イベントレポート詳細Details of an event

第20回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ」展連動企画 講演会”関係性をつくる”

2012年7月12日(木) 開催
講演会/セミナー

AGC studioでは「新しい建築の楽しさ」と銘打って模型展を開催している(2012年6月5日~8月11日)。40代前後の若手建築家たちが、現在の社会や環境をどのように捉え、いかに試行錯誤しているかが、その模型や各プロジェクトから垣間見える。同企画展に伴い数組の建築家を招き、プレゼンテーションとトークセッションを開催した。第3回のテーマは「関係性をつくる」だ。(文中敬称略)

 


 

中崎 モデレーターの中崎です。今日のデザインフォーラムのテーマは「関係性をつくる」です。
最初の講演者の末光さんは佐賀県嬉野市で中学校と文化体育館のプロジェクトを進めていらっしゃいます。新しく建てる建物と歴史的建造物群との関係、既存公共施設との関係、山や川など自然環境との関係の中で、その建築プロジェクトのあり方を考えていらっしゃいます。
また武井さんは上州富岡駅のプロジェクトを進めておられます。先般、文化庁がこの地域を世界遺産に推薦するという報道もありましたけれど、富岡製糸場と駅との関係、また土地や駅前広場との関係性などについての考え方をご紹介いただきます。
それから渡邉さんは、6人の高齢者のためのシェアハウスを計画なさっています。その人々の関係性をどう考えたかについてお話しいただきます。それではまず末光さんからお願いします。

 

「嬉野市立塩田中学校・嬉野市立社会文化体育館」について

 


 

末光 私は夫婦でSUEPという事務所を営んでおりまして、独立して5年ほどになります。普段は住宅など小さなプロジェクトをやることが多いのですけれど、最近は公共プロジェクトも少し手がけており、その一つである嬉野市のプロジェクトをご紹介します。
画像の中の右側が嬉野市「塩田中学校」の建て替えです。ショッピングセンターを挟んだ左側に「嬉野市社会文化体育館」というアリーナ施設と500人収容の文化ホールを連ねた施設があります。
これらはちょうど東日本大震災が起きた2日後くらいにプロポーザーの最終審査がありまして、2つは別々の審査だったのですが、たまたま両方とも最優秀賞をいただき、一体的な計画にしています。場所は佐賀県の嬉野温泉がある町です。
九州新幹線で西九州ルートが計画され、その駅ができるということで、それに伴って旧塩田町と旧嬉野市が合併しました。私が手がけている地域は旧塩田町というところになります。敷地の拡大図がこれです。
ちょうど川の中州の土地で、この赤い色の付いた敷地が今回の計画地です。周りに公園や市役所、図書館などの公共施設が集まっています。

 

このプロポーザルでは、2つのコンテクストを提案しました。
1つは景観に関してです。塩田という名称にあるように、もともとこの地は低地であり、有明海の水が川を逆流してくる土地でした。長崎街道の塩田宿、川港という港町の伝統的建築群あります。オランダのような低地ですが、ところどころ低い山並みも見え、町並みや山との関係を建築に取り入れたいと考えました。また低地なので満潮時に大雨が降ると水害が起きます。

 

水害で住宅や建物が浸水するという深刻な問題を抱えているので、それに対する備えが必要ということをもう1つのテーマとして取り組みました。10年ほど前の水害では、今計画している中学校の敷地が1.5mくらいの高さまで水没したと聞きます。こうしたことへの対策を計画に組み込むことを考えました。
景観と水害に関する全体計画をご紹介しますと、敷地は大川と浦田川という2つに挟まれた中州で、このうち浦田川が氾濫するのですが、ここにある市役所や公民館などの公共施設はすでに高床式の建物になっています。
新しく建てる建物も高床にして、それらの既存の高床と連動させます。川の土手や公園にも高床を接続して「高床ネットワークをつくる」というコンセプトを掲げました。
洪水時に浸水してきても、新たな建物群は水没することなく、水上住宅のような桟橋でつながり、土手を通って逃げられるという構想です。

 

もちろん、何年かに1度の災害のことばかり考えて公共施設をつくるとおもしろくないので、水没する場所は日常のパブリックスペースにしようと考えました。もともと学校のグラウンドは洪水時の貯水池になることを想定しています。
つまり、この中州全域にわたるランドスケープのマスタープランを検討し、公共施設や公園を一体的ネットワークとして考えるのです。この高床は2mの高さがあり、一方、公園などのパブリックスペースは50センチほど掘り込まれている。
掘り込まれた場所は公園以外にテニスコートだったり、プールだったりして高床の建物群や通路からは、そのパブリックスペースを覗き込むようなかたちになります。
風景との関係性については、Y字型のかたちを考えました。通常の伝統建築で切妻の風景をピックアップすると、山型、屋根型のかたちが横に連なって見えますが、屋根の端部分の連結に着目して、これをY字の連続に読み替えると、慣習性と現代性を兼ね備えたような、幾何学を持った建築ができるのではないか、と考えました。
今回は体育館やホールなど非常に大きなスパンのものから、教室とかパーゴラなど小さなスケールのものまでありますので、模型で展示してあるように、大きな家型が小さなY型へと分解され、そのY字の下に人が寄り添う廂みたいな空間をつくろうとしました。

