イベントレポート詳細Details of an event

第90回 AGC Studio Design Forum
新しい建築の楽しさ2017展 プレゼン&トークセッション②
 「地域を変えるデザイン」

2017年11月21日(火)
講演会/セミナー

「まちなかのホテル」(宿泊施設、兼用住宅、SOHO、住宅、飲食店/東京都中野区)

尾崎泰永氏(尾崎建築事務所)

 

尾崎 こんにちは。「まちなかのホテル」というプロジェクトをやっております。敷地は東京都中野区の辺縁部で、この地図は中野区の隣郭を示しているものなのですが、近隣商業地域で、ここの星印のところです。クライアントは、不動産経営をなさっている個人で、生まれもこの地域の人です。「収益性を満足できる計画をしてください」というところから始まりました。敷地は特徴的な三角形状をしており、北側は住宅街で、南は大通りに面しています。近くにバス停があり、目の前は交差点で敷地から真っすぐ向こう側の通りまで視線が通ります。前面の歩道も整備されており、日常的な人通りも程よい感じです。また、通りから見ると間口が広く、視認性が良く、テナント需要も見込めるような敷地でした。最初は、単身者向けのワンルーム賃貸を検討していまして、1階にテナント、2階から上は各階、ワンルーム住戸を3つ入れて、北側に階段を設ける計画をし、各々の住戸が南側に開いた居室を持ち、隣地側の2辺はシャットアウトするような建物を考えていました。それに基づき、南側のファサードをデザインすることに終始し広い間口を活かしたものにしたいということで、例えばバルコニーを飾り窓的に見せてファサード全体に散らばらせるようなデザインを考えていました。しかしながら、間取りが生活の仕方を限定してしまい、それが窮屈に感じられることや、ワンルームマンションがたくさん存在し、築年数を経たものはすぐに家賃が下落してしまうという地域事情もありました。話し合ったところ、よりフレキシビリティがある計画にしてほしい。さらに先の事がわからない中で、その時の状況に応じて計画を練り直せるようなものにしてほしい、ということになりました。さまざまな用途に対応できる計画が必要だなぁ、という結論になりました。

 

 そこで可能性を広げるために、大通り側のみに開放していたものを隣地側も含めた三辺ともに開けるよう、計画を変更しました。具体的には北面は、集合住宅の片側下に面しているのですが、そのドアを開けた時に目が合ってしまってびっくりするケースを避けよう、三角形の角の部分は、壁をつくらないようにして、北側隣地の建物を利用する人にとっても開放感があるようなものにしようと考えました。一方、西側は隣地の方と視線がバッティングするところに壁をつくって、残りの部分は隣地の外構の緑を借景させていただく。このように隣地と既存環境との折り合いで壁をつくれるところとつくらないところを検討し、一方で南側はプライバシーを確保するために壁を立て、全体として3方向にまんべんなく壁と抜けがあるような建物の骨格となっています。周りの状況に合わせて壁の配置を決めているので、他律的スケルトンと呼んでいます。3方向に風が抜けるようなスケルトンになりました。

 

構造的には、鉄骨ブレース付きラーメンで、真ん中にある階段コアを中心に周りの壁が全体のブレースの役割を果たしています。次にインフィルですが、中央に階段のコアを置いて、その階段からどの方向にも出入り口をつくれることをルールにし、計画をフレキシブルにする下準備をしています。今回は1階が飲食店、2階がSOHO、3階が兼用住宅、4階が宿泊施設であるゲストハウスで計画を進めています。

 

 これが1階です。敷地に対して両端2か所に入り口があり、東側は飲食店へのもの、西側は上階のエントランスになります。また中央南側のテラスは上部の状況によって、自転車置き場や駐車場にも、飲食店のテラスとしても使えます。利用の仕方によって、テナント側にも住戸側にも寄せられる共有空間であり、シェアスペースの性格を持たせています。前面の歩道がきれいに整備されているので、アプローチがその継続として歩道の素材を踏襲していたり、3角形の角には小さなテラススペースができたり、東西南北方向に見通せる抜けができたりします。2階は、北側に細長い住宅、南側がオフィスのSOHOスペースとなっています。それぞれに個別の玄関がつくれて、住宅は、リビング、ダイニングがあり、テラスを挟んでプライベートスペースがある住宅。オフィスには小さなテラスがあります。特徴としては北側の住宅と南側のオフィススペースをキッチン、書斎などのゾーンによってへだて同時にシェアさせることおでそれぞれのスペースを大きめに確保しています。3階は併用住宅で、これは基本的に一体で使うという考え方なんですけれどDINKS住宅と、4回の宿泊施設の受付を併用しています。コアの階段差を中心にぐるっと回れる住宅になっています。テラスが3か所あって、距離がとりあえるような場所が散らばっているような住宅です。また、大きな収納をバッファーにしつつ共有し、北側と南側の居室がつながっています。4階は宿泊施設で、10人程度の宿泊客を泊められるゲストハウスをイメージしていただけるといいかと思います。長期滞在も視野に入れてキッチンなども設けています。ラバトリーを中央に配したL型の部屋は、来客のグループの人数や当日の男女割合によって分けたりつなげて使用することが可能です。

 

 インフィルの考え方としては、今回のスケルトン計画によって、建物の隅々まで居室をつくるということです。特徴の異なる居場所を建物全体に作り、それらをどのようにつなげるかということを考えることができるインフィルの空間です。2階では北側の住宅と南側のオフィスを分けながらつなげる。3階の住宅はつなげながら分ける、さらに冒頭でお話ししたワンルームマンションのような、居室に分けるようなものも受け入れることができる計画にして、その時の状況に応じて計画を練り直せるような、「挑戦に付き添う建築」を目指しています。また、全体が宿泊施設として、ホテルになることも考えられます。その時はファサードの部分を看板利用が出来ると思っています。一方で住戸仕様で看板が必要ない時は通りの街路樹の影がファサードに映し出されます。抜けの部分は、建物全体に居場所を散らばらせる下地があることで人の気配やシルエットがファサードとなってまちに現れるようになればいいなぁと思います。そういうことを通して、まちの変化をファサードでも楽しめるような、まちのキャンパスをつくりたいと思っています。変化する人の活動や思惑を受け入れつつ、それを内側からも外側からも感じ取れる「人間のまち・なかの」らしさを内包した多目的スケルトン建築です。

 

 ここまでが今回出展したプロジェクトの説明です。ところで、私は長野県で4代続く設計事務所で働いていまして、その時に、事務所と関係の深い小布施町の営繕的な仕事を担当していました。古民家を曳家して商業施設にしたり、小学校の体育館の建て替え、使わなくなった図書室をまちの古文書を集めた図書室として再生することを手伝い、同時に個人邸宅、あるいは、以前同事務所が設計監理した消防署や役場の改修を同時並行して進める経験の中で触れたのは、まちの実際の状況を知って、それと付き合うようなスタンスでした。独立して以降、こういうことをできないかなと考えています。今回、紹介したプロジェクトがこの場所ですが、いくつかの計画を並行してやっておりまして、これは最初に示した中野区の隣郭を示した図ですけれど、駅の近くだと、例えばシェアハウス・テナント・賃貸住宅・ワンルームマンションを改修したりしています。一方、辺縁部では今回のようなプロジェクトや、テナントの改修、スケルトンインフィルを計画したりしています。このように、不動産関係のクライアントを中心に複数の仕事にある範囲で集中して関わることで、まちの実態を知って、それと付き合う中から、建築設計・空間づくりの可能性を見つけたいと思いながら活動しています。以上です。

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