イベントレポート詳細Details of an event

第80回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN 基調講演
 「リノベーションにより開かれる建築」

2017/10/17(木)開催
講演会/セミナー

AGCスタジオでは2016年に引き続きリノベーション展を開催。2017年のテーマとして「+デザイン」を掲げている。私たちの毎日にデザインという考え方をトッピングすることで、日常の空間をどのようにリノベーションすることができるかを、来場者と共に体験し、検証する展覧会だ。その検証に向けた関連セミナーの第一弾として、松村秀一氏が基調講演を行った。

 


講演者:松村 秀一氏(東京大学大学院 工学系研究科建築学専攻教授)

 

「フロントランナーたちが取り組んでいて現在に通じる動きというのは、もう少し大きなもの、
建築やそれに関連する世界がぐるっと変わっていくような事柄だ」

 

松村 みなさんこんばんは。今日は、リノベーションによる建築というタイトルでお話しします。まず、私とリノベーションとの関係でいいますと、1995年の頃に「団地再生の研究」というものを始めました。今でこそ団地再生はいろいろなところでテーマになっておりますが、当時はまだそんなことは話題になってなかったのです。一方、ヨーロッパでは戦後に建てられた団地が空き家になったり、スラム化し始めたりして、21世紀を前に社会問題になってきており、大きな投資をして再生しようという動きが出ていたのです。その当時、旭硝子さんが『GA』という雑誌、「ガラスと建築」という邦題の雑誌を出しておられて、その特集で「団地再生」を取り上げた記憶があります。デンマーク、フランス、ドイツ、アメリカなど各国の人に状況を書いてもらい、そこから共同研究みたいなものが始まりました。団地再生がどうなっているかについてまとめ、書籍を書いたりもしたのです。それが「既存の建物をどうするか」というテーマに臨んだ個人的な最初の機会でした。

 

それから21世紀に入って、2003年問題というのが日本で言われていました。ご記憶にあるかと思いますが、2003年になると、六本木ヒルズができ、汐留の再開発が終わるなどして東京に大量のオフィス床が新規に供給される、と。それにより、周囲の古い中小オフィスの空室率が一気に高まる、という問題です。2001年からそうした問題が指摘されていましたので、研究仲間や業界の人と一緒に「コンバージョン研究会」というものをつくりました。空いたオフィスを住宅に変えるにはどうすればいいのか、という研究会です。

 

で、ここから今日の本題に入ります。その21世紀の初頭、私たちがそういう研究会をやって、例えばアメリカのシカゴではどうしているか、ということについて発表会などをすると、当時、現地へ見に行きたい、という人が出てこられました。例えば、「東京R不動産」などをやっておられた馬場正尊さんなどです。そういう方々が同時的にリノベーションやコンバージョンについて動きを始められた。一方で、僕らはオフィスをどうしようかと、プロパティマネジメント系統の雑誌やイベント、セミナーなどに呼ばれて行くと、隣ですごい若い人が、オフィスのリノベーションをすでにやっているという講演をされて驚いたのです。僕らはまだ、どうすれば日本でコンバージョンができるか、ということを研究しているところなのに「私はもうやっています」という(笑)。この人は、この業界ではもう名前の通っているブルースタジオの大島芳彦さんでした。先日、NHKの番組『プロフェッショナル』にも出ておられましたね。

 

こういう、今の動きにつながっていく方々が、21世紀の初頭に動き始めていたのです。さらに他にもフロントランナー的な人たちが全国に現れ、そういう人々が出そろったなぁというのが2010年前後です。で、その方々が何を考えて、どうしているかを見聞きして、あるいは一緒に活動することがあったりした中で、「リノベーション」というものの姿が見えてきたのです。今、一般的に用いられているのは、例えばマンションの一室をフルに改装することを業界用語的にリノベと呼んでいるのですけれど、もともとフロントランナーたちが取り組んでいて現在に通じる動きというのは、もう少し大きなもの、建築やそれに関連する世界がぐるっと変わっていくような事柄だと僕はとらえていました。今日は、そういう大きな枠組みの話をします。時代がどのように変わってきたかを振り返りながら話します。民主化という言葉がキーワードです。

 

さて、私は2013年に『建築 新しい仕事のかたち 箱の産業から場の産業へ』という書籍を出しました。これは、そのフロントランナーたちのことを取り上げたものです。先ほどの大島さんとか馬場さんとか山崎亮さんなどのことを取り上げて書いたもので、これを出版した後に、彼らに読んでもらって、全国各地でシンポジウムを開きました。中でも大阪で開いたシンポジウムで、アートアンドクラフトの中谷ノボルさん、この方は設計、請負、不動産流通など幅広い仕事を20世紀の段階からやっている方なのです。そのシンポジウムが始まる前に雑談した時、「先生、今、起こっていることを一言でいうと、民主化ですかね」と言われたんです。僕はそれが感覚的にすぐ分かって「ええ言葉やなぁー」と答えたのです。つまり、専門家や生産者側から提案などを押し付けて、生活者の方がそれを選ぶ、その提案、提供されたサービスを享受するあり方ではなくて、生活者自らがイニシアティブをとりにきている、と。生活者のイニシアティブがどんどん前に出てきている。だから民主化という言葉がしっくりする。そこで、民主化というキーワードから住宅を中心とした建築分野を振り返ってみると、この画像に示すような変遷があると思います。

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