デザインフォーラムレポート

第20回 「新しい建築の楽しさ」展連動企画 講演会"関係性をつくる"(3)


渡邉健介氏


「創和グループリビング」について

渡邉  先ほど紹介いただきましたように、私は、6人の高齢者が一緒に住むシェアハウス、ここでは「グループリビング」と呼んでいますが、そのプロジェクトについてお話しします。

まず、これは初期の頃のイメージスケッチです。6人の高齢者が集って住むというときに、個人の間や場所との間に、あるいは個室や共用空間との間に、どのような関係性を持たせるといいのか? というまさに今日のテーマと重なることをずっと考えさせられる仕事です。

これがパブリックスペースです。ダイニングですね。

一方、こちらは個室がつながったような空間で、なんと呼べばいいのかわからないのですが「とも部屋」という表現をしています。Aさん、Bさん、Cさんのプライバシーがずるずるっとつながったような半個室空間です。


ご理解のために、まずプロジェクトの背景を説明します。
福祉法人の代表であるお施主さんからは「高齢者の共住生活に適った構造の住居」という表現で要望を伝えられました。後になって、その表現や言葉を「なるほど」と思ったのですが、「自立した個人が、各自でできることで互いに助け合って生活する」ということを目指しています。
つまり、体が弱ってから施設に入るということではなく、今たまたま6人は単身者ですが、中には連れ合いを亡くされた方もいますし、ずっと独身だった方もいらっしゃいます。そういう方々がある程度元気なうちに、できること、できないことを持ち寄る。そしてこの施設として何らかのサービスを行うのではなく、介護など公的、私的なサービスは各自で受ける、という条件を前提にしています。

今は女性6人ですが、例えば夫婦で入ってもいいのではないかという検討もしています。各人の選択にもよりますが、基本的にこの家で最期を迎えると希望されていて、そのように自立する6人が生活する「終の住処」です。
この表は、プライバシーの問題から正確な年齢ではありませんが、AさんからFさんまで構成メンバーの年齢をシミュレートしてみたものです。パーマネントの住処でありそうで、実はそうでない。時間が経つと亡くなる方が出て、入居者がどこかで入れ替わる。
日本の平均寿命は現在、男性が80歳弱、女性が86歳強ですが、スタートして10年、15年もすると、6人の構成員はかなり入れ替わる。一番下にKWのイニシャルがありますけれど、それは私です。私もあと35年するとこの方々と同じ年齢になる。つまり、高齢者の方々を対象に考えているけれど、実は自分の切実な問題としても考えているわけです。終の住処、パーマネントであるけれど、居住者が入れ替わる、テンポラリーである、という状況や関係性を、どのように考えるか、どのような空間で応えるか、が私の課題です。

考えた設計プロセスを紹介します。私も初めてだったので、過去の事例を参考にしながら、専有部分と共有部分のあり方が課題になるだろう、と思いました。居住者のみなさんが共通の玄関を通って共用のリビングや水回りがあり、寝るだけの個室がある、というのはいわゆる「施設型」ですね。
また、ある程度自立した個室があるけれど共用のリビングやキッチンもある、というのが「半自立型」。
一方、基本的に自立した住まい機能が個室にあるが、それに加え共用部分もある、というのが「自立型」という3つの分類をしまして、それらのうち、依頼されたグループリビングはどれに当たるだろうと話し合ったら、だいたい中間の「半自立型」であろうという方向性になりました。

次に、いろいろな建築プランをリサーチして、何がどの程度のスペースをとるか、という個室ユニットの機能をスタディしました。それを経てから、平屋案や2層案、平面で細かいゾーニングするなど提案してみて、方針を探るということをしました。
結果的に、いくつかのブロックを考え、その組み合わせでいくのがいいだろうと思いまして、ブロックのつなぎや重ね合わせを考えてみました。その結果、このイメージ図に示すように、固い部屋の連続ではなく、もう少しゆるやかで柔らかな個室空間の重ね合わせがいいだろうという方針が出てきました。

このスタジオのギャラリーに展示した模型は、3人のプライバシーを緑、黄色、青の各個人領域に分け、その重ね合わせの模型です。個人の顔が見える、色の濃い部分とお互いの色が混じり合った、プライバシーが重なる部分が、一連の連続空間の中で混在しています。

そして「とも部屋」の入り口から死角に当たる部分を個人の領域として確保しています。これは初期の頃の1ユニットのプランですが、奥に各自のベッドがあり、各自のトイレがあります。水回りもあって、共用部分からズルズルとそれぞれの場所に入り込んで行くというものになっています。ただ、お互いの顔までは見えないつくり、見たくない場合はカーテンで仕切ることも考えています。

このような「とも部屋」をいかに展開するかで、さらにスタディを加えていきました。


例えば、これは6人の部屋が全部つながったタイプです。また次に3人ずつのユニットへと2分割し、それを廊下でつなぐ案も考えましたが南北に分かれるような強い分離が出て来たので、それはやめました。
そしていまスタジオに展示しているような案にたどり着きました。これが平面図です。
「とも部屋」と呼んでいる3人のユニットが2つあります。そしてこちら側のエリアには風呂や予備部屋を置きました。予備部屋というのは、例えば介護など外部からのサービスを受ける場合、そこにヘルパーさんに泊まっていただくとか、それこそ本当の最期の時に在宅の医療サービスを受けたり、痛みを和らげる緩和医療を受けたりするための部屋になります。

