イベントレポート詳細Details of an event

第20回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ」展連動企画 講演会”関係性をつくる”

2012年7月12日(木) 開催
講演会/セミナー

「上信電鉄上州富岡駅舎」について

 

 

武井 TNAの武井です。
今日のテーマは「関係性をつくる」ということですので、最初に私たちが「関係性」というものを、どう考えているかについて、お話します。

 

まず、私にとって魅力的な関係性というのは、この写真にある、甲府盆地のぶどう畑のような風景です。ぶどうの枝はこのように水平に広がりますが、それはとても繊細で実がなった時に自重を支えてくれるものが必要です。
しかし、このブドウ棚というのも見ての通り華奢で、支えているのか、逆に支えられているのか、主従関係がよくわからないようになっている。細い柱に細いワイヤーがかかっているだけの簡素な構造なのです。このぶどうとぶどう棚の関係性が非常に魅力的だと感じていて、こういう関係性や構造を建築でもつくりたい、と思っています。
さて、今回、模型を展示していただいた上州富岡駅は、上信電鉄というローカル線の駅ですが、歴史的な遺産とされる富岡製糸場の最寄り駅になります。日本における近代産業発祥の地と見られていまして、昨年度にその駅舎改修のコンペが行われ、選んでいただきました。
その時のプレゼンと同じ内容をご紹介します。タイトルは「レンガに集う紡ぎの駅舎」です。

 

私たちはこの駅を、富岡製糸場を核とした観光拠点の顔となるような駅舎にしたいと思いました。それは富岡の新しい集いの拠点にもなります。富岡の象徴でもある製糸場の佇まいを考えてみると、西洋建築の持つ重厚さと日本建築の繊細さを融合させた新しい駅舎を作りたいと思いました。そこで、4つのテーマを掲げています。
まず1つ目の「世界遺産にふさわしい玄関口」についてご説明します。上州富岡駅は街の核としての施設です。周辺にある富岡製糸場はもちろんのこと富岡倉庫、富岡宿などはレンガという富岡の日常風景の素材でできておりますので、それにふさわしい駅舎として、新しいシンボルとして、また人々に親しみのある明るい駅舎を実現したいと考えました。

 

2つ目の「富岡製糸場の気概を継承した構造」についてご説明します。
富岡製糸場の「木骨レンガ積み」というものは木で柱と梁を組み、その間にレンガを積むという構造です。これは日本の建築技術と西洋の意匠の融合と言われていました。そこで私たちは駅舎に「鉄骨レンガ積み造」を提案しました。これは軽やかな鉄骨と重みのあるレンガが一体となった構造です。
まず、細く軽やかな柱を立てて、柱と地面を蚕の糸のようなブレースでつなぎます。そしてレンガを積んで壁などを覆うようにしました。これはレンガが人と居場所をつなぐ構造でもある。
例えば、ベンチであったり、ステージであったり、間仕切りであったり、カウンターや掲示板など、そうやって人とモノが集まる場をつくれればいいと考えました。駅舎が人と居場所を紡いで、街の情報が蓄積されることで、富岡製糸場の気概を、富岡駅の新しい構造として継承させます。

 

3つ目の「駅とまちを紡ぐ地域発信拠点としての駅舎」をご説明します。まず、駅周辺と連続し、調和した拠点を目指します。広場とバリアフリーの舗装が街との連続・調和を図ります。ホームの見通しをよくすることで交通機関の連携をよくします。
レンガ色の外観は周囲と調和しつつ遠くからでも認識できる存在感を示しています。駅舎から自然と人が溢れ出すような街と一体となった広場を計画します。
そして街への発信拠点としての駅舎です。舗装材などレンガをさまざまな組み方でいろんな場所に使用し、街への波及効果を狙います。また建設時には特徴ある鉄骨の建て方の見学会を開催することで、駅を中心とした地域活性化へのきっかけになれば、と考えました。
また、街と駅舎を結ぶワークショップ等の企画運営にも携わりたいと考えています。

