イベントレポート詳細Details of an event

第18回 AGC studioデザインフォーラム
「新しい建築の楽しさ」展連動企画 講演会”世界とつながる”

2012年6月5日(火) 開催
講演会/セミナー

AGC studioでは「新しい建築の楽しさ」と銘打って模型展を開催している(2012年6月5日~8月11日)。40代前後の若手建築家たちが、現在の社会や環境をどのように捉え、いかに試行錯誤しているかが、その模型や各プロジェクトから垣間見える。同企画展に伴い数組の建築家を招き、プレゼンテーションとトークセッションを開催した。第1回のテーマは「世界とつながる」だ。(文中敬称略)

 


みなさんこんにちは。私は建築ジャーナリストで生活環境プロデューサーをしている中崎です。今回のイベント全体の企画を担当させていただいております。
今日は当企画展の連動フォーラムとして「世界とつながる」をテーマに講演とディスカッションを行います。

 

講演者の前田さんはバングラディシュでサイクロンシェルターのプロデュースをなさっています。また平田さんは台湾のリゾートのプロデュースを、そして竹口さんは世界遺産の高野山で、世界から集まるバックパッカー向けの宿房の計画を進めておられます。
みなさんそのように世界とつながってご活躍なさっていますので、今日は、建築家から見た「世界とつながる」について話し合ってみます。
まず前田さんからお願いします。

 

「バングラディシュ・サイクロンシェルター」について

 



こんばんは。私は以前、フランスのドミニク・ペローの建築設計事務所におりましたが、2年前に日本へ戻って来て独立しました。今回の企画展で取り上げていただいたサイクロンシェルターのプロジェクトは、ちょっと変わっています。
通常の建築プロジェクトはクライアントがいて、設計を依頼されるわけですが、このプロジェクトの場合、国際NGOと一緒に、資金集めから始めるというものなのです。
バングラディシュについて少し説明しますと、この国は1971年にパキスタンから分離独立した若い国家です。
世界最貧国の一つでありますが、人口もいまだ増加中で、国土面積が日本の4分の1ですけれど、2020年には人口2億人に達すると予想されています。またヒマラヤから流れ込む3つの大河、ガンジス、プラマプトラ、メグナと、その支流の流れる広大なデルタ地帯が国土の大半を占めており、時々、大洪水が起こります。

 

プロジェクトの場所は、ベンガル湾に面したナンガバリ島というところで、首都ダッカから船で24時間かかります。それ以外の交通機関やアクセス手段はありません。
島の人口は1万6000人程度です。プロジェクトの名前に「サイクロンシェルター」とあるように、地形的な特徴を言うと、高台や丘などはまったくない低地で、サイクロンが来るとかなりのエリアが水没してしまうような土地です。堤防をつくっていますが、大きな低気圧と満潮が重なったりすると、水が津波のように生活圏へと押し寄せてきます。
そういう自然の脅威から逃れて一時避難をする施設をつくるのがプロジェクトの目的です。

 

そうはいっても、バングラディシュは国力がまだ弱く、シェルターのような避難施設も、施設整備を行う仕組みも脆弱なので、日本のODAや国際NGOなどがその役割を担っています。
貨幣経済から見ると世界最貧の地域ではありますが、自給自足という面では非常に豊かで地域循環型の社会になっています。水の多い低地ですからおいしいコメがとれるエリアです。

 

しかし、この地域を5年に1度くらい巨大なサイクロンが襲い、家屋や家畜が全部流されてしまいます。被害は人命にも及び、2007年のサイクロンでは約4000人が亡くなりました。そこでこの写真のような、40年前の設計図を基にしたシェルターがいまだにつくられているのですが、人口増加に追いつけなくて、協力を求められているわけです。
サイクロン自体は数年に1度程度ですから、シェルターとしての機能に加え、それ以外の時期は地域コミュニティーの場としての活用を希望されています。この写真が敷地です。敷地の前にちょうど大きな運河が流れており、サイクロンの時は、ここから水が溢れて流れ込んできます。これは堤防兼道路ですが、こういうものが島全体に巡らされています。

 

さて私たちは新しいシェルターをつくるにあたりヒアリングをしました。現存するシェルターは通常時、学校として活用されていますけれど、聞くと、「病院がほしい」と言われます。このあたりは人口150万人に対し3人程度しか医者がいないので、人材の問題はあるにしても、そういうインフラ整備を考えないといけません。
また日常的に「ここは自分たちのシェルターだ」と思えるような場所とつくりにする必要があります。そして最終的には、住民が自立できるための場所にしたい。世界最貧エリアと言われる一方で、NGOの最先端の地域でもあるので、そういうことを考えています。政府が有効な施策をほとんど実施できないため、NGOなどがソーシャルビジネスとして非常に大きな存在になっています。
ですから、単純な無償支援ではなく、有償支援にして持続的な現地雇用を生むのも大事なことなので、そのための一端を担いたいと考えています。
ところで、このシェルターのプロジェクトを通して、建築ができることは3つ考えられます。1つは地域の方々に「憩いの場」を提供することです。社交の場としてシェルターをつくりたい。
2つめは「教育の場」としても機能させたい。この円環状の堤防兼道路は「ティラ」と呼ばれています。ティラをつくるときに、子どもたちが土を遊具として使っているのを見かけますので、遊び場としての機能、教育効果も持たせたいのです。
もうひとつ大事なのは「文化施設」という側面です。
この写真は「メヘンディ」あるいは「アルボナ」と呼ばれる絵模様です。ボディアートにもなっているこの絵柄は、インドを含めたこの地域の伝統文化になっており、子どもでも上手にこういう絵を描きます。そこで、ワークショップを開き、サイクロンシェルターの壁にその絵柄を描いてもらおうと思っています。
ちなみに彼らはイスラム教徒なので、女性とのコミュニケーションがとても難しいエリアでもあります。女性たちが意見表出をするのが難しい宗教的背景がありますので、メヘンディを描いてもらうことにより、女性や子どもたちにも建設プロセスに参加してもらうことができます。
シェルターのベースとなる色については、オレンジにしました。というのも夜は電気がないので、真っ暗になります。そこで、見えないまでもできるだけ周囲の緑とは補色関係にあるオレンジがいいだろうと考えました。まだ着工に至っていませんが、いま現地の建築家と一緒に少しずつ進めています。それから衛生的な水の確保という問題もあり、その解決もしたい。多方面からの支援を募集しておりますので、よろしくお願いします。

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