イベントレポート詳細Details of an event

第90回 AGC Studio Design Forum
新しい建築の楽しさ2017展 プレゼン&トークセッション②
 「地域を変えるデザイン」

2017年11月21日(火)
講演会/セミナー

トークセッション

 

中崎 どうもありがとうございました。これから地域を変えるデザインというテーマでトークセッションを始めます。3組の方々の話を聞いていて感じたのは、地域の読み方が違うということ。それから、地域に開放する、シェアするということで地域を変えようとしているのかなぁ、と。建築的には、人の活動が見えるような空間構成を考えているのではないか、と。それで、まず、地域の読み方について、tecoはいつも読み方が同じなのかどうか。そういう話をされたと思うのですが、どうですかね。街並みとかストリートを調査して考えるということでしたが、他のプロジェクトでも同じなのでしょうか? それとも地域によって、地域の読み方が異なってくるのか?

 

金野 はい。それは、プロジェクトによって異なります。西大井のプロジェクトではまず建物が通りに並んでいるという前提があるわけです。それって、東京の話だな、と感じていて、全国のいろんな地域で通りを歩くと、あれだけ通りに建物がきちんと並んでいるのは珍しいと感じます。先にお見せした丸太でつくったカフェの場合は、まず、新潟のある潟の際にある一つの建物を訪れて、そこで話を聞いて、考えたり、山へみんなで行ったり、地域の人々の生活の営みを知るために何を見るべきかは毎回違うと思います。西大井のこの計画では東京の密集地の特徴がもとにあって、郊外だったらヘルパーさんも車で移動するのですが、ここでは徒歩か自転車になり、その中で本当に細かい動きをたくさん積み重ねるからこそできる建築を目指したいと考えました。

 

アリソン 基本的に地域によってだいぶ違ってくるとは思うのですが、建築物というのはその地域に長く携わっていくものなので、その場所固有のリズムみたいなものは丁寧に読み取りたいと思っています。西大井のように建物の密度が大きなリズムをつくっているのか、自然インフラなのか、それとも人の集まりが特徴的なのかなど、具体的に見るものは違ってくるのですが、まちのリズムを受け継ぎ根付いていくように配慮しながらも新鮮な風を吹き込ませるようなものを作っていきたいと考えています。

 

中崎 なるほど。尾崎さんのプロジェクトも東京で、場所は中野区ですね。地域の読み方が、不動産の収益性と、敷地周辺を読んでいるのだけれども、それ以外には、ご説明の中ではあまり読んでいない気がしました。他には、どのようなものがありますか? 地域を読むにあたって。

 

尾崎 もちろん立地条件という意味では駅からの距離や都市計画的視点についても考えますけれど、クライアントかな、というところがあります。クライアントの心持ちを考えることがいちばん大事と思っていて、その中から地域性を見出していくような視点を探したり、仮説を立てて実践してみる中からリアルな地域性の理解に近づければと思っています。

 

中崎 クライアントの心を読む(笑)、ですか。魚谷さんの場合は浜松市という地方都市の周辺部でして、今回は、行政が引いた線をどう読み取って、解釈して、地域に生かしていくか、ということをされたと思うのですが、今回は特殊な例なんですかね。それとも、……。

 

魚谷 今回の条件は特殊だと思います。少なくとも私は「市街地縁辺集落」という言葉を知りませんでしたし、その条件は非常に特殊だと思っています。ただ郊外ということに関して言えば、やはり車社会であったり、土地の持ち方が中心部とは違うので、線引きとしては特殊な状況ですが、その地域の在り方とか、中心と周辺の関係でいうと、汎用性があると考えています。

 

中崎 なるほど。今、小学校から大学まで「アクティブラーニング」というものが積極的に取り組まれており、その空間をラーニングコモンズと言います。そういうものが現在は教育施設の中に入っているのですが、今後はまちに出ていくのではないかと思っております。そういう話を、取材のときに魚谷さんとした経緯があります。魚谷さんのプロジェクトは、教室であり、教育である。一方、tecoのプロジェクトは福祉で、尾崎さん場合は不動産ということになるわけですね。個人がされている教室に対して、教育産業とは呼べないのですが、教育に関係する仕事が地域を変えていく可能性について、どうお考えになりましたか?

 

魚谷 教育というよりはもう少しラフなイメージですが、ラーニングコモンズというのがあって、そこで学習する形態というか、複合的に知を得るということがあると思うのですが、今回は「まちなかの~」というイメージをしていて単純にそこを目的にして行くというよりは、その状況が「ある」ということで、より触れるチャンスができることが重要だと思っています。教育と受け手の関係を考えると、学内施設であれば、そこに「得よう」と思っていくと思うのですが、例えば、農業をやっているとか、それは駐車場の一部かもしれないというような、特別ではない場所でも、何かを知る機会がある状況をつくることは、公民館的なものとも違う。利用者に対するベクトルが違ってくるのではないかと思っています。「教育」という言葉では呼びにくい印象もあるのですが「何かを得られる」という状況を、身近にする。それが住む人たちに広がっていくという意味で、浸透しやすいのではないかと思います。

 

中崎 魚谷さんと尾崎さんのプランは、プログラムを変更しても活用できるような空間構成だと思うのですね。一方、tecoのも空間的にはそうなんですけれども、福祉施設であり、補助金等を活用していると、プログラムを変えるのは難しいと思います。変えるのが難しい状況で、どうやって、中心的な利用者以外の人たちとシェアしたり、まちに開放していくのが課題だと思います。それについてどのように考えていますか。

 

