イベントレポート詳細Details of an event

第19回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ」展連動企画 講演会”場所性を考える”

2012年6月21日(木) 開催
講演会/セミナー

「ROKI研究開発棟」について

 


 

小堀ROKI研究開発棟」のプロジェクトを紹介します。
ROKIという企業名は「濾過」からきています。例えば車に使われる多種多彩なフィルターや、空気清浄機や浄水器等に使う特殊なフィルターなどを製造している企業ですが、自動車産業の一大集積地である浜松に本社がある会社です。
現在はグローバルに展開しており、すでに竣工した本社社屋と、今回のプロジェクトである新しい研究所を私たちが作ることになりました。

 

浜松は天竜川がつくった大きな扇状地で、その扇状地の頂点に当たる部分に今回の敷地があります。以前はホテルがあって、一時、住宅造成を行い山を切り崩した高台になっています。そのホテルの土地に、元の地形を生かしてグローバル本社の社屋を建てました。日中の照明が不要な、眺望に優れた社屋になっています。
一方、今回研究開発棟を建てる場所は、社屋の隣にあった、一時の宅地開発が途中で中断され、バブル崩壊によって放置された土地でした。
その造成地には調整池なども存在し、自然と動植物が育まれていたのですが、本社を建築したときは、この隣地の広い敷地・地形を誰も意識していなかったのです。本社ビルに遊歩道を造った際にその土地が見いだされ、この場所に研究開発の拠点をつくるなら、どうつくろうか、という議論になりました。
かつて造成工事の行われた土地ですが、基本的には豊かな自然がある。そういう自然がある際、「人はどこに身を寄せるか?」を議論すると「樹の下だよね」となりました。

 

また研究所ですから火も使う。火を焚くなら洞窟みたいな場所も必要だろう、と。そういった原始的な場の作り方を考えました。
これが初期のスケッチです。山を包む大きなドーム状の屋根をかけ、光を嫌うようなものはこの部分へ配置する、といったプランです。
そして、これが最終スケッチです。こういう形の中にゆるやかな屋根を乗せて、地形を生かしながら光や風をコントロールするというものです。
地形をそのまま生かしますが少しは手を入れ、それにフィルトレーションで屋根を軽やかにかけます。そうすることで地形の中に多様な場所が生まれる。空調も明るさもバラバラな場所。光や風が一切入らない完全なラボ空間。天井高も多様で、2.1mのところもあれば、高いところでは9m以上のエリアもある。まるで自然環境の中にいるかのような地形を研究棟に作り出します。
また最終的なランドスケープとして、建物が隠れるくらいに森を再生しようということになりました。もっとも気になったのは、そのような見え方と、階高を狭めることでした。

 

今回の造りはすべて逆梁形式で、その中に空調、電気、水道などのインフラを全て入れてあります。
こうした空間へ光はこのように入ってきます。風も入ってくる場所をつくり、季節の中間期は全部開けっ放しにする空間を想定しています。また一部は木を使い、屋根は基本的に木の網代にし、その天井にROKIの不織布フィルターを張って自然光の入る明るい天井にしました。外と遮断するラボの中心部を除き、どこでも自然光が入る明るい空間になっています。
繰り返しますと、ランドスケープとしては、このように多種多様な植物がたくさん入り交じって自然に生えてくる。そういう自然を眼前にするような場になっています。
また屋内にも「あいまいな場所」をつくろうと心がけました。その考え方の根底にあるのは、世の中が機能的、効率的になっていく一方で、私たちの深層心理の中には「そこから逃れたい」「決別したい」との思いがあると思われます。自然、人間、動植物など、あいまいな存在に対する感覚を取り戻したいという欲求です。
自然に対する畏敬の念や日本人が持っている美意識と生活感などを今回のプロジェクトに盛り込みたかった。研究所のあり方として、そういうあいまいさがどうか、とROKIの方々と議論したのですが、何かを生み出そうとする感覚は、そのような自然から受けるあいまいなオーラの力と同じではないか、と。知的な生産性を上げる際に、効率性とは異なる現実や価値と向き合わなければ発明などできないだろう、と話し合いました。こうした感覚は日本人に元来あった文化だと思います。

 

逆に、そうしたあいまいさの裏付けとなるよう、緻密な設計を施しました。
例えばこの敷地で1年間環境測定をしています。どんな時に、どこから、どんな風や日射が来るかを調べました。それから、人間は半戸外空間にいたほうが体としては自然で、体感する許容範囲も広いという事実も確認しました。
例えば、カフェのテラス席と空調空間に居る人では、ほんの少しの温度変化に対する反応が違います。戸外にいる人の方が、変化に対して快適に反応できる。そういうことも含め、エネルギー消費を減らすことまできっちりシミュレーションしています。
例えば、光についていえば、16時くらいまで自然光から1000ルクス以上得られるということが分かった。そういう照度や温度と人間がリンクするような方法を押し進める。場所によってはいろいろな温度空間があり、そうしたあいまいさを屋内にもつくる。そういう環境がクレームにならない範囲で収まるよう設計しています。
現在、すでに着工していますが、例えば床はすべてフローリングにしました。裸足でも過ごせるようなものにしてあります。一方、照明も特注にして独自開発をします。というのは、現在LED素子は日々進化しているので、竣工直前の到達レベルを予測する必要があります。そのように竣工時のポテンシャルまで計算し設計しました。

 

私はいくつものクライアントさんとお付き合いさせていただいておりますが、ビジネスをとことん追求している人ほど、その対極にある自然への希求が強いと感じております。言い換えれば、より人間性のあるもの、自然のあいまいさみたいなものを経営戦略の一環としてとらえておられる。このプロジェクトは長い間ROKIさんと話し合って、同じ感覚を育んで来た果実のようなものと思います。間違いなく世界に誇れるような研究施設になると確信しております。

 

中崎 ありがとうございました。

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