 

個別の計画について紹介しますと、まずこれが中学校です。真ん中に大きな中庭をとってあり、両サイドに教室棟と体育館、もう一方のサイドに特別教室棟があります。教室から分解されてきたY字型が、図書館になったり、玄関になったり、ベンチのある休憩所だったりして中庭に展開されています。これが平面図です。
田舎の学校ではフェンスなどで囲う必要がないとされていて、大学のキャンパスのように一般の人も自由に通り抜けられる計画です。またこの中学校の図書館は、1つの文化拠点として地域に開放します。これが内部イメージです。
教室はこのようにY字型の屋根が少しずつズレていき、木陰が寄り集まったようなイメージになります。このY字型は環境システムとしても使っております。Y字のくぼみへ雨水を集めて庭へ散水し、冷却効果を生みます。中学校などは冷房を使いにくいので、そうしたパブリック空間を利用して温度を1、2℃下げることにより涼しい風を教室へ送り込む仕組みです。

 

次に、社会文化体育館の提案です。これは機能として500人収容の文化ホールと大きなイベントを開催できるアリーナをつくるというものです。平面計画では、こうして2階レベルの2.4m高の高床回遊路を歩き、アリーナやホールを上から覗けるような仕組みになっています。これがエントランスホール、こちらがホールの内観です。
いわゆる多目的ホールなので置きイスの平土間と階段状の座席を設けています。階段状の座席は段床の上にそのまま乗るタイプのイスで、それと同じようなイメージの置きイスを土間に並べます。一方、ホールの上部は折り紙の形状にしました、いわゆるミウラ折りです。ミウラ折りは音響効果が非常にいいそうです。

 

またホールを一部掘り込んでいるのは地熱を利用してすずしい空間をつくり出すためです。このように2つの施設を同じボキャブラリーでやろうと考えていますがスケジュールが違うので、グラデーションのコンセプトを持ち込みました。大きなスケールが小さなスケールへと自然に移行して行くようなものにし、2つは似ているけれど、ちょっと違うよ、という印象に仕上げたいと思います。

 

最後に1分ほど洪水時のシミュレーションをしたムービーをお見せいたします。
避難計画として、このあたりの住民の方々を高台に逃がすには、どうすればいいかというものです。堤防が決壊したら、とりあえず市役所へ逃げ込むシミュレーションです。
まず、避難勧告が出ましたら、30分で水が溢れ出します。ただ、このように中庭が貯水池になり時間を稼げますので、最初の避難で逃げ遅れた方々や、お年寄りなど1人では逃げられない方を助けにいく時間も十分あります。

 

中崎 どうもありがとうございました。会場からご質問があればお願いします。出ないようであれば、武井さんや渡邉さんから何かありませんでしょうか?

 

武井 この2つのプロジェクトでは災害時のシミュレーションまで依頼されたのですか?

 

末光 災害時のことを考えてつくるのは条件に入っていましたし、中庭やグラウンドに貯水機能を持たせてくださいという項目も入っていました。そのくらい深刻な問題なのです。
ただ、計画を進めて行くと、適当なところもあって、厳密な科学的な検討を加えていないのです。「昔はここまで浸水した」など経験則で判断されているところがあったので、もう少し科学的、かつビジュアライズしたほうがいいと思い、住民説明会でシミュレーションソフトを回してお見せしました。

 

渡邉 過疎地で人が少ないとおっしゃいましたが、実際には人が多くいるような風景をイメージするのか、あるいは、まばらでもみんなが楽しそうに寄り添っている光景をイメージするのか、気になります。建築家は空間を提案するしかないのですが、どのようなイメージで臨まれたのかを、お聞きしたい。

 

末光 おっしゃる通り、現在人口4万人くらいの小さな都市で、5~10年後は日本でもいちばん高齢化が進む地域と言われています。高齢者が増えるとあちこちに出かけるのが難しくなるので、楽に1日過ごせる場所の方が重要になり、文化施設にはそのような機能を組み込みました。
じつは2つの敷地の間にある既存のスーパーも人の集まるところで、地域の拠点としてみなさんが使っておられる。いまある街のたまり場なのです。そうした街のたまり場を新しいプロジェクトの中に抱え込んであげて、ご飯を食べたり買い物をしたりという日常のファンクションをここに備えてあげて、とりあえずここで1日を過ごそうと思っていただければいい。
また合併した嬉野市は有名な温泉街ですけれど、そこから2キロほど離れており、嬉野駅周辺からイベントなどで多少は人を呼び込めないかとも考えています。

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