は、低い軒と縁側で景色をきりとるという和建築の借景のつくり方です。つまり、この点からも、DC1とDC2は対になるように考えています。また、DC1では木の天井・床に囲まれた中に「コロネード」と呼んだ列柱空間をつくり、DC2ではそれとは逆で、列柱の中に木で囲んだ空間を入れ込んでいます。ここでも、対の関係であることがわかると思います。
 設計者の遊び心という点では、DC1とDC2を横断して使う人が出てくる際に、両者の違いについての発見が、利用者の心をくすぐるような仕掛けになればいいな、と思ってやっています。
 このような賃貸物件で、賃貸収入を生まない共有部分の価値をいかに高めるかは、今後、より大事なことになると考えます。こういう巨大なプロジェクトは、投資家から資金を募って行うので、海外の投資家の関わりも多い。そういう方々に、共有部にコストをかけるということを理解していただく必要がある。お金を生まない場所にコストをかけるのは、割と反対に合います。先程のような和洋の要素が垣間見られる点は、海外の投資家に対してのアピールになるといいな、とも思っています。

 

 最後に、これはDC2のカウンターからDC1側を見たシーンです。このように、お見合いをするような位置関係になっています。互いに、向こうはどんな空間になっているのだろうか、と思いながら眺められる。あの人はいつも窓際に座っているな、と人を観察するようなことも起こるかもしれない。いつかそこで恋が生まれると嬉しいな、と思いながら設計をしていました。
 これでプロジェクトの説明を終わります。ありがとうございました。

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