イベントレポート詳細Details of an event

第21回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ」展連動企画 講演会”風景をつくる”

2012年8月2日(木) 開催
講演会/セミナー

AGC studioでは「新しい建築の楽しさ」と銘打って模型展を開催している(2012年6月5日~8月11日)。40代前後の若手建築家たちが、現在の社会や環境をどのように捉え、いかに試行錯誤しているかが、その模型や各プロジェクトから垣間見える。同企画展に伴い数組の建築家を招き、プレゼンテーションとトークセッションを開催した。第4回のテーマは「風景をつくる」である。(文中敬称略)

 


 

中崎 モデレーターの中崎です。このフォーラムは下階のスタジオで開催されている模型展と連動した企画で、シリーズとしては4回目になります。今回は「扇屋旅館」と「さかえキッチン」という2つのリノベーションプロジェクトを「風景をつくる」というテーマを念頭におきながら紹介していただきます。
まず、扇屋旅館では新潟県村上市の駅前風景を、駅前旅館のリノベーションと合わせて、いかにつくるかというのがポイントになっています。また、さかえキッチンは、JR立川駅から伸びる商店街の端にあるビルをリノベーションし、障害者のリハビリ施設と高齢者のデイサービス施設を複合させていますが、ガラス張りのその建物はバス通りに面しており、そういう環境でどのように風景をつくっていくかも重要になっています。
それではまず、安原さんからお願いします。

 

「扇屋旅館再生プロジェクト」について

 

 

安原 私どもSALHAUSは日野雅司、栃澤麻利、そして私の3人で事務所を運営しております。また、今回の扇屋旅館プロジェクトでは6Dの大坪輝史さん、+i designの泉井保盛さんと一緒に取り組みました。
なお、大坪さんとはいくつかのプロジェクトでご一緒しており、今回のプロジェクトでの役割分担としては、建築の構造に関わる部分や外観・外装部分は私たちが担う。
一方、インテリアは大坪さんなのですが、基本的には相互乗り入れをしながら、全体のコンセプトを話し合って進めてきました。

 

さて、村上市は、新潟県の最北端にある都市です。塩びき鮭の食文化で有名な土地ですね。これがJRの村上駅です。
扇屋旅館は、駅から徒歩1~2分のところにあります。村上はもともと城下町で城を中心につくられたため中心市街地は駅から離れており、そうした町家形式の建物が多く残っている中心市街地では、近年、まちづくりへの取り組みが盛んになされています。
吉川さんというカリスマ的なまちづくりの有名プロデューサーがおられまして、基本的に町屋を再生するかたちで中心市街地の活性化・観光化が図られています。また祭りにも力を入れており、大きな山車が出る年に一度の祭りも有名です。
その一方で、この写真が駅前の風景です。地方都市の例に漏れず、かなり駅前が”盛り下がって”いる。地方都市の駅前によくある典型的な駅前風景で、廃れた印象があります。
先ほどの中心市街地までは歩いて15分ほどかかりますが、観光客も基本的にはこの駅前、扇屋旅館の前の通りを抜けて中心市街地へ行きますから、この通りが盛り上がれば、村上全体の活性化にもつながると思います。

 

これが元の扇屋旅館の外観です。
一番古い部分が築80年くらいで、増築を何度も重ねながら今に至っています。
隣接する建物を取り込んで増改築していますから、基本的には2棟に分かれています。表から入ると中庭がありますけれど、外からは見えません。中庭にはあまり手入れされていない植栽があって、洗濯物が干してあるなど、いわゆる旅館のバックヤードになっていました。悪く言うとゴミ箱のような庭です。
こちらが宴会場だった部分で、中庭に面しています。

 

一方、表通りに面しては宿泊客が朝食をとる食堂がありました。また2階には客室が全部で17部屋。図で「住宅」と書かれているのは、オーナー家族の住んでいた建物です。これらが内観の写真ですけれど、ご覧の通り、とくに風情があるわけでもなく、残したいというものがほとんど見当たらない建物でした。
最初の話としては、大坪さんの知り合いという関係から、とりあえず住宅部分を3世代7人家族が一緒に暮らせる住宅に建て替えたいという話でした。そしてどうせ建て替えるなら旅館部分もあと20~30年程度は使えるようリノベーションしようということになったわけです。
一般にこうした駅前旅館の再生では、地方都市によくある例で、放っておくと味気ないビジネスホテルになっていきます。ただ、先に話したように、とりたてていい建物ではないけれど、それでも80年使い続けて来たのだから、それを利用したらどうか、というのが私たちチームの提案でした。

