デザインフォーラムレポート

第35回 「新しい建築の楽しさ2013」展連動企画 講演会"公共建築を考える"(1)

中﨑隆司氏


中﨑 モデレーターの中﨑です。

今日は「公共建築を考える」をテーマに、3組の方々が実際に設計された公共建築について、それぞれプレゼンテーションをしていただき、その後、トークセッションをします。

これまで公共建築は、顧客のルールに沿ってつくる、あるいは建築家のルールによってつくる、といういずれかの傾向が強かったように思います。ところが、これから発表いただくプロジェクトでは、実際にそこを使う方々の意見を聞きながら、使う人のルールと建築家が考えるルールをうまく融合させたものだと感じております。

まず、髙橋さんからお願いします。



髙橋一平氏


髙橋一平建築事務所の模型

髙橋 こんにちは、髙橋です。よろしくお願いします。

今日は最近できたばかりの建築、東北の震災復興として関わった保育所のプロジェクトをご紹介いたします。

まず、七ヶ浜町というのは仙台市から北東方向の海辺の半島に位置する街で、航空写真でみますと、この半島全体が七ヶ浜町です。写真の上側が松島です。

プロポーザルが2011年11月でした。今年の4月に竣工しましたが、復興による建設ラッシュの影響で完全でないところも残っており、ようやくこの夏頃に完成形に近づきつつあります。今日は、最新の写真をお見せしながらご説明いたします。

 

この写真の手前にあるのが運河です。震災時にこの運河が津波で増水し、保育所を建てた高台の際まで来たと伺いました。

写真のここに建てるのですが、周囲は住宅街で、ここだけ自然が残っています。

 

これが模型です。こういう背の低い、高さが2.5mくらいの平屋の建物が、庭をぐるりと取り囲むようにして各部屋が構成されています。庭が1100㎡くらいで、その外側の屋根のある部分も同じく1100㎡です。

都心の保育所と比べればかなり広く、子ども1人当たりの面積が都内の施設に比べ10倍くらいあります。地域住民も参加するイベントや、災害時の避難場所など多目的に使うことも想定されており、広めにつくられています。

 

講演する髙橋氏

こちらがプロポーザルの時に出したパースです。

建物自体は低くそれほど目立たず、庭の印象が強く残る、そういうプランを最初に提案しました。考え方としては、これまでは保育所を含め公共建築というと、どかんと大きなパビリオンのような堂々としたものが、これまで平穏だった環境の中に立ちはだかって「新しく建物を建てた」という出来事そのものも主張してしまうように感じます。それに対し、七ヶ浜町が海を含めた周りの自然環境がとてもきれいな場所だったこともあり、あまり立ちはだからないものをつくってはどうか、ということで始めました。

どちらかというと公園をつくるようなイメージで、その公園のような空間の周囲に保育所がある、というような考えで設計しました。

 

プロセスについてご説明しますと、震災復興という性格もあり、使う人も参加して設計者とみんなでつくる。使う人の意見を聞いて、七ヶ浜の人々が一緒になってつくるプロジェクトでした。いわゆるハコモノをつくるのとはちょっと違うモチベーションが現地にもありました。

設計者の立場としては、これまでの経験では、最初に強いアイデアがあり、それに対していろいろな意見が出て、その意見が設計コンセプトと逆方向であった場合には、抵抗したくなったり、説得しようとしたりして、そのようなストレスを抱えながら理想に向かう姿勢で取り組んでしまいがちでした。

しかし、今回は被災地なのでそういうやり方が道徳的にも許されるものではないし、クライアントの要望が作品性を維持する上で妨げになる場面もあるのですが、ここでそんなことを考えてしまうと、設計者である僕が邪魔をする立場になる可能性が大いにあったのです。

他方、公募プロポーザルを経て「復興のシンボル」をつくることが責務でした。復興事業として、作品性も必要なのです。

だから、僕の意向も使う人々(クライアント)の意見も同時に満たしていくのが理想だと考えておりました。それに向かっていくためのシステムづくりが重要と考えました。

そこでまず、こういうプランを出したのです。「ロの字型で建築をつくり、庭を先にヴォイド(=秩序)としてつくる。僕の中でその庭の周囲はどれだけ混沌としていても構わない」ということにしました。そうすればなんとなく全体性が生まれるだろうと思いました。

 

完成した保育所

それと、ふつう設計者は、専門的な説明とクライアントへの説明を2種類用意することがありますが、今回それは行わず、とにかく要望を集めていき、それをどんどん盛り込んでいくと建物の形が変わっていく。1人の設計者による設計では予期していなかった、予定調和的ではない空間体験を可能にする。

もちろん、その要望を全て取り入れていたら必ず作品性が破綻してしまうことにもなりかねないわけですよね。

例えば、ある問題について国民投票で決めるとします。でも本当にそれだけ(住民の要望)でこの先いいのかどうか、住民の立場では目先の損得や、自分たちなりに将来を予期する一方で、専門家にしかない先見と判断が必要なのに、批評精神が邪魔をして住民たちも専門家を信用し切れなくなりがち、という問題も出て来ますよね。

専門家が自分の意見を押し殺してしまうと専門領域が萎縮してしまいますし、そうしたことも考えるのが専門家の役割で、それと同様に建築家にもあるのだろうと。

今回は、そういった住民投票的な要望も入ってくるのですが、最終的には、この町の歴史の一つのシンボルとしての要件を保たねばならない。そういう倫理的な事も考えながら取り組みました。

ただし、僕としては要望が入ってくるほど作り手として興奮するような、予定調和ではない、いびつになるほど建築としておもしろくしていく、という体験をしました。プロポーザルの時から、設計期間は実務的な作業を含め5カ月くらいしかなかったのですが、その間に900くらいの案をつくり、要望に対応しました。

 

平面図で説明しますと、こちらが入り口になっています。

また、こちらが給食室で、上から見た形状では少し飛び出していますが、これは万一、火が出た場合を想定してこの場所にこの形で設計してあります。

またこれは先生たちが休む場所で、「子どもの喧噪から少し離れて過ごすことのできる」場所にしています。

 

外壁はステンレスの薄い板を接着剤とリベットと呼ばれるビスで固定しながら貼っています。敢えて、きらきら、ギラギラするような素材を選びました。

木材で仕上げられる保育園はよく見ますし、そういうものを選ぶと平穏無事なのでしょうけれど、子どものための建築なのに、もしかすると大人だけのイメージで優しい印象というものを勝手につくっているだけではないか、本当にそれで良いのかと思いました。

また、外観だけがシンボル的な印象となるこれまでのパビリオン的考え方に違和感がありました。このプロジェクトでは、きらきらした外壁が、最初のアプローチに少し既視感の無いショッキングなものを見て、気持ちをニュートラルにしてから中へ入っていくと緑が多く子どもが遊んでいる公園みたいな庭が広がっている、という風にしてシンボル性を体験的な印象として捉えました。

ここがラウンジです。ベンチがあり、近所のお年寄りなどが休んで入れるように考えています。公園の東屋のような場所です。


*この後、写真を使いながら建物の説明が続く。「地域のホールとしても使われる遊戯室」「入り口が複数あること」「躯体は鉄骨造であること」「通路が主に園庭に面した半野外の通路と、寒い時期に使う室内通路の2つを配していること」「畳の部屋があること」「食育のためにガラス張りの調理室があること」「地域の祭りイベントが中庭で行われていた時のこと」など建物と人の様子を詳しく解説。(略)



中﨑 ありがとうございました。



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