イベントレポート詳細Details of an event

第90回 AGC Studio Design Forum
新しい建築の楽しさ2017展 プレゼン&トークセッション②
 「地域を変えるデザイン」

2017年11月21日(火)
講演会/セミナー

「幼・老・食の堂」(看護付小規模多機能型居宅介護施設、訪問介護・看護事業所、事業所内保育所/東京都品川区)

金野千恵氏 アリソン理恵氏(teco)

 

金野 金野です。

 

アリソン アリソンです。

 

金野 よろしくお願いします。こういう形で、作品をきちんとみなさんに見ていただく機会をつくっていただき、ありがとうございます。今日は、展示している作品に関するレクチャーをしますが、私たちの自己紹介を少しだけします。私たちはtecoとして2015年から始めて2年強経ったのですが、多岐にわたる設計をこれまでやってきております(*作品例を画像で表示)。住宅、家具、内装や、芸術祭でのインスタレーション、最近では展覧会の会場構成など、毎回、チャレンジしながら仕事をしています。その中で、私たちの仕事の一つの特長だと感じている要素があり、その代表作品といえるのが、今回、展示をしているプロジェクトになります。
 今日は「地域を変えるデザイン」がテーマですね。変えるとまで言えるかどうかはわかりませんが、そういうつもりでつくっているデザインではあります。建築を立ち上がらせるという時に、これまでの施設の計画であるとか、プロトタイプというものから一度離れて、その地域にある資源をよく見ていった時にどんな組み立てができるのか。そういうことに挑んでいる計画がいくつかあります。

 

これは事後的に地域が見えてきた例ですが、訪問介護ステーションで、その事業所として小さなスペースをリノベーションしました。結果的にその3分の2くらい事業と関係のないスペースをつくったことによって、地域の人たちがどんどん入ってくるようになり、今、そこを拠点にいろいろな活動が発展しています。そういうプロジェクトをきっかけにして、何か地域の資源に着目して組み立てるということに興味がわいてきました。
(*他の事例も写真で解説。特別養護老人ホームの前庭の設計で、地域に開放するプランなども紹介。地域の人にヒアリングしながら設計した案件が9件ほどある)

 

さて、今日、ご紹介するのは、この「幼・老・食の堂」というプロジェクトです。模型も展示しております。計画としては昨年始まったものです。タイトルで想像つくかと思うのですが、子供の場所と高齢者の場所と、食事をする場所が一つのお堂に詰められている、そういう作品になります。敷地は、路地が入り組んだ品川区の西大井という地域です。駅周辺は開発され、近代的な風景に見えますけれど、そこから200メートルほど歩くと、救急車や消防車が通れないような狭い路地があります。そういう様々な要素の混在から成るまちの風景がある中に建つ建物です。事業者の方は、高齢者福祉の仕事をされている方で、ここでは「看護付小規模多機能型居宅介護施設」という長い名称の、関係者の人々は「かんたき」と略して読んでいますけれども、そういう施設を主として、そこに事業所内保育所、当面は従業員向けで、ゆくゆくは地域の子供たちも受け入れられるような保育所を設け、まちの人に開かれた食堂をつくる、という計画です。これは先にお見せした訪問介護の事業所の改修をやった時に、後から見えてきた人の流れやネットワークで、これを図にして「連関図」と呼んでいるものです。これを作った時に、もしかしたら、建築をつくるプロセスの中で、こうした連関を構想しておくと良いのではないか、と。とりわけ余分なスペースの設計はすごく難しいのですが、「こういう余地があるから、こういう広がりのある使い方ができる」と見えてくるかもしれない、と。そう思って、これは初期の段階から「どんな利用者を想定されますか?」「地域のどんな方が遊びに来られそうですか」などを含めてお話をしてきました。(連関図を示しながら)真ん中に通っている部分が、地域の人が参加可能なプログラムを想定しています。子ども食堂や、子育てセミナー、介護予防の相談などがまちの食堂で開催されたり、屋上庭園まで地域の人が上がってこられるような施設です。ちなみに、この「かんたき」というのは、施設に来てデイサービスを受ける、お風呂に入ったり(入浴)、ご飯を食べたり(食事)、宿泊もできる(ショートステイ)、さらに訪問看護や訪問介護も組み合わせて計画できるサービスです。基本的には高齢になっても在宅で暮らしたいという人をサポートする施設です。

 

