デザインフォーラムレポート

第35回 「新しい建築の楽しさ2013」展連動企画 講演会"公共建築を考える"(3)

中﨑 次はサードパーティーの小池さんから伊豆の国市の伝統芸能会館(仮)について発表をお願いします。

公共建築の大きなテーマとして、最近は複合施設化があります。単機能だと人を呼ぶのが難しく、一方、複合化するほど多目的な方々を集められるし、そこで賑わいも生まれるという意図があるわけです。

今回は伝統芸能と練習場、また観光客向けの施設を複合化させるために、どうやって機能とデザインをまとめられたのかを、お聞かせいただけると幸いです。



小池啓介氏
山本匠一郎氏

 

Thirdpartyの模型

小池 Thirdparty(サードパーティー)の小池です。

伊豆の国伝統芸能会館は、3月のプロポーザルで私たちが選ばれました。その最初の要項として、伊豆の国市の温泉街の再生という大きなテーマがあり、再生を方向付ける条件として、伝統芸能会館をつくる、ということでした。

 

伊豆の国市の温泉街には芸妓さんがいらっしゃるので、その練習場をほしいということがひとつ。また市民の方々による薪能(たきぎのう)が開かれたり、子どもの能もあったりと、市民レベルで芸能が伝承されている地域ですから、その発表の場所も欲しいということでした。それに対して僕らが考えたのは、次のようなことです。

まず、単に練習や発表をするという伝統芸能会館をつくっても、大きな催しを毎日開催するわけではないし、練習や発表は週に1回とか月に数回程度になってしまい、それ以外の日はほとんど使われなくなってしまうだろう。

一方、温泉地の再生に活かすのなら、市民の方々が普段からさまざまな使い方で日常的に利用できる場所であるべきだろう、と。そうやって人の賑わいをつくることができれば、最終的に旅行客や観光客の方々も来て、ますます賑わう、という提案にしよう、ということです。

そこへ向けていろいろなプランニングをしたのですが、実際に市民の方々の意見を聞いていけばプラン自体も変化していくだろうと想定していました。そのために市民ワークショップをするつもりでいたのですが、その際に、僕らとしてのルールを設定しました。それは「木の大屋根に包まれたまちの広場とする」ということです。

この大屋根というのは、あくまでも屋根であって、その下の空間は市民の話し合いによって決めて行きましょう、ということにしたわけです。

 

3月にプロポーザルが終わったばかりなので、今日お持ちしたのは最終審査の時にプレゼンした内容とほぼ同じになりますが、まずその前に伊豆の国市の概略をご説明します。

地理的には伊豆半島の真ん中に位置し、旧韮山町、旧大仁町、旧伊豆長岡町が2005年に合併してできた市です。人口はその合併時の2005年をピークに5万人からゆるやかに減少しています。

建設予定地は、この地図に示すここになりますけれど、このようにお寺や温泉がありますし、韮山反射炉という貴重な文化遺産もあります。これは「明治日本の産業革命遺産 九州・山口および関連地域」の構成資産とされ、世界遺産への推薦が決定しております。

そのような史跡もありますし、建築関係者ならよく知っている重要文化財の江川邸など観光施設にも恵まれています。

 

主要産業は、観光や農業などです。またそういう資源には恵まれていますけれど、合併後の未統合でバラバラな状態もあり、その資源がうまく回転していない側面があります。

温泉も韮山温泉、畑毛温泉、大仁温泉、伊豆長岡温泉などたくさんあるのですが、一部の温泉街は一般観光客向けというよりは、伝統的に男性客中心の歓楽街的な側面もあって、家族連れや夫婦連れが来やすい場所ではなかったので、多少、廃れてきた温泉街という色彩もあります。

 

Thirdpartyのプロジェクト

それに対して我々が提案したのは、まずこの東側に広場をつくる。これは要項に従ったものですが、駐車場と広場の動線に合わせて柔らかい形をつくる、というものです。

この図面で「将来計画地」とありますけれど、これは将来、また別の新しい建物をつくる予定なので「東側を空けておいてください」と注文を付けられていました。そういう予定があるなら、僕らがつくる建物と、将来つくられる建物の間に広場を置き、相互連携を図られるような配置にしておこうと決めました。

