イベントレポート詳細Details of an event

第19回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ」展連動企画 講演会”場所性を考える”

2012年6月21日(木) 開催
講演会/セミナー

AGC studioでは「新しい建築の楽しさ」と銘打って模型展を開催している(2012年6月5日~8月11日)。40代前後の若手建築家たちが、現在の社会や環境をどのように捉え、いかに試行錯誤しているかが、その模型や各プロジェクトから垣間見える。同企画展に伴い数組の建築家を招き、プレゼンテーションとトークセッションを開催した。第2回のテーマは「場所性を考える」だ。(文中敬称略)

 



中崎 みなさんこんにちは。モデレーターの中崎です。スタジオの1階で展示しているイベント全体を企画いたしました。今日は当企画展に参加いただいた12組の建築家の中から3名をお招きし、各プロジェクトについてお話しいただきます。テーマは「場所性を考える」としました。
安宅さんは岩手県遠野市の1700ヘクタールの土地で、馬付き住宅を中心とした地域再生プロジェクトに関わっておられます。
また白井さんは中国の工業団地の中につくる日本人向けの長期滞在型ホテルのプロジェクトを進めておられます。
そして小堀さんは浜松市の天竜川に面した高台で企業の研究開発施設を設計なさいました。いずれも「場所」が重要な意味を持つプロジェクトです。それではまず安宅さんからお願いします。

 

「QEEN’S MEADOW COUNTRY HOUSE」について

 


安宅 今日はQEEN’S MEADOW COUNTRY HOUSEという、馬付き住宅をつくるプロジェクトと、今後の地域再生・振興を図る遠野市の体制についてお話しします。遠野はご存知のように岩手県の北上山地の盆地にあります。柳田国男の『遠野物語』によって全国に知られるようになりました。彼が本を書いた明治43年の段階で、すでに失われつつあった日本の伝統的な習俗や伝統文化が残っていた土地でした。今でも「日本のふるさと」というキャッチフレーズを遠野市が使っているくらいです。
また、昨年の震災では被災した釜石や大船渡など三陸沿岸部ともっとも近い内陸の街として、支援拠点、復興拠点の最前線となっております。

 

さて、プロジェクトの場所は遠野駅から車で20分ほど北へ行ったエリアにあります。荒川集落という11軒ほどからなるいわゆる限界集落があり、その土地で経済的に自立できる新しい中山間地の生活モデルをつくろう、というのがプロジェクトの目的です。遠野は江戸期から馬産地として有名で、1955年の時点で4000頭の馬がいたとされますが、20年後の1975年にはわずか75頭へと激減しました。
かつて遠野での馬は馬車や農耕だけでなく、里山の下草を食んで排泄をするという、まさに環境維持の役割もあったのです。それがなくなり、山が荒廃し、農地も荒廃し、土地利用がされなくなってきました。とはいえ、馬がいたのはまだ60~70年前なので、当時を知る方々がご存命でもあり、馬を飼う知恵やインフラも残っているので、そうしたことを1つ1つ拾い出しつつ、環境の回復を行い、新たな生活を描こうとしているわけです。
この写真は荒川高原牧場です。江戸期から山が拓かれ、見渡す限りの丘陵地となって、林と牧草地が広がっています。人によっては、ここが日本ではないような風景に映るかもしれません。このような中山間地で経済的に自立した生活モデルをつくります。
馬のブリーディングと、その堆肥を使った地域循環型の無農薬の有機農業。また、そういった環境を提供する滞在型の宿泊(観光)施設、つまり馬付きのB&B(ベッド&ブレックファスト)をつくる。それも数軒だけでなく何軒も集積していくのが目標です。
「馬」「農業」「B&B」の3つはそれぞれ有機的に連携しています。
例えば、農業では馬の堆肥を利用しますが、その堆肥自体が地域循環型のものです。一般に牛の堆肥を使った有機農法の場合、牛の餌には他の土地から来た穀物や抗生物質などが含まれていますね。
一方、遠野での馬はこの土地の草や稲藁だけを食みますから、そこから作る堆肥は完全に地域循環型です。そしてそれを使う農業も、ただ有機産物を生産するのではなく、多様な生物たちを生かすものとします。
例えば、畦は2mほどの非常に幅広いものとし、そこに昆虫をはじめ多様な生物が住み着きます。一般的な畦は幅を狭くして収量の最大化を図るものですが、ここではそう考えません。そういう多様な自然環境が相まって観光資源になり、滞在者を迎えるという関係です。

