イベントレポート詳細Details of an event

第19回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ」展連動企画 講演会”場所性を考える”

2012年6月21日(木) 開催
講演会/セミナー

「アジア都市の場所性」について

 


 

白井 テーマが場所性ということでしたので、自分なりのサブタイトルとして「アジア都市の場所性」を考えました。企画展では中国での長期滞在型ホテルを出展しましたが、それ以外のプロジェクトも含めてご紹介するとわかりやすいと思います。

 

僕はもう1人の日本人と台湾人の3人で事務所を開きました。仕事を始める際に話し合ったのは「どこか1つの国に限定せず、アジア全体をターゲットにしよう」という方針でした。

 

日本人のパートナーとは北京で一緒に仕事した縁もあったので、とりあえず北京、東京、台北の3拠点で仕事をしようと考えたわけです。ただし、事務所を開いた2010年6月は事業的にはクリティカルな時期でした。2008年のリーマンショック以降、どこの国でも建設投資が大きく減っていた。そういうリスク分散の意味もあって3拠点に事務所を置きました。
リスク分散という狙い以外にも3拠点で仕事をする利点と面白さがあります。それは3都市の特徴が異なるということです。

 

一方でこの3都市の傾向を比較すると、じつは似ているところもあります。
例えば東京は戸建てを中心とした住宅地が再開発によって大きなブロックへと変貌して来ています。また北京も、王府井に見られるように、もともとあった都市構造が再開発で変化し、低層ながらもやはり大きなブロックへと変貌しつつあります。そういう状況下で僕らは日本人なので台湾や中国では「外人」として仕事をすることになる
資格の問題などから現地の事務所と組んで仕事をすることになるのですが、そんな僕らに回ってくるのは、戸建て等の小さな仕事ではなく、大きなスケールの仕事になります。
都市の構成物がスケールアップしてゆくと、北京も台湾も均質的風景になってしまいます。どこにでも見られる、同じような大規模建築で都市が構成され、僕らもそれに加担せざるを得ないという状況になる。
ミース・ファン・デル・ローエの言うように、同じスラブを繰り返してゆく経済効率のいい均質空間ばかりをつくることになる。個人的にはミースは好きな建築家ですけれど、果たしてそれでいいのか? という気がしますよね。3人ともそういう問題意識を持って仕事に臨んでいます。

 

ところで、台湾の建築はある意味、非常に魅力的です。この写真のようにほとんどが違法建築で、戦後に建てられた4~6階建ての建物を住まい手が勝手に増改築し、ほとんど原型がわからないほど変形しているものもある。
また植栽が好きな人々で、さまざまな植栽でベランダを飾る文化もあります。その一方で、そうしたものを壊して、最近はどんどん均質化している。そういうジレンマがあります。
そこで、僕らは本当に高層建築がいいのかどうか、を考えてみました。単純なところでは、道路からの視線に対しては上階へ行くほど見えなくなり、同様に各階からの眺望は上層階へ行くほど自由度が増す。
しかし、風圧を考えると高くなるほど風が強くなる。つまり低層階ではバルコニーに植栽を植えても風を気にすることはないし、上層へ行くと植栽が難しくなる一方、他からの視線を気にする必要も少なくなる。一般に高層ビルは上へ行くほど価値が高く、下層階は価値が低いとされているけれど、実は高さに合わせた使い方をすれば、どの階も総合的な価値は同じではないか、ということもできる。
そのような考えに基づき、20層あるとすれば同じ階を何層にも繰り返すのではなく、すべて違ってもいいと思えるのです。クライアントは、それを嫌いますが、今はそうした対策を組み込んでプロジェクトを考えています。

 

例えば、ブロックで分けます。1階から3階、4~10階、11~20階という3ブロックに分けるという考え方。また1~5階までをグラデーションを付けたように少しずつ変化させる。そうやっていくつかのパターンをつくって、それなりのルールのもと構成します。
この写真は4つのパターンをランダムに組み込んだプロジェクトです。またこちらは2階建ての建築を考え、それを積層させることで均質ではない高層建築にしているという例です。これらは従来の台湾の建築とまったく同じではありませんが、そのDNAを一部引き継いだ建築として考えられます。