この広場は、将来、相互交流の基点となる開かれた空間ととらえ、市民も使うし、観光客も使い、さまざまな目的で訪れる人々が出会う場所にしました。施設の機能としては、例えば通常なら一番重きを置かれるホールを、要素の一つとしてとらえ、ヒエラルキーのないフラットな関係性で機能を配置する計画を立てました。

実際には、この図面のような配置を計画しています。通常、こういうホールは建物の再奥に配置されるものですけれど、例えば地域の子どもたちが遊びに通ってきて体育館的な使われ方をしてもいいと考えました。とにかくホールも普段から使ってほしいのです。

そうすると、ホールは奥まった位置ではなく、真ん中にあるべきという結論に落ち着きます。エントランスやホワイエ、ギャラリースペース、芸妓さんが練習するスペースなどを、そのホールを取り囲むように配置します。動線としても一筆書きでぐるりと回遊できるようにし、さらに各スペースは中庭を介してつながっている。

 

講演する小池氏

また、この裏側は山です。そこに対してすべて開かれ、広場と中庭も一体的に可変利用できるというものになっています。

僕らは、このホールを真ん中に置いたことで例えば中庭とホールと広場を一体的に利用する、またホワイエと一体的に利用する。練習スタジオも中庭を意識することによって中庭と一体化して使うこともできます。

中庭、ホール、広場、舞台や客席を一体的に使い、大きな窓もありますので、山を背景にした薪能を行うといった舞台演出も可能になります。

 

この図面は提案時に例示したホールの使い方です。もちろん、普通の伝統芸能会館として閉じたホールにして使うこともできます。

一方、コンサートの場合は100席程度なので小さいですが、それに対応させて使うこともできますし、後ろのギャラリースペースを使えば、そこから映像を投影して芝居や映画の上映会もできます。

ホール自体は2、3面を解放することができますので、全開すれば、広場まで一体化させた大スペースを利用できます。例えば結婚披露宴やダンスパーティーなど各種パーティーも可能です。

 

それから「農土香(のどか)プロジェクト」という催しの一環として中庭やホール、広場までつなげて、野菜の販促をするなど、産業振興のイベントとして使えます。当初はこうした農作物ギャラリー的なイベント開催などまで求められていなかったのですが、日常的で有効な市民利用を考えると、伝統芸能だけにとらわれないほうがいいと思いました

そのようにいろいろなことができる場所を覆い込む機能を「木の大屋根」だけで設定する、そういう提案だったのです。

大屋根のフォルムは裏に山が控えていますので、それに合わせて緩やかな形状にしています。

 

これがその大屋根の下、内観のイメージです。木に穴をあけて木漏れ日が入って来る、中に居ながら外に居るような感じの空間をつくろうと思っています。構造としては(船底にも使われる)「キール梁」の構造で、鉄骨と木パネルの混構造です。木質連結パネルというものを使います。

伊豆半島では杉の木が採れ、その間伐材が流通していますので、それらを連結して使います。環境や設備に関しては、こうした山型の施設ですから自然換気です。

以上、このような提案をしましたが、これから地元の方々と話をしていくうちに例えば芸能の練習場をもう少し手前にしてほしいとか、これからもどんどん変化して行くと思います。ただし、その時に「木の大きい屋根」というルールだけは大事にしていきます。

実は、このプロポーザルより前に、市町村合併の前から考えられていた総合プログラムというものがあったのです。ところがその時は韮山反射炉を世界遺産に登録しようなどということは考えられていなかったし、伊豆の国市として状況がどんどん変化している。

僕らもプロポーザルに通ったから、これをつくればいい、というのではなく、例えば廃館になっていく温泉旅館のリノベーションや町の活性化など、もっと広いところへ関わりたいと考えています。

この建物ができた後も伊豆の国と関わっていきたい。今、そういう働きかけをしているところです。



中﨑 ありがとうございました。



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