デザインフォーラムレポート

第26回 これからのキッチンを考える(1)

 

中谷正人氏

 

中谷  モデレーターの中谷です。

本日ご講演いただく佐藤さんは地元の山形に拠点をおいてご活躍なさっています。振り返ると、日本の建築でキッチンが話題になったのは、戦後からのことです。その後、モダンリビングという考え方が広まり、キッチンの機能や意匠について盛んに研究がなされてきました。

今日は、そういう歴史にも触れていただきながら、佐藤氏のキッチンに対する考え方をお聞きし、ご自身が取り組まれた事例を紹介いただきます。

また、キッチンに関する最新のトレンドや世界の状況などにも触れていただく予定です。それでは、佐藤さん、よろしくお願いします。

 

 

佐藤敬介氏

 

キッチンは女の書斎

講演中のスライド

ご紹介いただいた佐藤です。今日はよろしくお願いします。

私は山形県の米沢で仕事をしています。なぜ、山形なのか、というと、もちろん山形でなくてもいいのですが、米沢周辺は、ものづくりの環境として非常に適しているのです。私の事務所から車で20分以内の範囲で、ステンレスやキャビネットなど、キッチンに必要ないろいろなものを揃え、作ることができます。

そんな私がいつもキッチンに関して思っているのは「システムキッチンそのものが過剰な道具になっている」ということです。しかし、本来のキッチンは(システムというよりむしろ)さまざまな調理道具を使って料理する、そういう楽しさが必要と思います。

キッチンという全体ではなく、個別の道具に対する思い入れも大切だろうと考えております。それがあるからこそ、楽しく料理を作ることができると思います。

別の表現をするなら、「キッチンは女の書斎」だと考えています。男には書斎というものがあるけれど、女性には書斎がない。もちろん、女性限定というわけではなく、キッチンは男性も使う場所であっていいのですが、要は、キッチンを書斎に見立てる、そういったコンセプトやテーマを大事にしています。

 

これからキッチンに対する考え方をお話しします。最初に「そんなことはみんな知っている」という定石に触れてから、次に私のキッチンの概念をご説明し、その後で時間が許す限り、駆け足になりますが、スライドも使って事例をご紹介します。

まず、キッチンを計画するに際、最初に考えないといけないのが、クライアントがまっさらな状態で考えているのか、あるいは「これまでのキッチンが嫌だから」と新しくしたいと考えているのか、ということですね。

従来のキッチンでよく見られる現象として、例えば、この絵のように電子レンジが、棚の上の非常に使いにくい、ごちゃごちゃした高いところに置いてあるとか、雑多なものが分散して置かれ掃除が行き届いていない、レンジフードも汚い、とか...。

それから、よくある例として、フキンをキッチンで乾かしているケースがありますね。フキンは、本来、拭くものとしてキッチンにあるべきで、洗濯後はキッチンとは別の場所で乾かしたほうがいい、と考えられます。

また、流しの前や隅のほうに鍋や釜など雑多なものが置かれていたり、冷蔵庫の脇に野菜やビールなどが無造作に置かれていたりなど、こういうキッチンがよくあります。

それから、ゴミ箱をどのようにどこに置くのか、というみなさんが悩まれる問題もあります。

 

 

キッチンにまつわる13の検討課題

そこで、キッチンを作る前に考えるべき13項目を、これはみなさんがよく知っておられることのおさらいになりますけれど、その大事な部分だけをサッと確認しましょう。

一番目は「台所で過ごす時間はどれくらいか?」ということです。また「その台所を使うのは誰か?」という要素も大事です。

そして「その使い方は?」という問題。料理するのを好きな人が使うのか、嫌いな人なのか、料理が上手な人か下手な人か、ということもキッチンのプランと関係してきます。また「何を、どう調理して、どのように食べるか」という要素も大切です。

