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第9回AGC studioデザインフォーラム
「道理と信念をかけて逸脱する」 ~”坂流”コンペに勝つデザインとは~

2011年9月17日(土) 開催
講演会/セミナー

優れていても負ける?

 

ここからはコンペで負けた作品を紹介します。まず、最初はUAE(アラブ首長国連邦)での博物館のコンペです。
UAEは7つの首長国をシェイク・ザイード氏という首長の下に統合した国です。そうした首長国の歴史とシェイク・ザイード氏に関する展示を行う博物館で、名称も「シェイク・ザイード国立博物館」となっています。
コンペにあたり、当然、その国や人物のバックグラウンドを調べて臨むのですが、それを調べた時、このような写真が坂の目にとまりました。人が語り合っている木陰ですね。
この樹はガーフという砂漠に生えるマメ科の木です。若い頃のザイード氏がこの木陰で休んでいますけれど、じつは他の首長たちと環境に関する話をしているところらしいのです。
ザイード氏はこれまでにガーフを100万本以上植樹したことでも知られています。そこで設計したのが、この写真の案です。
7つの首長国を象徴するパビリオンを置き、それを束ねる、ガーフのような大きな屋根があります。この屋根がシェイク・ザイード氏を象徴しているという案です。
素材はコンクリートですが海外では現地で簡単に手に入るものを使うのが基本で、砂漠の砂は無尽蔵にあるのでそれを使うわけです。このコンペは10人の建築家で争われ3人の最終選考に残ったのですが、一等はノーマン・フォスターという結果で、現在基礎工事が進行中とのことです。

 

ちなみに素材のことで申しますと、”紙の建築家”というように坂が紙や木にこだわっているとお考えの方もいらっしゃるようですが、坂の頭の中では、紙も木も鉄もガラスもコンクリートも、全部同列だと思います。その時その場に、もっとも適した材料を使うというのが坂の考えで、震災に遭った神戸の仮設住宅で紙を使ったのは、軽くて断熱性も得られ、低コストという、その時に求められる状況に合致したものだったからです。
紙だと余震の影響もほとんど受けない。そのようなロジックに基づく材料選定だったと思います。だから、砂漠のエリアでは砂を使ったコンクリート、森林が豊富な国では木材というような選択肢が出てくるわけで、坂自身は紙や木材を特別に意識しているわけではありません。

 

勝ち負けを分けた要因

 

次のコンペも中東で、サウジアラビアのメッカです。写真の真ん中にあるのが有名なカーバ神殿です。
メッカは、ご存知のように巡礼月になると世界中からイスラム教徒が集まってきます。最近では1度に200万人も集まるとされます。それで、さまざまな問題が起こっており、とくに神殿を取り巻くモスクのキャパシティが60万人分しかなく、残りの140万人をどうするかということが、コンペで争われました。
具体的にはモスクをどのように拡張するのか、という計画立案になるのですが、坂は、この世界最大のモスクをすべて取り壊す、という途方もないアイデアを出しました。この時、坂が考えたのは「建物をどんどん大きくしていっても、来る人たちがカーバ神殿を見たり、触れたりできないようでは意味がない」ということでした。
せっかくメッカにまでやってきて、それを見ずに帰ってしまう人がたくさん出てしまう。建物に入れる人と入れない人のヒエラルキーができてしまうわけです。
「だったら、そんなヒエラルキーを生む建物をなくしてしまえば?」という提案でした。そうやって建物を取り除く代わりに、巨大な日よけの傘をたくさんつくって、モスクの機能を各ポールに持たせるというものです。計画では4000本の傘を立てるプランでした。
もちろん、日中は40℃にもなる場所ですから、ただの大きな日よけ傘ではなく、空調の機能も備えたファンクションポールです。太陽電池も付けたりします。
そうしたポールを増やせば、人に応じていくらでもキャパを増やせますし、巡礼月以外の期間は、床も含めて折り畳んでしまうこともできます。
このコンペの結果としてモスクは壊されなかったのですけれど、傘の案だけは採用されました。優れたアイデアだと認めてもらえたのです。ただし、最終的にはキャンセルになっています。
これに限らず、中近東地域のコンペは最後にキャンセルされたり、途中でコンペ自体が消滅してしまうということも時々起こります

 

次はクロアチアのザグレブ国際空港の新ターミナルに関するコンペです。
ここでのただ1つの要求事項は環境にやさしいということで、「最先端の環境技術を盛り込んでほしい」ということでした。
クロアチアは「森の国」と呼ばれていて森林資源の非常に豊富な地域です。そこで、坂の提案はターミナルをすべて木造にするというものでした。
ご存知のように木材は唯一再生可能な建築材料ですね。またCO2を取り込んでくれるのに加え、生産から施工、使用、修復、廃棄に至るまでのトータルなプロセスでもCO2の排出量がもっとも少ない。鉄骨などと比べたら4分の1程度といわれますよね。
で、このコンペは名だたる建築家たちを抑えて次席でした。残念だったのは勝ち残ったのが名もない地元の設計で、しかもまったく環境への配慮がなされていないプランだったのです。これは本当にがっかりしました。

 

その次の例はブラジル・リオデジャネイロの「音と映像の博物館」のコンペです。
写真のようにコパカパーナビーチに面していますが、その他の建物を見ると、ビーチが巨大な壁に面して囲まれているようになっています。
坂の提案は、女の人のような柔らかな形状の、木造メッシュの建物を提案しました。結果は3等でした。

 

また、こちらはUAE・アブダビの橋です。L字型のコンクリートの型枠を滑らせて同じ断面でずっと伸ばせるという提案です。
またこちらも同じアブダビで、英国の寄宿学校のアブダビ支部を建てるというコンペです。アブダビではさまざまなものの支部を誘致しており、これは幼稚園から高校くらいまでの2000人が学ぶ寄宿学校でした。
一方、こちらは台湾の高雄にあるフェリーターミナルです。与えられたプログラムではターミナルビルがあって、そこに港湾管理局も入るというものです。これも負けました。

 

これら数々のコンペにおいて、坂のおもしろいところは、デザインがいいとか悪いとかに関係なく、道理に外れたことをしないということです。
最初に話したニコラス・G・ハイエックセンターの、勝ったコンペでもそうでしたが、与件が道理から外れていると思ったら、もう積極的にその条件から逸脱するというところがあります。施主サイドが、それなりに考え抜いて「正しい」と考えたプログラムや要項を逸脱するのですから、それだけで失格になるリスクがあります。
もちろん、坂にしてみれば相手の気分を害すためにそうした逸脱をするのではありません。だから、そういう時は、なぜ逸脱したかを説明するのに非常に力を入れます。

 

で、今日の結論めいたことを言いますと、たとえ施主の要求を受け入れなかったとしても、心の底から「こちらのほうがいい」と思ったものであれば、それを提案しています。

 

そして、結果的にコンペに勝っている。逆に、なんとなく受け入れてしまったコンペは、勝てていないような気がします。

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