デザインフォーラムレポート

第35回 「新しい建築の楽しさ2013」展連動企画 講演会"公共建築を考える"(2)

中﨑 続いて、川口さんから市原市の美術館リノベーションについてのプレゼンをお願いします。

人口減少と自治体の財政難、そして市町村合併の影響などもあって、これからの公共建築は既存の公共施設をリノベーションするケースが多くなると考えられます。市原市の美術館もそういったタイプのプロジェクトではないかと思います。



川口有子氏
鄭 仁愉氏

 

有設計室の模型

川口 有設計室の川口です。よろしくお願いします。

私からは今年1月にオープンしたばかりの市原湖畔美術館についてお話しします。このプロジェクトは、もともとあった旧美術館のリノベーションです。

リノベーションによる美術館は世界的にもたくさんありますが、その多くの場合は、もともと歴史的に価値の高い建造物であると思います。また、倉庫や工場などの機能的空間を美術館へリノベーションするというパターンもあります。

しかし、今回のプロジェクトは、そのいずれとも違い、もともと美術館ですが歴史的建造物ではありませんし、この写真で分かるように、すごく変わった、ちょっとヘンな公共建築物だったのです。

 

ところで市原市は千葉県の真ん中に位置しています。臨海部は大きな工業地帯として発展してきました。

一方、内陸の、市の南部にあたるエリアは里山や昔からの田園地帯がそのまま残っており、つまりは地方都市によく見られるように過疎や高齢化の問題を抱えている地域でもあります。

当該建物は、この南部地域に位置します。東京湾アクアラインを利用すれば、東京から1時間で来られるアクセスの良い場所であり、ほんの1時間でこんなに自然豊かな里山地域に来られるのが驚きでもある場所です。

市原市は、そういう地域を今後どのようにしていくか考えている中で、このエリアにはアート好きな住民が多く個人でギャラリーを構えていたり、アーティスト活動をしたりしている人も多い、という特殊性があります。

 

一方、旧美術館は1995年にオープンしていて建物としてはそれほど老朽化しておらず、しかしながらデザインに奇妙なところがあり、使い勝手も良くない。美術館として展示をしにくく、公民館の延長みたいな建物でした。そうした現状に対して、アート熱の高い地域なので、きちんとした美術館として再生したい、また、それによって地域の人にもっと有効活用してもらいたい、ということだったのです。

さらには東京からのアクセスの良さを生かして、観光拠点、また情報発信をできる場にしようという狙いがあり、2010年にプロポーザルのコンペが行われました。

 

有設計室のプロジェクト

プロポーザルで求められたのは、美術館としての再生と、今述べたような内容です。それに加え、新しくなる美術館の中でアーティストの方がこの建物のためのパーマネントワーク作品をつくる、という特殊な要望もあり、そうしたことも含め、建築設計として一体化させた案にしてほしいという条件もありました。で、これが私たちの提案書です。

まず、もともとの建物の構造体だけを残して、仕上げや設備を全部取り払ってしまう。そのスケルトンの構造体に「アートウォール」と名付けた新しい壁を挿入して新美術館を構成するというものです。

 

先ほどから、「建築家が手掛けると、その建築家の指向と地域の方や使う人が対立してしまう場面が生じる」という、従来型公共建築の問題点が指摘されていました。今回の私たちも、プラン自体は提案していますが、元の構造体をスケルトンにして、その後をつくっていくという提案であり、それに対して審査員の方々からは「この提案はまだまだ練り切れていないから、もう一度見直すように」という条件付きで最優秀賞に推していただいた経緯があります。

だから、実際の基本設計の段階では、市役所の方やコンペのコーディネートをしてくださった方々から意見を頂戴し、練り直したものになっています。

そういうことなので、私たちが最初に提案したものと、実現したものは多少異なっています。そのような3カ月くらいの基本設計期間、構想を練り直す期間を経て、もう一度審査員の方々に報告会を行った後、実施に至りました。

 

講演する川口氏

ここからはもう一度旧建物の写真をお見せしながらリノベーションの内容をご説明いたします。

このようにもともとRC造の躯体です。外壁には吹き付けの塗装が施され、こういったガラスのカーテンウォールの部分もあります。これらの仕上げを全て剥がして、コンクリートの躯体だけにしました。その状態は非常に風通しが良く、周辺環境に対して開かれた、気持ちの良さがあります。

その構造体に「アートウォール」と名付けた鉄板を壁材として使っております。アートウォールを構造体の中へ入れ込み、展示室や多目的ホールなどの新しい部屋をつくりながら、その壁を挿入することによって新旧2つの建物が混在しているようなつくりになっています。

 

プランで説明しますと、次のようになります。

立地としては養老川を堰き止めて造った高滝湖という人造湖があり、その畔に建っています。建物は図の右下側で接道しています。以前は、この青い色のところに旧建物のメーンエントランスがありました。

しかし、これでは裏から入って行くという印象を受けるので、改修後は、湖に面した芝生の広場がありまして、そこを通って入って行くようにしました。道路から芝生の広場を通り、建物へ入る、そのようなルートに変更しています。

そして昔のエントランスは、従来なかった「搬入口」へと改修しました。この写真がアートウォールと呼んでいる鉄板の壁です。

改修後のメーンエントランスはガラスの箱のようなミュージアムショップを併設しており、芝生の広場と一体化したようなスペースになりました。またエントランスコートには、この写真のようにガラスの屋根がかかっておりましたが、それを取り払い、丸い穴の開いた庇をかけました。6ミリ厚の薄い鉄板製の庇です。ここは空間を活かしたパーマネントワークになっております。


*この後、改修前と改修後の写真および図面を示しながらリノベーション内容を解説している。(略)


さて、先ほど中﨑さんからご指摘があったように、それほど老朽化していなくても、使いづらくなった建物を抱えて困っている自治体は多いのではないかと思います。また今後もそうした施設が増えて行く中で、財政緊縮や少子高齢化が進む社会状況から、まっさらな公共建築を建てる機会は非常に限られてくると考えられます。

このプロジェクトでは、元の構造体に手を加えずに、建物のイメージと、外観および内観まで全て一新することができましたし、動線計画もきちんと改良できました


これはコンペを通じて実現したものですが、市原市や審査してくださった方々との共同作業が非常に上手くいったことで、とりあえず成功した、「成功」と言い切るには今後長い時間を経た評価が必要ですが、そういう一つの可能性を感じていただければと思います。


中﨑 ありがとうございました。



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