 

こちらが改修前の図面、こちらが回収後の1階平面図です。この奥の部分の建物を取り払い新しい住宅を建てる。あとは既存の躯体を利用してリノベーションする。宴会場の配置は変わりませんが、厨房の位置は移します。
また、食堂はカフェにして、入り口から中庭までを見渡せるようなつくりにします。客室の数は減らさず改修します。と同時に、中庭をきちんと建物の中心に据えて、建物で四角い空を切り取れるような空間に生まれ変わらせます。そうやって誰でもが入ってこられるような中庭を出現させる。
ちなみに、この宴会場は地元の方々にけっこう人気で、頻繁に利用されていました。評判が良かったのです。
また客室にも公共工事などで長期逗留する方々もおられ、需要があった。それなりに繁盛していたのです。ですから、仕事で来られる方々や地元の方々などバラバラではあったけれど、アクティビティは高かった建物なのです。
そうした状況にプラスして、村上へ観光で来られた方々が宿泊したり、カフェに立ち寄ってもらったりしてもいいし、中庭へ自由に入って来てもらってもいい。観光客、仕事客、地元客の3者が出会えるような、そんな場所にできたらいいと考えました。中庭が非常に重要になってきたのです。

 

で、これが展示している模型の写真ですが、木で作っている部分が新たにつくりかえるところ、その他は基本的に内装だけの改修です。
とはいえ、80年も経っていればそれなりのガタがきていますので躯体を直しながらの改修になりますし、同時に耐震補強もします。こちらが住宅部分の断面図です。
共有空間である中庭に面していますので、住宅の機能が旅館部分から丸見えにならないよう、ルーバーを設けたりなどしています。よりプライベートな領域を庭から遠ざけ、ダイニングなど表に出せそうな部分は中庭に面したところに持ってきています。そのように中庭へ対するレイヤーのコントロールを考えています。
これが最近の写真で、あと1ヶ月ほどで竣工する予定です。

 

こうして取り組んで来て思うのですが、建築家がリノベーションをすると、元にあったものと、新しくつくるものを分けて使ってしまい、対比的になってしまう。今回のように既存躯体を活かすリノベーションでは、はがしてみないと分からないことが多い。
またこのプロジェクトでは、一部営業しながら改修しているので、部分的にはがしながら新たにつくっていくというプロセスになりました。あまり計算できないわけです。
とはいえ、この旅館は何度も増改築をしてきたので、今回の改修が特別なことではなく、建物としての歴史としては自然なことでもありました。
それと、これが上棟式の写真です。ちょうど去年のお盆の頃で、ちょっと声をかけただけで、こんなに人が集まって来てくれた。子どももたくさん来ていて、東京で行う上棟式とはだいぶ違います。

 

さて、私たちは、このプロジェクト以外でも地方都市へ行くことがありますけれど、そうした地方の駅前に立つと、だいたい「しょぼくれている」という印象を受けることが多いわけです。「どこに人が居るのだろう?」と感じます。
村上も最初に行った時はそんな印象でした。しかし、それから2年ほど通っていると、そこにとても濃いネットワークがあることに気付かされました。そのネットワークを可視化する場所をつくることが大切と思い、今回の中庭には、そうした狙いもあります。
目に見える、形になる場所をつくるということに意義がある。
私たちはこれまでもさまざまな仕事をしていますが、建築の公共性というものに興味があります。そして、それは必ずしも公共建築である必要はなく、さまざまな人々が関わってくるうちに自ずと公共性が備わってくるのだと感じています。
建築とは、そういうものだと思います。そういう意味で、この扇屋旅館のプロジェクトはたいへん公共性の高い仕事になったと感じています。

 

中崎 どうもありがとうございました。

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