 

これがクィーンズメドウの現在の俯瞰図です。本部センターハウスがあり、既設の馬付き住宅やパドックなどがあります。これをひとつの単位として同じような馬付き住宅をクラスターに仕立てていくのですが、いまはこの単位でプロジェクトの実証実験をしています。

 

写真のように沢やそこから引いた水路、田畑への水を温める機能を持つわさび田、そして棚田と畑、馬が草を食む牧草地や林などがあります。
この馬はチロル地方のハフリンガー種という馬です。遠野原産の在来馬は軍馬を生産する過程で絶滅しましたので、このプロジェクトに合った、山岳地域に適し、賢くて環境適応能力のある馬をオーストリアから輸入したのです。
ハフリンガーは現在6頭いますが、他の馬共々交配などで今後増やす予定です。

 

私はこのプロジェクトに4年前から参加しました。現在、少しずつ土地を買ったり、借りたりして敷地を増やしており、私の設計した馬付き住宅も着工されていく予定です。
これが肝心の馬付き住宅の最終案です。試行錯誤しながらこのかたちになりました。2頭分の馬房と、馬の世話をする農家の人が生活する場所、そしてゲストルームという構成になっており、もちろん農家の生活を体験できる共用スペースやダイニングなどもあります。
馬はもともと群れで生活する動物ですので、仮に1頭の場合でも人の気配を感じられる場所にいたほうがいいとされます。またゲストもそうした馬の気配を感じながら、触れ合って滞在できます。
なお、馬糞から堆肥を作る際は、60℃くらいの発酵熱が発生しますので、そうした熱をエネルギーとして生かす仕組みも考えています。
そしてこれらの建物群をどのようにつくるかというと、地域の山林を開いているので材料となる木材はたくさんある。そこで製材所も敷地内につくってしまおうという話になりました。これが製材所の模型です。

 

本来はもっと巨大なものにするつもりだったのですが、そうなると、現在ある木材では足りなくなる。製材所は、まず最初につくらねばならない建物であるのに、それに間に合うほど地域の木を天然乾燥する時間がないのです。
そこで「製材所の材料だけは他から買いましょうか」と言ったところ「お前はバカか」と言われまして、「そうした時間の概念まで考慮して設計するのがお前の仕事だ」と(笑)。確かにそうで、考えてみると、製材所の建屋として必要なのは製材機械が雨露にさらされなければいいので、そうするといまある木材だけも建てられそうなのです。
また、製材作業も基本的に晴天の日に限定すれば問題は生じない。そのようにして、林業も農業も、大工仕事も全て自分たちでやる。基本的に地域の資源だけでまかなうという考え方です。
これが大きな地図で、1700ヘクタールというのはこの分水嶺とこの川までのエリアで、自分たちのプロジェクトは林道から下の約500ヘクタールで展開する予定です。
ただし、計画を進めるに当たっては自分たちのエリアに限らず、後背地とその水、山林全体、川の下流域への影響まで視野に入れて考えねばなりません。
一方、こういったプロジェクトを進めていたところ、遠野市の市長さんなどにも注目してもらい、遠野市全域の振興策・再生策の中に組み込んで進めようという動きも出てきました。今後は馬を増やして、ホースセラピーを展開したり、遠野駅前の空き店舗を研究者や学生たちなどへ開放したりする案も考えています。それにより、馬が当たり前にいる山村および街づくりと、遠野の子どもたちが将来Uターンしやすい環境を目指します
その一方、被災地の方々に滞在していただき、復興計画をクィーンズメドウでじっくり考えてもらうなどの支援がもう始まっております。馬の存在を中心に東北全体の復興を考えるひとつの種になれればいいと考えています。一般向けの宿泊事業も始めておりますので、ご興味ある方は遠野に来て滞在し、馬や自然と触れ合ってみてください。

 

中崎 ありがとうございました。

1 2 3 4