 

さて、今回のプロジェクトです。これは「唐山」と書いて「タンシャン」と呼びます。北京から180キロくらい東の沿岸部へ行ったところ、天津よりも北にある都市です。
この唐山に工業団地をつくるというプロジェクトですが、いま話したような問題意識で臨みました。タンシャンは1970年代の地震で一度都市が壊滅しています。
1990年以降に復興し、その都市の中心部から離れた沿岸部に曹妃甸という地区があり、そこに中国と日本の共同で工業団地をつくることになった。日本企業も進出しますから、日本人向けの長期滞在型ホテルが必要なわけです。
初めてその土地へ行ってすごく驚きました。というのも、まだ道も水道も電気も何にもインフラができていない荒地だったのです。これまで僕らは、かつてそこにあった都市のコンテクストを拠り所にして設計をしていましたが、そこには手がかりとなるものがまったくなかったのです。

 

ただ、話を聞くと一応、街のマスタープランはできていて、すべてを箱形の建築で埋め尽くすような計画になっていました。なぜ、そんな陳腐なプランになるのかといえば、中国では「時間」が重要だからです。中国のプロジェクトは、いずれもすごいスピードで進んでいる。僕らのプロジェクトも2万平方メートルの敷地がありますけれど、コンセプトを3週間で、基本設計も3週間で提出しろというものでした。そういうスピードで進めると、箱形にならざるを得ない。
しかし、まだまったくの更地だったので、僕らは土地のDNAをつくらねばならない、と考えたのです。僕らの建物が最初に建つので、それを単純な箱形にしてしまうと、後もすべて箱形になりそうな気がして、「ここのDNAは何だろう」と考えました。

 

また「この土地のどの場所を選んでもいい」と言われたので、目抜き通りと運河が交わる角地、一番目立ちそうな場所を選びました。そこにシンボル的な建物ができれば、後も続く可能性がある。そして、どういうボキャブラリーがあるだろうかと考えたときに浮かんだのは単純な「中庭」形式です。ご存知のようにモロッコのフェズなどが代表例ですね。この中庭形式は、中国にも伝統があります。
例えば北京・胡同の四合院、また客家の家も形は円形ですが中庭を持った構造で、そのパブリックスペースをみんなで利用する生活文化を持っています。私たちのプロジェクトでも、このようなリング状のものを積んでいく形を考えました。
1階の模型にもありましたが、僕らのプロジェクトはホテルなので、レストランやジム、スパ、カフェ、ゲストルームなどがあり、それぞれプロポーションの異なる者をリングで重ねていくという手法をとりました。良かったと思うのは、こうしたリングを重ねると廂および廂下にスペースができてくる。実は廂という存在は中国で非常に大事な場所なのです。

 

中国の人はオフィシャルな話と、ひそひそ話をする場所を分けています。僕らもクライアントと食事などに行くと「ちょっとタバコを」などと言って、外でひそひそ話をする習慣があるのです。公の場と裏の場を使い分ける文化があり、ビジネス目的のホテルで、そういう場所が廂の下にできるというのは大切なのです。またこれが上層階のズームアップ画像です。縁側と同じような空間でダブルスキン構造にしました。
「何か日本的なものを」と言われていたし、この土地は夏が40℃、冬は−10℃と寒暖の差が大きいのでこうしたブァッファ空間を設け、外側のガラスと内側の間仕切りで光と風を調整します。
ところで、中国で仕事をしていると必ず驚かされることがあります。このプロジェクトでもそうで、ある時になって「資金がないから全部はできない」となりました。
話し合った結果、低層部が先行し、高層部の建築は後の問題となったのですが、このリング構造は、どこで切ってもそれなりに美しい形が残るということです。機能的にもどこで切っても成立する。リング構造が持つそうしたフレキシビリティーが結果オーライに導いてくれた。こうした単純なボキャブラリーでも新しい都市のDNAを作ることができ、周辺へも好影響を与えてくれることを期待しています。

 

中崎 有難うございました。

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