 

次に「環境負荷低減に配慮した駅舎」です。
この建物の特徴はレンガです。レンガには断熱性があります。そして保温性もあります。冬は暖かくて夏は涼しい。待ち合いスペースなどで人にやさしい駅舎にします。
さらにレンガには保水性もあります。これは舗装材への使用でヒートアイランドの抑制につながり、街にやさしい駅舎になっています。このように自然素材であるレンガを使用することで駅全体が環境調整装置として機能します。
さて、これが平面計画です、いま実設計を進めていますが、コンペの案とほぼ同じものになっています。次に構造計画です。この建物は角鋼の柱と、フラットバーのブレース、そして鉄骨格子張り屋根という3つの要素でできています。内部は生糸のように軽やかなフレームになっており、その間にレンガを積んでいます。このレンガは耐火や防水などの保護材としての役割も果たしますし、耐震性にも寄与しております。こうした諸機能を盛り込むことで利用者が自然と寄り添う構造といえます。
また、単一素材による建築ということは経済性にも寄与します。部分的補修や交換でメンテナンス対応も容易。断熱性もいいので空調ランニングコストもよくなります。

 

まとめると、私たちは上州富岡駅を、富岡市の観光拠点の顔として世界に誇れる駅舎にしようと考えました。富岡製糸場の最先端追求の気概と、美しい佇まいにとどまることなく、軽やかでレンガ柱の周りに街の人々から観光客まで自然と集う、親しみとにぎわいのある富岡の街すべてを紡ぐ駅舎にしようと考えました。ここまでが、プレゼンテーションです。

 

ところで、私は、そのプレゼンテーションの後になって、改めて駅舎というものについて考えてみました。
昔、駅舎は「停車場」と呼ばれていて、広場とか市場とか寄せ場等、ある目的のために空間的な広がりを示すことと同じ使われ方をしていました。それが近代社会になると、モノの伝達や輸送などの手段としての場所になった。
またそれが高度成長期になって、人を効率的に大量輸送するための通過空間になっていった。そして、これからの駅はどうなるかと想像すると、たぶん鉄道を使う人も使わない人も、街の人もそうでない人も、滞留する場所として、その場所ならではの営みが発生する場所になっていくのではないかと思います。やはり、街のランドマーク的なものになるのではないかと思います。

 

中崎 ありがとうございました。どなたかご質問はありますか?

 

末光 共感しましたね。レンガという歴史的なボキャブラリーを使いながら、重たいイメージのレンガを軽やかな構造体にしている。
ブレース構造は繊細で美しいものですが、そのブレースを露出させるという考えが、途中の段階であったのかどうかをお聞きしたい。

 

武井 このプレゼンの中身では触れなかったのですが、実はレンガは2列のフランス組みの予定なのです。そのフランス組で交互にレンガを積んでいくとブレースが中に入ってしまいブレースに当たってしまう箇所が出てきます。そこで、なんとなくブレースの形が浮き出てくるような組み方を考えています。ブレースを隠してしまうレンガではなく、何となく見えてくるレンガというものをさりげなく仕込ませておきたいのです。

 

渡邉 屋根をどのようにするのか、興味があるのですけれど?

 

武井 基本的にはレンガで空間をつくって、最後に鉄骨が現れるというイメージなので、屋根はそれほど意識していません。普通の白い屋根が白い柱とともに下に落ちて来て、下から立ち上がったレンガと出会うというイメージを考えています。

 

中崎 気概という言葉が面白いと感じました。富岡製糸場はもちろんですが、たぶん1960年代までの建築には、そういったものが確実にあった気がします。日本を一流国の仲間入りをさせたいという気概があった。
でも「戦後」が終わって、そういう国を背負うとか、社会を背負うということを建築に求めなくなり、その一方で建築家たちも1970年代以降は、自分の表現に傾倒していったと感じています。そんな状況ですが、いま一度、気概というものが建築に求められる時代になりつつあるのかな、という気もしています。

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