これを計画するにあたって、話を聞いていると、けっこう驚くことが多くて……。というのも、初めてこういう施設を手掛けたからですが、例えばヘルパーの方々の動きには驚かされました。365日、雨の日も風の日も、雪が降っても、絶対に利用者さんの家へ行く。そうやって地域を把握されている人たちの話を聞いていると、建築家がちょろっとまちをリサーチすることよりも、積み重ねた知見がはるかに多いわけです。こうしたヘルパーさんの地域を理解するネットワークは街に張り巡らされています。ヘルパーさんたちは決して表舞台に出ることはないですが、彼女たちが声を発すると、地域の人たちに届く。ですから、この建築はこういう活動をしている人たちがここにいるよ、という施設のスタッフさんたちをプレゼンテーションする場でもあるとも考えました。そういうアイデアを詰めながら、どんな建築の在り方があるのだろう、と考えた時に、「お堂」や「寺子屋」が思い浮かびました。お寺さんなどへ行くと、真ん中に一番大事なお堂があって、そこを中心に四方に開けている。子供たちなんかも別に用がなくても、お金がなくても、そこに行けばお菓子などをもらえたという時代があったのですが、そういう地域のよりどころになる存在を目指してつくりました。「お堂」といいながらも、2017年の品川区なので、改めてどんな地域に建てるのか考え、敷地から周囲200メートルくらいを何度も練り歩きました。この写真にあるように、いちばん上は木賃の路地で、2階建てと、大きくても3階建てが建つ通りです。2列目は、かつての商店街の通りですね。また建蔽率、容積率の高いところは少し高い5階建て6階建てのマンションなどが建ち並んでいます。こういう雑多な地域で、敷地のある前面道路は、私道ですが建蔽率の入り乱れた、混在した通りでした。ですから、お堂と掲げながらも、この雑多さや、人の居場所がちらほら見えてくるテクスチャーを、どのように共存させられるかと考えながら設計をしました。リサーチの中で参考にした建築言語をピックアップしながら、地域をひたすら分析する作業をしました。そうした作業やお施主さんとのやり取りを経て計画したのが、この平面図です。在宅でまちに住み続けるのは理想だけれど、これは住宅ではない。けれど、既存の福祉施設の在り方でつくるのは違うだろう、と。「家以上施設未満」みたいな建物でありながら、確かに人の居場所が感じられる、そういう組み立てを目指して設計を進めました。

 

敷地を説明しますと、下側が前面道路ですね。こういう方形の敷地ですけれども、北側の半分くらいが「かんたき」と呼ばれるエリアです。ここにお年寄りが来て、登録が30名弱、14~15名が毎日通ってこられてご飯を食べられる空間になります。またこちら側に保育所があります。ここは2階と合わせて最大19名まで子供が来られます。土間があり、キッチンがあります。このキッチンが高齢者のスペースと保育園のスペースが兼用されるような「へそキッチン」と名付けた、中心にあるキッチンです。中心が食であるということは人間にとって一番必要不可欠なことだと思いながら、こういうレイアウトにしています。そこから延長するように土間のまちの食堂を設けていて、ちょっとボリュームが、少し出たような形にしてあるのですが、子供が通過動線のようにこの建物を突っ切ることもできるような空間を考えています。東側の隣地側には、水回りなどがあります。2階には「かんたき」の宿泊ブースが4部屋あって、右側が子供の乳児スペースです。こちらも真ん中の水回りを囲って回遊できるようなプランになっています。3階に事務スペースがまとめてとられています。

 

屋上庭園が2階の保育エリアの上にあります。そこへは外階段でつながっており、地域の人もそこまで入ってくることができるようになっています。こうした福祉施設を立体的に解くというのは意外に難問で、法律の縛りや区画の問題などがあって、各層で、1階、2階、3階と用途を分けてしまうことが多いです。しかし、今回のプロジェクトでは縦にカンタキと保育所をそれぞれ積みながら、いろんな視線のやり取りや、子供の声が上の階のブースにまで聞こえたらいいなと考えました。そういった立体的な組み立てをできる限り諦めずにやろうと、工夫をこらした建築になっています。福祉分野でいろんな機能、用途を複合しようという取り組みはまだまだ少なく、現在の法律の中で、交点をつくりながら、こういう施設を実現したモデルになれればいいなぁと考えています。

 

これが模型の写真ですね。こちらが実物の施工写真です。8月ごろのものです。そしてこれが今朝の写真です。あと数週間というところです。通りを歩いて建物の前まで来ると、どこからどこまでが一つの建物であるかが分からない。住宅というには少し大きいかなぁ、でも、施設というにはちょっと小振りだなぁ、という印象で、いい感じのスケールの建物になっているなぁと思います。これから運営がどうなっていくのか、半分不安で半分楽しみでもあります。(*画像で内外装の施工写真を紹介)

 

作品としては、以上ですが、最初の方でお見せした団地の改修で訪問介護事業所をやった時に見えてきたものがきっかけとしてありました。それは、地域の資源を集めることの面白さで、こういうつながりを表出させる空間のあり方が、今、一つのテーマになっているのかなぁと思います。

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