使いやすいキッチンづくりは全体計画よりも調理道具を選ぶことから始まります。そうなると、食材がどのような状態でキッチンへ運び込まれるか、例えばあらかじめ加工された食品が持ち込まれるのか、あるいはそのキッチンで自ら加工した食品を保存や貯蔵までするのか、それからその場所をどう確保するのか、といったことを把握しないといけません。

次に「収納は柔軟に」考えてみましょう。システムキッチンだけで構成しないことが肝心です。システムキッチンだけで構成できないこともないのですが、それだけではなかなかうまくいきません。これについては後で事例をご紹介しながら論じます。

さらに「ゴミ処理」問題には、これが理想という正しい解答がないことを認識しないといけません。ゴミ処理のやり方は、人の性格によって千差万別です。

そして「給排気」をしっかり意識してプランします。換気扇の選び方や取り付け位置などは、しろうとの考えではなく、プロが責任をもって取り組む必要があります。

最後に、火やエネルギーを扱うのですから、「防火や安全」のことまで確実に配慮しなければなりません。以上の13項目が大事です。時間が限られているので、これらのうちいくつかに絞って細かく話します。

最初の「台所で過ごす時間」について、現代では、その時間がどんどん短くなってきていますね。それを如実に実感させられるのはテレビ番組です。

たいていの料理番組は10分程度、長くても20分以内で終わります。昔、平野レミさんの番組は20分で調理して全部出すということで、彼女が時間との格闘をしていたかのような印象があります。

 

一方、私たちの日常生活だと現在、朝から晩まで最大でも計2時間程度がキッチンで過ごす時間、というところでしょうか。つまり、現代のキッチンでは1日に2時間しかいないところにすごいお金をかけていることになる。そうすると「そんなにお金をかけなくてもいい」と判断する人も現れて、安いキッチンも出てくるわけです。

もちろん、そういうことがあってもいい。なお、下処理から始める(フキやタケノコを採ってきて煮るとか大型魚をさばくなど)場合は、また別の考え方で臨まねばなりません。

昔だと、加工など全部を台所でやりました。流しがあり、かまどもあり、土間の作業スペースがあって、その土間の脇に上がりもあり、その上がりでまた別の作業をするなど、昔の女性はそうやって1日の大半を台所で過ごしていました。

 

最近だとどうなのでしょうか。例えばフォカッチャを作る場合を想定すると、粉を混ぜるところから始まり、途中、発酵で材料を寝かしておく時間を勘案しても2~3時間+オーブンで焼き上げる時間、という程度になりますかね。

そういった時間との絡みで触れると、動線を短く、ということ、動きやすさについて議論があります。私は動線を短くする必要はないと思っています。後で詳しく説明しますが、現在、いろんなショールームとか、インテリアデザイナーや建築家は、キッチン動線の短さを強調するんですよね。それがなぜなのか、本当に必要なのかを後でご説明します。

 

講演中の会場

 

次に大事なこと、まあ、全部大事なことなんですが「台所を使うのは誰か」という問題があります。それによってキッチンのプランが変わる。使う人によってどのような状況が生まれるかを想定しないといけません

男性なのか、女性なのか、大人なのか子どもなのか、単身か既婚か、家族構成はどうなっているのか、高齢者や障害者が使うものかなど、そういった細かな分類も必要です。

 

それと、料理が好きな人か、嫌いな人か、これも大切です。そして、意外と見落とされているのは子どもです。子どももキッチンを使う。分かりやすいところでは、小さい子が背伸びして蛇口から水を注いで飲むこともあるわけです。

私は打ち合わせのときに、近くで子どもが騒いでいてもあまり気になりません。その家がどのようにお子さんに接しているか、どのような考えで育てているかを観察できます。そのお子さんがどのようにキッチンを使うかまで想像できます。

 

それから感覚としてのキッチンがあります。

例えば、その人が美食派かどうか、逆に、まったく食にはこだわらない人か。

また行動としてのキッチン、自分の好きなものは自分で作るという人かどうか、あるいは外で買って来るという人、買って来て盛りつけだけするという人。盛りつけるだけでもキッチンです。

 

 

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