イベントレポート詳細Details of an event

第13回 AGC studioデザインフォーラム
「世界の商空間デザインーその新潮流」
~グリーンとの同化、フルイド、デジタル制作~

2012年1月26日(木) 開催
講演会/セミナー

デジタル革命

 

ここからは本題の世界の潮流について、画像もお見せしながらお話しします。
いちばん最初は、コンピュータとデザインの関係についてです。デジタルで絵を描いたりコンピュータで設計するのが当たり前の時代になりました。ものづくりの世界でも航空宇宙産業や自動車産業では60年代からコンピュータによる設計が始まっています。
ところが店舗というのは「1品生産」なので、コスト面などデジタル設計にそぐわない側面がありました
一方、OS(基本ソフト)が発展し、例えばウィンドウズで動く3D・CADやCAMが進歩して、そうした分野でもデジタル設計が可能になってきました。ただし、実際につくる現場ではまだまだ熟練した職人技が必要なこともありますし、工場生産したものを運搬する際に障害があります。アメリカでもコンピュータによって造作をするようになったのは2000年以降のことです。

 

この写真は米国コロンビア大学の学生ラウンジです。
ナラ材か、あるいはロシア産のヒバ材かで作っています。これは型紙を切っているところですね。このようにそれぞれの部材には番号が振ってあるので施工図がなくても現場で作ることができます。事務所で設計し、それを工場へメールで送り、CAMに落とし込むという手順だそうです。
次の画像も同じデザイナーが手がけたニューヨークのJ.F.K.空港のVIPラウンジです。隙間のあるデザインですが、空港にはセキュリティの観点から、こうした透けて見える部分がないといけないそうです。これらは一つ一つ、部材の形がすべて違う。テンプレートで型取りして、プラモデルみたいな感じで作られているそうです。
次は段ボールによるデザインで、これもコンピュータを使った設計です。
またこちらはフランクフルトの空港にある地元製品を扱う土産物店です。ドイツの森をイメージして、コンピュータ設計で合板をくり抜き、組み立てています。
このように工場でいったん組み付けてみて、運搬方法などを考慮しつつバラし、現場へ運んだということです。

 

その次は、ロンドンのロイヤルフェスティバルホールの前に作ったアート作品です。虫のペストとフェスティバルをかけて「ペスティバル」と名付けられています。こちらはここまでと逆で、切り抜いた残りの素材で構築されています。こちらの写真が内部です。蟻塚をスキャンし、人間が入る大きさにしたということです。2次元CADで作っています。
航空機産業などは3Dですが、木を切り抜くには2Dでいいわけですね。ただし、店舗はこういう手作り部分を残してやっています。

 

次の画像はラスベガスのホテルのレストランです。コンピュータでたくさんの板を切り抜き、その位相をずらしながら構成した局面の天井です。天井というのは照明などとの取り合いさえ上手に処理すれば、手つかずの可能性が残されているデザイン分野です。
床などは客席や動線があって制限されますけれど、天井には自由な空間だけがあります。これは実際にカーブした部材を天井からワイヤーで吊っていますが、中は空洞です。こうした造作を、日本では湿式でつくりこむ歴史があります。

 

一方、欧米では建物を壊せないという制約があり、乾式にすることが多いようです。またこちらの写真は音楽ホールの特別サロンです。音の波形を3D・CADで削っています、音楽ホールらしいおもしろいデザインですね。

 

さらにこちらはコペンハーゲンにあるお茶屋さん、お茶の葉のショップです。だまし絵の手法でティーポットを浮かび上がらせています。よく見ると網点になっていて、このドットの設計もコンピュータで計算しています。
このようにコンピュータを使ったデザインを見てきますと、いずれもデジタル技術を使いながら、表現の方向性としては自然を指向している。興味深い傾向です。

 

流体もデジタルの果実

 

次はフルイド(Fluid)、流体というテーマです。流体をデザインするのはコンピュータ技術なしには成立しないので、先のテーマとつながっています。
最初の事例は銀行に人を並ばせるためのアプローチです。整列してもらうための柵なのですが、支柱を上手に隠しています。
上から見ると単純なS字のプランですけれど、楽しく並んでもらえてますね。次はイタリアの郵便局にあるATMです。日本のATMなどに比べ間接照明を取り入れるなどしています。こう見ると、ATMもデザインする余地がまだ残されているような気がします。

 

一方、こちらはロンドンの病院の外装デザインです。ステンレスの板を編んでボリュームを出しています。
またこちらはザハ・ハディットの作ったアイランド型のバーカウンターです。プラスチックとグラスファイバーでできています。ザハ本人はこのデザインについて「3D・CADでどこまでできるかの実験だった」と語っています。3D・CADの技術を習得するためのものである、と言っています。

 

一方、こちらはサンフランシスコの水族館にあるブースです。水生動物の生態を見せる企画デザインとして、水の褶曲、うねりを表現する流体デザインです。

 

またこちらはギリシャのホテルバーです。家具などすべてのものが地面から飛び出してくるようなデザインで、コーリャンのテーブルなどがこのようにデザインされています。
次は、オーストラリアの化粧品メーカーが、自社商品の化粧品の瓶を天井から吊るしたというデザインです。これもコンピュータ計算でデザインされています。

 

象徴としてのグリーン

 

最後は「グリーン」というテーマです。この分野はフランスのパトリックブランという植物学者とデザイナーがコラボした事例が多い。
最初の写真はミラノのスカラ座近くのカフェです。周辺は石畳ばかりで緑がほとんどないところですが、ブドウ棚みたいなものをデザインしています。日本でもいま屋上緑化が増えていますね。
ただ緑を店舗に使うのは緑化の効果というよりも、象徴として使われるケースが多いと思います。環境に対するイメージ戦略という意味合いです。

 

次もパトリックブランによるもので、パリのエステサロンです。階段の横に垂直の「庭」を作っています。植物学者としてのパトリックブランに言わせると、外光がまったくないところでのグリーンは、やはり維持するのが難しいようですね。彼はさまざまな状況で植物の生態を研究していまして、例えば、建物と植物が本当に同居できるかということまで実験しています。植物が多くあるので建物の中に虫まで住み着いている。いわゆるミニ気候の実験です。

 

3つのテーマに関してはこんなところですが、全部共通しているのは、ポストモダンの動きですよね。80年代のポストモダンとはちょっと違っていますけれど、いずれにせよ建築経済や様式、近代というものから離れようという動き、だと思います。コンピュータ技術を使って近代から離れられる可能性が開けてきたというところですかね。
最後に少しだけガラスを使った商業デザインを紹介します。これはラスベガスのレストランですが、合わせガラスの中間膜に印刷が施されています。
またこちらはフィレンツェのエステサロンです。床が花畑のようになっておりますが、これも中間フィルムを使っているようです。デュポン社にSGXという非常に発色のいい有名なフィルムがあり、それにコンピュータでデザインしてガラスに挟むという手法です。
また、こちらの写真はイギリスのコンサートホールです。1階にウェルカムバーがあり、小口のきれいなガラスを積層させてデザインをしています。
もうひとつはCGですけれど、ガラスの橋です。実際にこういうものが可能かどうかわからないのですが、ガラスは圧縮力に優れた素材らしいので、いずれ、こういう構造体ができるとおもしろいだろうと考えています。

 

1 2