イベントレポート詳細Details of an event

第11回AGC studioデザインフォーラム
「建築を取り巻くこの一年」 ~AGC studioへのさらなる期待を込めて~

2011年11月7日(月) 開催
講演会/セミナー

少子高齢化したわが国の人口がはっきりと減少に転じ、また単純な経済成長やスクラップ&ビルドを望めない社会環境、グローバル環境になったところに、大震災と原発事故が日本を襲った。そのような2011年を総括するよりも早く、一部の建築関係者たちは業界が変容すべき必要性と可能性を考え、すでに動き出している。
AGC studioの1周年を記念し、スタジオとゆかりのある方々にこの1年を個人的に振り返ってもらったのだが、そこで語られた内容は、奇しくも共通するテーマが核心を占めていた。建物だけでなく街全体や人々の生活にまで深く入り込んでリノベーションを進める必要性。また、非構造部材の更新の必要性。さらに箱から場へと業界の足場を変える必要性など、日本のみならず世界をリードする思考が、日本の”建築頭脳”にはある。

 



N市中心街のリノベーション

 

今年度から私の事務所では建物単体ではなく、街づくりにも取り組むチャンスをいただきました。それについて簡単にお話しします。
この写真は宮崎県延岡市にあるJRの駅です。立地としては延岡市の中心市街地のちょうど真ん中にありますが、この中心市街地全体が空洞化してきており、駅の再整備をきっかけに中心市街地を更新して再活性できないか、というプロジェクトに取り組んでいます。
この写真にあるように、駅の周辺は地方都市にありがちな、駐車場が幅をきかせ、街全体が人のための場所になっていない雰囲気もあります。またロードサイドのショップが流行る一方、中心市街地にあったかつての商店街が寂れ、閉店するところも出てきています。このように日本全国の地方都市に共通して見られるような課題を抱えている街なのです。
そこで、プロジェクトとしては、従来型の駅周辺整備とはちょっと違う考え方をしています。具体的には、駅単体を考えるのではなく、街の状況から導き出される駅のあり方を探る一方、駅から始まる街づくりを考えるという、双方向でのアプローチをしています。
従来の「駅周辺整備」は、商業と駅を抱き合わせて開発する事例が非常に多かったものの、駅の横に単に商業エリアを置いたところで、たいていはその近くに大規模なショッピングセンターがあって効果が出なかったりしましたし、最近ではネットショッピングも大きく育ってきています。そういう事例が各地でたくさん見られるように、駅に商業を付帯させるだけではうまくいかないでしょう。
だから、延岡駅のプロジェクトではそうした単純な併置型カップリングを当初から諦めています。商業スペース併置の代わりに、市民活動のスペースをうまく組み込もうと考えています。

 

市民活動という表現は抽象的なので、例えばそれを公民館と呼ぶことにします。もし、駅と公民館を並列して新しい建物をつくったとしましょう。この場合は駅にも公民館にも相乗的なメリットが生まれないといけません。

 

図に示すように、駅には「市民活動の場ができて駅周辺のにぎわいが生まれる」、また公民館には「交通アクセスが容易なので多くの人が活動をアピールできる」という簡単な絵を描けそうな気がします。でも、それは決して実現しませんので、それぞれの機能を細分化してそれを組み合わせるようなレイアウトを考えています。
駅といっても、JRの鉄道利用、バスの乗降、タクシーなど細分化できますので、それらをうまく分散化させ、その隙間を狙って市民活動のスペースを潜り込ませるようなイメージです。そうすると、何らかの市民活動が行われている時に駅だけでは盛り上げられませんが、市民活動と駅の機能双方で相乗的に効果を及ぼせる状況を作ろうとしています。
なお、この「市民活動」は一過性のイベントではいけませんし、また誰がそのイベントを請け負うのかという問題もありますので、みなさんよくご存じの、studio-Lの山崎亮さんと共に「市民活動を育成する」ということを同時に行うプロジェクトになっています。私はデザインというハード開発を担当し、コミュニティーデザインというソフトを山崎亮さんが担当するという、2人でコラボレートしながらの取り組みです。

 

そうすると、駅をただ通過して行く利用者でも、市民活動をチラチラ見ながら過ぎていくということが起きて、市民活動に興味を持ったなら、駅に用事がなくても駅を訪れるようになるのではないか、と期待して、このようなレイアウトを考えています。
ただ、一気に市民活動の場を大きく入れ込んでしまうと、ある程度うまくいったとしても駅だけで孤立化してしまう恐れ、駅周辺の街に人がいなくなってしまう可能性も考えられますので、駅の市民活動スペースはわざと小さめにつくろうと考えています。街にはたくさんのスペースが余っていますので、「そこを、もっと大きな市民活動の場にしよう」という話が持ち上がりやすい状況を生み出せれば、駅の再整備をきっかけに駅周辺の街にも新しい展開が波及する可能性が高まります。こうして街の「回遊性」を増やそうとしていくと、縮小化している街の商業活動も少しは活性化していくのではないかと期待しています。
私はこれまで街づくり全体というところまでを突き詰めて考える機会がなかったのですが、このプロジェクトに関わらせていただいてから、「街にも取り組んでいる」と受け取られるようになって、例えば太田先生と一緒にインタビューに行く機会に恵まれたり、山崎亮さんと公開の往復書簡をさせていただいたりと、私自身に新鮮で活発な状況が生まれてきています。それが、私の「この1年」です。

 

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