デザインフォーラムレポート

第66回 「新しい建築の楽しさ2015」展 連動企画③「署名されたアノニマス」(1)

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中崎 みなさんこんばんは。司会進行を担当する中崎です。今回は「署名されたアノニマス」というテーマで進めます。まず、青木弘司さん、中山英之さん、吉村靖孝さんにギャラリーで展示している各プロジェクトについてそれぞれ発表をしていただきます。その後、本日のテーマでトークセッションを展開する予定です。では、さっそくですが、青木さん、よろしくお願いします。

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青木 青木です。今日は吉村さん、中山さんと、ご一緒させていただくということで非常に緊張しています。このような特別な機会をいただき、ありがとうございます。さて、「署名されたアノニマス」というテーマは、非常に難しいと思います。まず、この「署名」という言葉の意味は、責任などを明らかにするために名前を記すことですよね。それに対して「アノニマス」という言葉、これもよく聞く言葉ですが、その意味は「署名する」とは正反対に自分の名前を隠す、つまり「匿名する」ということ。つまり対極的な意味が含まれたテーマです。そもそも一般的に設計するという行為は、設計者の名前をクレジットするわけですから、まさに署名に他なりません。だから「署名されたアノニマス」というテーマは、「アノニマスを設計することは可能か?」という命題に置き換えることができるのではないか、と考えました。そして、普段、僕が考えていることは、まさに、この問題と重なります。僕は、吉村さんや中山さんと比べると実践の経験に乏しいけれど、今まで考えてきたことを、いくつかの事例を紹介しながら、みなさんと共有できればと思います。

df66_p1_1.jpg  最初に紹介するのは「調布の家」です。これは2014年3月に竣工したリノベーションの住宅です。そもそもアノニマスとは、一個人の発明によって生まれるものではなく、無数の人為や知の蓄積によって立ち現れるものだと思います。つまり、アノニマスに向かうと、無数の情報を取り扱うことになり、あらゆる雑多なモノを併存させるというような、途方もない設計行為が要求されるわけです。この「調布の家」でも、取り扱う情報を最大化して、入力する変数を圧倒的に増やすということを試みました。これが断面図になります。木造の屋根裏部屋付き2階建て、3層に渡る木造の住宅を一旦スケルトンにして、電気や設備等も含めて一新しています。従来的なリノベーションに比べ、より解像度を上げて、既存の柱や梁、あるいは、家具や調度品などの施主の持ち物、さらに設備機器や電化製品といった雑多なモノも含めて全て等価に捉え直して、それらの関係性を編み込んでいくように設計しました。この時に住み手は、さまざまな無数の関係性を再編し、断続的に立ち現れるシーンとして受け入れていきます。竣工した後も空間が瑞々しく持続していくような、そういう枠組みをデザインできるのではないかと考えました。

 この頃から僕の興味が、段々と人間中心主義的な価値観から手を切り、人間もモノのネットワークの一部に位置付けていくような美学に向かうようになりました。アノニマスを設計するということは、無数のモノ、無数の情報に向かう。無数の情報を取り扱っていくことが求められると思い至り、人からモノへ意識が向いていくようになりました。

df66_p1_2.jpg  一方、これは今計画を進めている「伊達の家」です。北海道の伊達市で設計しています。これが敷地です。構成を簡単に説明すると、鉄骨造のボリュームに折板屋根を掛けて、庭に面した妻面はシングルガラスのカーテンウォールで覆い、道路側は全面にポリカーボネートの波板を張ることで、少し大きな領域を設定します。その内部には、凍結深度の分だけ地面を掘り下げつつ、2層分の木造の軸組を立ち上げ、外側には構造用合板を張って、ボード状の断熱材で包み込むことで、相対的に小さな場所を囲い取ります。ふたつの領域は入れ子を成していて、それぞれ防水層と断熱層を担いながら、これらの中間に位置する土間は、空気層として位置付けられ、外部の環境から居住域を守っています。また、この計画で考えていることは、床や壁、屋根や天井といった建築のエレメントを高い解像度で捉え直すということです。たとえば、壁は木造の場合、柱、断熱材、防水紙、胴縁、外装材、石膏ボードなどの、いくつかのモノが複合して成り立っています。エレメントを、それ自体では意味を成さないモノのレベルにバラバラに解体し、それぞれに求められている役割を与え直していくような編集作業として、建築の設計行為を位置付けたいと考えています。モノに与えられる役割とは、そもそも関係性の中で成立しますよね。先の「調布の家」でもモノとモノの無数の関係性を編み込んでいくように設計することを考えていたのですが、この「伊達の家」では、建築のエレメントをモノのレベルに解体して再構築していく、バラバラなモノの役割に注目して、モノとモノの関係性を再編していく、ということを考えています。なぜ、このようなことを考えているのかというと、そもそも北海道という寒冷地では、外壁やサッシそれ自体の性能を高めていくという方法が一般的です。たとえば、サッシの標準仕様としても、枠は樹脂製か木製で、ガラスもトリプルガラスになっているのですが、そのような "厚い壁" を設けることで、建物の性能を担保するのではなく、日本の伝統的な建築様式に倣い、温熱環境のレイヤーを重ねていくことで、建築を形づくることができるのではないか、と考えたのです。このように考えていくと、そのモノに対して与えられる役割が、建築そのもの自体でもなければ、敷地境界線の内側に留まっているものでもなく、もっと広域の環境の中で見出されていくのではと思います。つまり、人間ではなくモノに向かうことによって、建築を、もっと広域的な存在へと開いていくことができるのではないか、と考えています。

df66_p2_1.jpg  さて、前置きが長くなってしまいましたが、最後に、今回の建築展に模型を出展した「Project M」を紹介します。この建物も北海道で計画しています。用途は障害を持った方々の就労支援施設で、パン工房です。このように一見すると工場のような佇まいなのですが、私は工場というビルディングタイプに関して、改めて考えました。そもそも工場とは、モノを生産するプロセスが見えますよね。それを直接的に建築に翻訳することができないかと考えました。具体的には、(模型の写真を示しながら)この部分がパンを作る工房で、その上部の天井懐は開放されていて、2階の居室から直接見えるようになっています。また、間仕切り壁に関しては、一面は仕上げられていて、その裏面は仕上げられていないので、壁の裏側に回り込むと下地が見えるようになっています。「伊達の家」と同じように、この建築を形づける、あらゆるモノが見えている状態になっています。建築が形づくられていくプロセス(=成り立ち)を、そのまま感じ取ることができるような、そういうことをイメージしました。

この2階に現れる1階の巨大な天井懐は、ある意味では無駄なスペースなのですが、工場とは、そもそも人間が主役ではなくモノが主役になるビルディングタイプですよね。一見こういう無駄とも思えるようなスペースを積極的に再発見していって、モノとモノの関係性から位置付け直していきたいと考えました。

df66_p2_2.jpg 先ほど、あらゆるモノが見えているという話をしましたが、そのことによって、この建築の成り立ちだけではなく、その向こう側に広がる世界の成り立ちにも想像を馳せることができるような、そういう建築の捉え方に可能性があるのではないか、と今は考えているところです。

 署名されたアノニマスというテーマを、「アノニマスを設計することは可能か?」と捉えました。その時、アノニマスは、一個人の発明によって生まれるものではなくて、無数人為や知の蓄積によって立ち現れるような、時間的に開かれたものです。アノニマスに迫るためには、人間が主役ではなく、モノが主役であるような、モノが中心に据えられるような枠組を今一度考える必要があるのではないか、と最近強く感じています。以上です。



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