アリソン 確かに福祉施設としての助成金をもらっている部分に関してはプログラム自体を変更するということは難しいのですが、ケアの概念が進化してきている現代において、福祉施設というプログラムの中でも地域に開いていくことは十分可能であると感じています。そもそも街の昼間人口のほとんどを占めるであろう高齢者と子供が集まるということは、地域の建物としてとても高いポテンシャルを持つことであると思っています。一方、そこで働く人がまちに見え隠れする、働いているその姿が見えると、そこで行われていることがわかることによって、より身近な場所になってくる。この建物では、外部は誰でも上がれる街路のようなスペースを屋上の菜園まで立体的につくっていて、挨拶程度でもコミュニケーションが生まれていく可能性を含んだ構成をつくっています。内部空間に関しては「かんたき」や保育の部分に関しては「いつでも、誰でも来れますよ」というようににはつくっていないのですが、土間の部分や食堂の空間は誰でも入れるしつらえにしているので、運用次第で街に開放していけるのではないかと考えています。

 

金野 私たちも、この規模の福祉の建物に初めて取り組んだので、最初は「かたいなぁ」と感じることもありました。その中で、「お堂」という概念を入れたのは、どこか、それをジャンプさせるというか、そうした枠組みをすべて忘れてもお堂は残る、と。そういう建築の型の持つ強さみたいなものに期待していたからだと思います。制度や用途に左右されない建築の強さをパラレルに走らせようという気持ちがあったのだと。

 

中崎 尾崎さんの場合、個人の不動産の方とお付き合いしておられる。地域を変える産業としては、不動産業が最も可能性があると思います。現在、お付き合いなさっている不動産の方と建築家が組むと、今までとは違った可能性がありますでしょうか?

 

尾崎 最初、不動産と建築の設計はどうしてもかち合わないと思ったりすることもありました。例えば、工務店さんと設計者はお金の部分でもめることがありますけれど、最終的には、いいものをつくるという点で、まとまることがあったりします。一方で、不動産屋さんと建築設計も、その緊張感を持った距離感でいないと、収支のことだけに偏った建築になってしまうし、設計者のほうは建築や空間のことばかり考えてしまう。その緊張感が大事で、それを保ちながら、コミュニケーションをとり、その間柄を作れる相手をたくさん見つけるしかないな、と。ただ、不動産の人は建築のことをよく知っていますので、そういう関係を保てればいい建築ができると思います。また最近感じているのは、不動産の方は土地のことで大変なので、建築に関してはあっさり決める。判断が早いなぁという気がしています。さらに、すぐに不動産を手放そうとする方も多い。もう少し土地に持続して関わって、そこでの運営などまで考えたくなるような建築を提案したいな、もう少し長い目線で付き合いたくなる建築をつくることで、変えられる部分があるのではないか、そういう気持ちで取り組んでいます。

 

中崎 魚谷さんのプロジェクトは個人が所有されていて、住宅併用の建物ですので、プライベート空間をある程度パブリックに開放しようとしているわけですけれど、施主のマインドとして、そういう人が増えてきているのか、私はそういう感じが少ししているのですが、どこまで開くか、ということに関して、どうなさったのでしょうか。

 

魚谷 私も「開く」と言うことに対して、住まい手の考えは変わってきているだろうと感じています。それは様々な住み方の提案が出てきているのと同時に、いままでの住宅としての固定観念のようなものに、もう少し別の利用価値であったり、スペースだけじゃなくて使い方のバリエーションみたいなことで、そういう発想が広がってきていると感じています。今回のケースに限って言えば、住宅を付けていくという感じだったのですが、細かな人の動きを計画していく中で、物理的な離隔をとり、人が入って来られるのだけれども離れている、他の人が使う前提で計画しています。動線空間をヴォイドとしてとらえて、それを中から外へ持ち出していって配置しながら、内部で完結せずに、外部の使い方を考えたいというゾーニング的な決め方をしたと思います。どう開くかよりも、どう使われるかというアプローチをしています。

 

中崎 tecoのクライアントは福祉系で3代目とおっしゃられました。その3代で変わってきているということですかね。

 

金野 このクライアントさんは1代目が家政婦業を始められたおばあちゃんで、その次のお母さんの世代が訪問介護などの福祉事業を始められ、3代目になった。私たちが今やっている福祉の仕事のほとんどは、30代から40代前半の事業主の方々が多くて、(理屈ではなく)「目の前見たら分かるでしょう? 人が足りないの」(笑)と言われる。そういう危機的状況になってきたという実感が、この世代の人たちにはあります。とはいえ、私たちの関わる計画にそうした野心的な事業者が多いだけで、おそらくそういう事業者は1割もおらず、まだ補助金が多い状況なので、地域の事等に関心がさほど高くない方も多いと思います。パッと見で福祉施設に見えず、地域に貢献するような空間としてなにかしら供出するジェスチャーを表出していることは重要だと思っていて、こうした可能性を実践し続けたいと思います。

 

アリソン 今、金野がいったように私たちのクライアントが特殊なのかもしれないですけれど、何代もやっているプライオリティーというのは、やはり地域を既に知っているということじゃないかと思います。プロジェクトを進めていく前に、すでに地域のネットワークを把握されているからこそ、ここまで「開ける」のだろうという部分はあります。全くの新規参入で、あの私道に対してここまで開けたか、というと難しかったのかもしれません。ある程度人の顔が見えていて、お隣の〇〇さんが野菜育てたらしいよ、とか、学校帰りの子供達が集まってきそうだよ、みたいなやりとりがあって、あれだけ大きな外のスペースを街の居場所として実現することが可能になるわけです。地域に根付きながらキラリと光るような場所をつくりたいという思いと同時に、それを維持し、運営していける人や環境などの資源を丁寧に観察し、それらの関係を調整しながら、空間的にしつらえていくことが今私たちに求められている力の一つなのではないかと思います。

1 2 3 4 5