イベントレポート詳細Details of an event

第16回 AGC studioデザインフォーラム
U-30 Young Architect Japan. 開催記念トークイベント

2012年4月
講演会/セミナー


石上 こんばんわ。今日のテーマとして「ガラスの可能性」というものもありますが、建築はガラスだけでできるのではありませんから、いろんな材料を空間でどのように組み合わせるかについて、お話ししようと思います。

 

2つの作品例を紹介しながら、お話しします。この写真は佐藤さんと一緒に取り組んだヴェネツィア・ビエンナーレでの出展作品です。日本館は周辺に庭を持っていたので、そこに4つの温室をつくりました。この画像のように4つの温室があります。
ちなみに僕は以前から温室に興味がありました。というのも、温室というのは、例えば寒冷地に熱帯の植物が育つ環境をつくるというイメージがありますよね。僕は「建築は空間だけでなく、環境もつくる」と考えており、そういう意味で、まさに温室は建築が環境をつくるということを最大限に表現している具体例だと思います。
ただし、僕が取り組んでいる温室は、ただ寒冷地に熱帯植物を植えるというようなものではなく、できるだけその景色にとけ込むような、景色を作り出すようなものを考えています。だから、構造に関しては佐藤さんとコラボしていますが、植物学者ともコラボしています。

 

その提案では、できるだけ軽やかな環境、半屋外に近い温室を目指しました。つまり、屋外と湿度が数パーセント違うだけだったり、温度もほんの少し違うだけだったり、という温室です。
植物の先生に聞くと、温度、湿度がほんの少し違うだけで植生の範囲が劇的に変わることもあるというのです。例えば、100年前のヴェネツィアの温度がいまより数度低かったりすれば、その頃はあって、今はもうないものが育つかもしれない。また100年後のヴェネツィアでは、今と違うものが生える可能性もある。
ただし、まったく違う植生になるのではなく、ある程度似たようなものが育つらしいのです。そこで、ヴェネツィアの環境に”時差”や”微差”のようなものを作り出して、それによりヴェネツィアでありながら一部ヴェネツィアでないような環境、景色をつくりだそうと考えたのです。

 

この画像に映っていますが、画面の上の方に飛び出して植わって見えるのはヴェネツィアで普通に育つ植物ですが、その手前にはヴェネツィアで育ちにくい植物が生えています。かなり薄いガラスを使っていますので、この奥に、ガラスを通してヴェネツィアにある植物も見えているわけです。
つまりヴェネツィアという環境とヴェネツィアではあり得ない環境を混在させ、複雑に組み合わせていることになります。一般的な温室と違うのは、それぞれの温室の中でそこでしか育たないものもある一方、同時に1~2℃や多少の湿度の違いでは影響を受けない植物もそこに植わっているということです。
要するに、温室の外でも育つ植物が中にもあり、それらの植生が混ぜ合わさっている空間になっています。ここでのガラスに関していうと、単に透明にしたいのではなく、そこにある風景が微妙に混ぜ合わさる。それが単に環境を変えるのではなく、例えば植物の映り込みが生じて、それにより出現してくる景色もあるということです。

 

次の写真は、最近竣工しつつある住宅です。これも新しい環境をつくるという点で温室と似たような発想が入っております。「大きな空間がほしい」という施主さんだったので、できるだけ大きな空間をできる限り単純につくろうと取り組みました。これを設計するにあたり、ヴェネツィアの温室と同じように内と外を微妙に合わせるような、混在させるようなものにしたいと思ったのと、これからの建築が少しでも変わるようなものにしたいと考えたのです。

 

僕は、住宅をつくるにあたって、単純に空間を構成することによって建築を提案するのはもう古いと思っていて、僕ら建築家に求められているのは「価値観が多様化している世の中に、どのような価値の伝え方をできるのか」ということだと思っています。
そこで、この住まいでは、できるだけクライアントが新しいライフスタイルを体現できるような、そういう提案になっています。
この画像のように内側は広いのですが、布基礎が周辺にまわっているだけで、屋外の土と屋内の土がつながっているような構成です。見るとわかるように家の内側も土の地面になっています。
屋内はその地面の所々に土間や床が敷かれていたり、また土になっていたりします。これが平面図でシンプルな構成です。ここで作りたかったのは、屋内と屋外の境界を曖昧にすることによって、もう少し建築を開いたものにしたいということでした。と同時に、クライアントが単なるシェルターとして建築を必要とするのではなく、生活スタイルをその空間と合わせることで初めて成立するような「建築」というものをつくりたかったのです。

 

これが外から覗いた写真で、こちらが内から道路側を見た写真ですが、道路の屋外よりも家の中のほうが外っぽい空間になっています。
別の言い方をすると、ここで実現しようとしているのは「固いテント」のようなローコストの建築です。外壁が湿度や温度のコントロールをするわけでもなく、固く空間を切り取るのでもなく、微妙な境界があるような空間が存在し、それによってクライアントの生活が変化していくようなものを考えました。

 

ところで、僕が常々疑問視しているのは、例えば断熱材を入れることもそうですが、建築を密閉していくことによって、内側の環境を外と切り離してコントロールするという考え方です。そういう空間でみんなが均質に暮らしていることに疑問があります。すべての空間を均質にすることは問題だと思っています
地球環境に関する問題は社会全体の問題であるにも関わらず、断熱性能など定められた方向で均質化を図ることでしか提案できないとなると、建築の可能性が非常に狭まってしまいます。建築と環境の関係について、そういう考え方で向き合いたいのです。

 

太田 写真で見ると、この住まいはすごく不思議な空間ですね。外と内の境界に関してもそうですが、実はまだ施工中なのに内部の植栽はもう育ち始めていて、建築中なのか竣工してしまっているのか、その境界が曖昧に見えるのも面白いですね。

 

石上 そうですね。内側とか外側とか、そういう区切りで考えないようにしています。建築というのは、人が生きて暮らすための環境をつくるのが役割なので、内側の空間に内部空間としてのインテリアをつくるのではない、というような考え方で空間をつくろうと思うのです。
この写真にあるテラスの下がリビングになっていまして、もうすぐ木製建具が入り、夏などはその引き戸を開けてカーテンだけで気持ちいい風を入れて過ごすというような暮らし方ができます。完全に断熱することによって実現する空間ではなく、もっと豊かに感じられる空間で暮らすという狙いです。

 

太田 それでは次に佐藤さんの話をお願いします。

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