それから、これは視線のつながりを見せるためにつくっている図です。それぞれの個室の奥は「とも部屋」の入り口からは見えないようにつくってあります。トイレやベッドの顔の部分は空間がクランクしていて見えません。
中央の部屋にいる人に対して、両脇の2人がシェアするところまで入ってきてしまう場合は、オープンなままと、カーテンを閉じてプライバシーを守る、という使い分けもできます。基本的に空間としてはつながっていますが、排泄と寝顔について、他人からの視線を受けないつくりになっています。
以上ですけれど、ここに示したのはあくまでも高齢者シェアハウスの1つの可能性に過ぎず、今後、社会が変化するとさまざまな可能性が出てくると思います。
最近は若者の間でシェアハウスが広がっており、そういう世代が高齢化して人生の最期を迎える頃になると、こういう発想はより有効になるかもしれません。そういう社会の動きに対して、私たち建築家は個性のある提案を行うのが大切で、それが社会のストックとして蓄積されればいい、選択肢の1つになっていけばいいと思いますし、私としては可能性を感じているところでもあります。


中崎  ありがとうございました。会場からのご質問はありますか?


来場者  個室がすべて対等でないところもありますよね。それは意図的なのですか?


渡邉  完全な対等関係をつくろうと進めてはみたのですが、3人の場合、真ん中に位置する人は両脇の人に対して開いた部分が出て来て、視線的にもズバリ見えてしまう部分は確かに出てしまう。
ただ、真ん中の人はカーテンで仕切ると実は自分のプライベート空間が2人よりも広くなります。そういうこともあってもいいかと判断しました。真ん中の部屋には両脇の人をうまくつなぎ止めるタイプの人が収まるのではないでしょうか。
みんな個性が違い、1つ1つの関係性が少しずつ違うはずで、そこは入居者たちで選択すると思います。


来場者  以前勤めていた事務所で情緒障害児向けの施設をつくった経験があります。渡邉さんはかなり細かいところまで計算されてデリケートなプロジェクトをよく考えておられると感じました。
ただし、私の経験からしても、どんなに計算を尽くしたところで、取りこぼしてしまう要素があるだろうと思うのです。単純な要素では持ち込む素材や個人のバックボーンが違うはずで、それについて、どう考えられたのですか?


渡邉  最初の入居者にとってはコーポラティブでしたが、徐々に人が入れ替わると確かに賃貸住宅という側面も出てきますね。そして70年~80年生きてこられた方々が、どのようなバックボーンを持って入居なさるのだろうということもかなり議論しました。たぶん大半が連れ合いを亡くされ、それまで大きな家で住んでこられて、モノもたくさん持っているだろう、と。
その福祉法人のクライアントさんと話し合った結論は「そういうものを一切捨ててくるような人でないと、入居しないだろう」ということです。シェアという価値観を提示して、それに共感できる人だけが入ってくる。だから収納なども小さめになっています。
もちろん違うタイプのシェアハウスがあってもいいわけで、ここではこういう住まいを提案しようということなのです。
私は、建築家は、空間構成までしかできないと考えています。関係性は、あくまでも利用者が持ち込む要素で、ある空間を提供して、それが利用者によってはオフィスになったり、住宅になったりする。建築家はなるべくドライに努めて、入居者の方々が持ち寄ったもので家になれば、それでいいと思うのです。


末光  シェアという形態はいま注目を集めていて、それが高齢者というのは非常に興味があります。ただ、敷地等の条件もあると思うのですが、6人という高密度の構成はとても強烈ではないか、と。もう少し多い人数、例えば50人とかの可能性は考えられなかったのですか?


渡邉  この案件では、敷地や予算という最初の条件が決まっていたわけですけれど、確かに人数に関しては議論があると思います。この案件で最終的に6人に落ち着いたのは、その人数の方がやりやすいという判断です。
例えば2人、2人、2人の計6人にするのか、3人、3人、3人の計9人にするのか、という可能性もあるわけですけれど、10人くらいになると施設としてのルール決めが必要になってくる。でも、6人くらいならルールは住んでいる人の多数決で決められる。
またその6人の構成メンバーが変わっていくなら、ルールも新しく変えていけばいいだろう、と思えます。
もちろん、さまざまな人数とタイプのシェアハウスがあっていいので、選択肢とバリエーションを様々に提示するのがいいと思います。

末光  例えば6人であっても、もう少し社会に対してオープンなもの、入居者が同じ目的で活動するなどの、そういうアクティビティがあってもいいと思うのですが?


武井  私も6人の関係性と、その6人が外部に対する関係性という面について気になります。


渡邉  同じようなグループリビングで有名なところがあります。そこは10人程度の施設で、例えば地域に開いた共有サロンがあったり、ワークショップをやっていたりします。そういう事例もリサーチしたのですが、この案件ではそこまで必要がない、という結論になりました。
もともと、この施主さんは精神障害者の社会復帰などに力を入れてこられた方で、そういう人たちの受け皿にもなりたいということを考えておられる。また社会的弱者と地域の関係について、いろいろと難しい状況もご存知です。この案件では、将来、生活保護を受けていらっしゃる方がメンバーとして入る可能性も考慮してあります。
確かに地域に対してどう開いていくか、という問題はあると思うのですが、この案件ではアクティブに解放していく必要はないだろうと判断しています。


中崎  ありがとうございました。

数年前に若い建築家のプロジェクトで同じように関係性に関する議論をしたことがあります。そこで出てきた問題の中に、精神科医の方からは「弱者にはアルコーブが必要で、何かあった時に身を隠せる場所が施設の中でも必要なのです」という切実な指摘がありました。シェアハウスは様々な年齢層で話題になってくるでしょうが、今後は、単にシェアすることよりも、シェア空間の質が問われ始めるのだろうと思います。

今日は長い間、どうもありがとうございました。


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