イベントレポート詳細Details of an event

第18回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ」展連動企画 講演会”世界とつながる”

2012年6月5日(火) 開催
講演会/セミナー

「高野山ゲストハウス」について

 


こんばんは。今回出展していますのは高野山で計画している主にバックパッカーを対象とした「高野山ゲストハウス」という宿房です。最初に、その背景を少しご説明いたします。
英語で「off the grid」という考え方があります。この「グリッド」というのは電気、ガス、水道、通信などいわゆる社会インフラのことを指します。アメリカでは、こうしたインフラ設備やインフラ網とつながらないライフスタイルが出現しており、例えばキャンピングカーやトレーラーハウスで暮らす人たちもいます。
高野山の宿房を設計する以前、これは東日本大震災よりも前の年のことなのですが、大阪で開催されたシンポジウムで発表したプロジェクトがあり、それがオフ・ザ・グリッドの考え方にヒントを得たものだったのです。できるだけインフラとつながらない住宅を提案しました。
というのも、現在の住宅設備は、電気や水道などがあまりにも過剰供給されているのではないかという思いがあり、インフラが潤沢に整っている日本のような国で、off the gridをするとどうなるのだろうか、と考えたわけです。

 

そういうことを考えた後にちょうどあの大震災と原発事故が起きました。被災地の現実を目の当たりにして、やはりもう少しインフラやエネルギーなどを効率的に使う建築というものを真剣に考えるべきと思った次第です。
その大阪で発表したプロジェクトは雑誌『新建築』にも掲載されました。このように強固な耐震性を社会資本として供給し、巨大なダブルグリッドの大規模建築を実現するというものです。その中に入れば、耐震性能からフリーになれるので、使い手、住まい手それぞれが各自のライフスタイルに合わせて生活空間を自由に築くという構想です。
もちろん、最先端のエネルギー技術、例えばバイオマスや太陽光発電、地熱、LNG火力などの導入もします。そして、エネルギーを享受したい人はそうするし、オフ・ザ・グリッド指向の強い人は、そのように自らの生活空間を築く。そうやってひとつの街をつくるというものでした。

 

今回の高野山のプロジェクトは、そういう発想が背景にあり、一方で個人的な体験にも影響を受けました。当時、私たちの事務所の改築をセルフで行っており、ホームセンターで2×4のスタッドを購入し、自分たちで組み立てていたのです。そのスタッドは表面がとてもきれいで、しかも非常にローコストでした。
あの震災が起こって「京都にいる僕らが被災地に対して、何かできないか?」を考えたときに、そのスタッドの活用を思いついたのです。

 

つまり、仮設住宅にとどまらず、恒久的に使える建築をローコストでできる、と。
スタッドを三角形に組んでいくとそれなりの住空間ができます。計80万円ほどの材料費で建築できるし、しかも自分たちで組み立てることもできる。
私たちとしては、そういう建築の設計図、図面を供給し、つくりたい人たちに自由につくってもらえばいいと思いました。
震災2ヶ月後から、スタッドでセルフビルドする建築の図面を事務所のホームページで公開し、自由にダウンロードできるようにしました。現在もダウンロードできます。こうした図面で後方支援をしたいと考えました。
そのような活動をしていた時に、高野山でバックパッカー向けのゲストハウスのプロジェクトを依頼されました。その依頼には、後々の改装・可変性についての要望も含まれていました。また、その予定地は高野山の聖域の境界から少し出た場所なので、お酒を飲んでもいいエリアで、それなら、世界から来るバックパッカーや学生たちのメッカになるかもしれないと思いました。
地図で示すと、こういう位置です。これが外観のイメージです。
2×4スタッドからなる最小限の家型フレームになっていますが、強度の問題から屋根だけは2×6の部材を使っています。450mmのピッチでスタッドを細かく入れ、中央部の柱でも支える仕組みによって、繊細な材料を使いながら、構造と内装になってしまうというものです。
列柱のように柱が並んでいることがインテリアになります。またスタッドが細かく並んだところに構造用合板を張り、個室的空間と2段ベッドをつくります。もちろんこの2段ベッドを受ける柱全体が構造の一部になっています。そしてハイサイドライトから光が注ぎます。
寝るスペース、語らったり共同で食事をしたりするスペースもあるドミトリー形式の宿房です。
これが実施図面です。骨組みは金物を使って接続しています。
一方、標高が1000m程度あるので、水道が凍結する可能性もあり、設備メンテナンスにも気を配らなければなりません。電気、水道、ガス等の配管はすべて見えるように配置し、修繕や将来の増改築もしやすいつくりにしています。そうすることで、ある種のサスティナビリティを確保することができると思います。
それから、こうした繊細な骨組みですが、耐力壁以外は構造的な自由度があり、センター部分の柱の位置を千鳥状にアレンジできます。たぶん引き渡し後の組み替えも可能なのでインテリアにも可変性が残るわけです。こうした基本構造をベースにアトリエ兼住居になる建築も考えています。アトリエを北側、住居を南側にし、単純な切り妻屋根のフォルムになります。
ローコストで最大ボリュームを得られるような可能性を、いま試しています。

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